イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

「ファン・ハール激怒」「アーセナルの負傷者減少」…日本の記事からは伝わらなかった報道の真意!

海外配信の記事を紹介する日本のサッカー専門メディアを見ていて、ときどき残念に感じることがあります。大きく分けると2タイプあり、「安易な表現により事実をねじ曲げてしまっているもの」と、「重要なポイントが抜けているために、読む人に伝わらなかったり、誤解されてしまうもの」です。最近でいえば、前者はファン・ハール監督関連の記事です。マンチェスター・ユナイテッドの指揮官がヴィクトル・バルデス退団について「彼はわれわれの哲学に背いた」と語り、デ・ヘア移籍の進捗について「知らない」といった会見について、いくつかのマスコミが「激怒」「爆発」「力説」という表現を使っています(映像を見て自社で翻訳しているメディアはフラットに「説明」と記載)。しかし、これらの報道は、不必要な言葉を挿入したために、現場の状況やコメントのニュアンスがまったく伝わらない記事になってしまっているのだと思います。

10分強の記者会見の映像を見ると、ファン・ハール監督はヴィクトル・バルデス退団の理由について記者を諭すように淡々と語り、デ・ヘアのほうは「答えられない」とした後には、笑顔まで見せています。質疑の最中に「stupid(愚か)」「rubbish(くだらない)」という言葉を使っていますが、これは質問に対して肩をすくめながら発したもので、石原慎太郎さんあたりが「キミね、そんなバカなことは聞くもんじゃないよ。いつも言ってるだろ?」と記者をあしらっているような雰囲気、といえばニュアンスがわかっていただけるでしょうか。ファン・ハールさんの態度が尊大で、歯に衣着せぬ厳しい物言いをすることが多いのは確かですが、「激怒」「力説」という形容については、バルデスとデ・ヘアについて語った内容が内容だけに、マン・ユナイテッドの現場責任者をフォローしたいと思います。彼は、感情的になってヴィクトル・バルデスを非難したわけではありませんし、デ・ヘアについても「移籍交渉の進展については、そもそも原則的に答えられないし知らないよ」といっただけです。

さて、もうひとつの残念な記事のタイプは「元の記事にある重要なポイントが抜けてしまっているもの」ですが、こちらで最近、いちばん気になったのは、イギリス紙「デイリー・ミラー」のアーセナル関連の記事です。「Arsenal improved their injury record by 25% in a year – this is the American coach who helped them do it(アーセナルは、アメリカ人のコーチに助けられ、年間の負傷者記録を25%改善した)」と題された記事は、非常に興味深い内容なのですが、日本では以下のように紹介されていました。

「アーセナルは、プレミアリーグ2014-15シーズンにおける負傷者の離脱日数を1834日に減らした。これは、2013-14シーズンの2472日に比べて25%減少となる。ここ5シーズンの平均である2047日よりも少ない」

うーん…。記事全体の趣旨は、2014年夏にアーセナルに来たシャド・フォーサイスさんというアメリカ人のトレーナーが新しいエクササイズを導入したことにより、筋肉系のケガの離脱総日数を20%減らすなどのめざましい改善をしたというおもしろいものなのですが、上記の数字を出されたら、こんなツッコミを入れたくなるアーセナルファンも多いのではないでしょうか。

「いちばんひどいシーズンと比べてどうする」
「昨季プレミアリーグにおける負傷の総回数62回は、マンチェスター・ユナイテッドの66回に次ぐ2位で、まだまだ多いじゃないか」
「いちばん多い年を除いた平均と比べれば微減で、偶然かもしれない。効果があったとはいえないのではないか」

これは、ツッコミに一理あり、ですね。2013-14シーズンは、負傷総回数86回。コシールニー、サニャ、アルテタ、ウィルシャー、ラムジー、ディアビ、カソルラ、ウォルコット、チェンバレン、ニャブリ、ヤヤ・サノゴ、ポドルスキ、ふう。これだけの数のメンバーが続々とケガに見舞われ、主将だったヴェルマーレンはプレミアリーグ21試合出場にとどまった「悪夢の1年」です。この年と比べてよくなったといわれても…というのがサポーターの感覚でしょう。なぜこうなるかといえば、「デイリー・ミラー」が着目している大事な数字が語られていないからです。この記事の最重要ポイントは、「プレミアリーグ2014-15シーズンの後半戦になって改善効果が現われ始め、ネガティブな数字が激減した」ことなのですから。

⇒前半戦の負傷総日数は、過去の平均値よりも高い1109日。ところが年明け以降は725日にまで減っており、筋肉系のケガの回数は24から11に半減
⇒シーズン序盤の負傷者の多さについては、「ワールドカップの影響」を挙げており、ジルー、エジル、ドビュッシーなどブラジルに渡った選手の長期離脱がありました。ヴェンゲルさんは、「ワールドカップから帰ってきた選手のフィットネスと精神的な疲労が想像以上にひどかった」と振り返っています。

この数字を見れば、納得感が上がります。後半戦の数字を年間に引き延ばせば、1500日を切っているのですから。しかもこれには、ディアビの離脱日数が入っているわけで、2015-16シーズンはフルシーズンを棒に振るような重傷者が出なければ、年間1300日台まで数字が下がる可能性があるのです。昨季プレミアリーグで負傷の総回数43回のチェルシーと同等まで改善すれば、ガナーズサポーター悲願のプレミアリーグ優勝も視界に入ってくるのではないでしょうか。件の記事では、「最近は、チャンピオンズリーグ圏内の4位争いに留まり首位争いをしていない」と語られているアーセナルですが、これまた私は「つい1シーズン前の2013-14で、2月に首位だったのはどこでしたっけ?」とツッコんでしまいました。あれだけのケガ人を出しながら、年間で最も長い期間を首位で過ごしたのはヴェンゲル監督のチームでした。来季はスタートから「フォーサイス効果」が見込めるとすれば、モウリーニョ監督と互角に渡り合っても決して不思議ではありません。

「デイリー・ミラー」の元の記事には、ワールドカップ2014ブラジル大会でドイツ代表に帯同していたフォーサイスさんの詳しい紹介と、彼が導入したエクササイズの専門的な解説がありますので、英語ではありますが興味ある方はぜひ、読んでみてください。この記事は、最後をこう結んでいます。

When Wenger arrived Arsenal in the late 1990’s he propelled the club to the forefront of sports science. The rest caught up and the Gunners seemed to lose their way.Almost two decades later, they could be about step ahead of their English rivals once more.(16 JULY 2015 Daily Mirror)

「ヴェンゲルさんがアーセナルに来た1990年代の後半より、彼は最先端のスポーツサイエンスを推進しました。ところが、他のクラブに追いつかれると、ガナーズは迷っているようにみえました。しかしあれからほぼ20年後、彼らはもう一度ライバルたちに先んじたステップに辿りついたのです」。…ベテランの指揮官で自らのスタイルを確立しているにもかかわらず、ケガの予防と治癒を真剣に考えて大きな変化を志向したヴェンゲルさんをもリスペクトしているのですね。

私がこの稿で伝えたかったのは、わが国のマスコミ批判ではなく、「ファン・ハールさんやヴェンゲルさんを伝える日本の記事をみて、”不必要に”ネガティブになることはないですよ。判断の是非はともかくファン・ハールさんは冷静であり、アーセナルの負傷者改善は明らかに進んでいます」ということなのです。日本のメディアは、毎日さまざまな記事を届けてくれており感謝してはいるのですが、ときどきおかしい記述や言葉足らずが感じられることがあるので、私は毎日のように、原文や映像を辿って「裏取り」をしています。みなさんが今後のニュースを読み解く際の参考になれば幸いです。

おもしろい!と思っていただいたた方だけで結構です。スポンサーリンクの下にあるブログランキングバナーをクリックしていただけると励みになります。今後とも、応援よろしくお願いいたします!

おもしろいと思っていただけた方は、お時間あれば、下のブログランキングバナーをクリックしていただけると大変うれしいです。所要時間は5秒です。何とぞよろしくお願いいたします!


“「ファン・ハール激怒」「アーセナルの負傷者減少」…日本の記事からは伝わらなかった報道の真意!” への6件のフィードバック

  1. a より:

    非情に興味深いです。裏付け? 裏取り? をするのは大事なことだとわかっていながら、いつも面倒くさがるので、管理人さんのまめさに感心させられました。
    思わず最後のバナーをクリックさせていただきましたw

  2. furabe より:

    いつも楽しく拝見しております。ブログに感化されてか、ここ3年続けてプレミアリーグの試合を見に行ってしまったくらいです。
    今回の記事も大変勉強になりました。

  3. ゆうま より:

    アーセナルサポ的にも年明け以降フィジコを変えた効果を感じました
    ジルーやエジルは予定より2週間ぐらい早く全体練習に復帰してきましたし
    離脱者が一人にまでなりましたが、最終盤に入って怪我人ががどっと出たのは
    残念でしたが。

    ウォルコットも復帰してから試合で起用されるまで結構な時間がかかりましたが
    その御蔭もあって良い形でシーズンを締めくくられてので結果OKでした。

    頭の硬いベンゲルもこの結果に気を良くして、より一層フォーサイスの助言に
    耳を傾けてくれるようになると有難いです。

  4. Macki より:

    更新ご苦労さまです。大変勉強になります。確かに日本の記事も細かいところから幅広く現地記事を訳して配信しているので、手軽に情報を得られることができ助かっておりますが、和訳にすることによりニュアンスが変わり、とり方によっては意味が変わってくることもありますね。

  5. makoto より:

    自分も記事の裏取りをするのをめんどくさがり、ほんのたまにしかしません。
    今回の報道もそのまま鵜呑みにしてしまっていました。
    自分が利用しているサッカーアプリで、レアルがカシージャス放出してカシージャス獲得って間違いがありましたが、そのくらいの間違いじゃないと気づけません(笑)
    今回のは完璧に間違いというわけではないですが、もう少し印象が変わらないようにしていただきたいですね。
    あとメディアに対する感謝の気持ちが自分には足りないな〜とも感じました(^_^;)

    —–
    aさん>
    ありがとうございます!

    furabeさん>
    おお、素晴らしい!今季はレスターを見るのも楽しそうですね。

    ゆうまさん>
    ヴェンゲルさんは、フォーサイスさんに全幅の信頼をおいているようです。今季は昨季の前半のようなことはないのではないでしょうか。

    Mackiさん>
    元のニュアンスや、いわんとしているところを理解して記事にしてもらえれば、ですね。

    モウさん>
    表現ひとつで、ずいぶん印象が変わりますからね。荒れがちな掲示板のコメント欄の何割かは、不必要にネガティブな会話になってしまっているのではないかと思います。

  6. とーます より:

    ちょくちょく拝読させていただいております。
    自分がフォーサイス効果だと思っていることは、負傷者が復帰したときに離脱前よりもパフォーマンスが向上していることです。エジル、ジルーは特に帰ってきた時に力強くなったように感じました。ウィルシャーもシュート力が上がったように感じます。
    非常に個人的かつ裏付けのない意見なのですが。

a へ返信するコメントをキャンセル