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「クロップありきだったロジャースの最後」…地元紙記者が語る、ちょっとせつない解任の裏側

「SOCCER DIGEST Web」が、リヴァプールの地元紙「リヴァプール・エコー」の名物記者、ジェームズ・ピアースさんの談話を紹介しています。題して、「ロジャース解任とクロップ招聘の舞台裏」。この記事を読むと、リヴァプールのロジャース監督解任は、5年にも及ぶユルゲン・クロップ監督への片思いが成就した結果であり、前監督が歩いたプレミアリーグ4年めの旅路は、茨の道だったことがわかります。

ピアース記者のお話を要約しましょう。「ホジソン監督とダルグリッシュ監督解任時に、いずれもクロップ監督にオファーしていたが断られていた」「次善手として選ばれたロジャース監督の雲行きが怪しくなったのは、今季プレミアリーグ4節、内容が悪く0-3で完敗したウェストハム戦」「決定打は、サポーターの信頼を失ってしまったことと、クロップさんが監督業を再開する意向があるという情報が入ったこと」。シーズンを前にロジャース監督がクビにならなかったのは、適切な後任がいなかったから、もっといえば「クロップさんのOKが得られなかったから」であり、プレミアリーグ8試合消化という中途半端なタイミングで解任が決定したのは、その逆の理由ということになります。なるほど。それぞれ合理的であり、イギリスメディア「テレグラフ」が報じていたトム・ワーナー会長のコメントともぴったり符合します。

「私たちは長い時間、彼(=クロップ監督)のことを考えていた。サッカーを知っている人は誰でも、彼が飛び抜けた力を持つ監督だということはわかっている。選手のモチベーションを高められる指揮官だ。クロップと話すと、彼のヴィジョンとリヴァプールがやろうとしていることが共通していると感じられた。それは、とても魅力的で攻撃的なサッカーだ。短期的に過度な期待をしないでほしいと彼はいったが、選手たちは彼の采配に応えてくれると期待している」
「過去のことは、あまり話したくないが、ブレンダンの最後のコメントは非常にエレガントであり、私たちはブレンダンを深くリスペクトしている。任命したときは、彼がリヴァプールにとって適切な監督と考えていた。昨季は非常にいい時期もあり、そうでない時期もあった。ブレンダンには改善の機会を与え、彼がほしいといった新しい選手も獲得した。素晴らしい監督だったが、私たちは別の方向へ進むと決断したということだ」(トム・ワーナー会長)

違う視点から見れば、ブレンダン・ロジャース監督が生き残るためには、レッズサポーターを熱狂させる圧倒的な力を見せ、プレミアリーグの上位につけて「今、監督を代えるなどということはありえない」という世論を醸成しなければならなかったわけです。新戦力が多く、チーム作りにパワーがかかるなかでは厳しい条件ですが、ロジャース監督に同情するのは筋違いでしょう。私たちが見ているサッカーの世界は、ドライでシビアな世界なのだと思います。3季前のプレミアリーグ得点王で、直近のシーズンでも10ゴールを挙げている世界屈指の選手をトルコにすげなく放出してひとまわり年下のストライカーを獲得したり、優勝監督が序盤戦に4つ負けただけで、クラブが支持声明を出してマスコミを沈静化しなければならない、そんな世界です。ましてや、クラブとサポーターの疑念を呼んだのは、昨季最終盤に失速し、ストークに6-1というセンセーショナルな敗戦を喫したロジャース監督自身です。ファンは、「やむなし」「だが、しかし」というような相反する複雑な気分を抱いて、最後まで毅然として戦った前任者の背中を見つめるしかありません。

マンチェスター・ユナイテッドサポーターとして、レッズファンをうらやましいと思うところがあります。ロジャース監督は、プレミアリーグで首位を走り続けた2013-14シーズンの激闘で、サポーターに素晴らしい夢と興奮をプレゼントしてくれました。そしてまた、ジョーダン・アイブ、ロシター、フラナガン、ヘンダーソン、コウチーニョなど、若き指揮官と一緒に成長を遂げた未来ある選手たちという財産も残してくれています。対してマン・ユナイテッドは、サー・アレックス・ファーガソンの後を継いだモイーズ監督が1年も経たないうちにクラブを去ることになり、残った混乱を収束すべく、現在も立て直しの真っ最中です。前監督に「おつかれさま」とはいえても、「ありがとう」といえる材料は残念ながらありません。

若手にチャンスを与え続けたロジャース前監督が撒いた種は確実に芽を出しており、クロップ監督の立つスタート台は、決して低いところにはありません。将来、サポーターのみなさんが、指揮官がトロフィーにキスをする姿を観たとき、「ブレンダン、今日のジョーダンを観たかい?」(ヘンダーソンかアイブかロシターかは、適宜都合よく変換してください)と心のなかでつぶやき、前監督への感謝を表せるのは幸せなことだと思います。

ピアース記者は、「リヴァプールのようなビッグクラブが、後任が決まってないのにプレミアリーグ開幕からわずか8試合で監督を解任するわけがないだろう?月曜日にも発表できたけど、あえて木曜日まで4日空けたのは、ロジャース在任中にクロップとのコンタクトがあったのを露骨にしたくなかっただけだよ」とまでいっています。クロップさんの代理人のコザック氏は「実際の連絡は解任後」といっておりますが、あのスピード感からは記者の言い分にリアリティが感じられ、やはり、せつなさを禁じえません。イングランド主催・ドイツ協賛の「クロップ大歓迎祭2015」の最中、いろいろ考えさせられる記事に出会い、ふと思ったことを書かせていただいた次第であります。希望の光はひと筋も差していなかったにも関わらず、なりふり構わず勝ち点1を獲りにいったマージ―サイドダービーで観た、ロジャース監督の必死の表情を思い浮かべながら。

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“「クロップありきだったロジャースの最後」…地元紙記者が語る、ちょっとせつない解任の裏側” への7件のフィードバック

  1. abc より:

    もちろんある程度クロップに目処がたったがための解任なんでょうね。ただロジャースでは先が見えなかったので仕方がないですね。

    なんといってもロジャースは守備構築ができませんでしたから。3年かけてこれでは言い訳できませんし、例えCL権が取れたとしても、CLでは結果は残せなかったでしょう。ベンゲルがいい例えですね。

    ロジャースは人間的に尊敬できますし、まだ若いので、今回の失敗を生かして名監督になってほしいです。

  2. 実はグーナー より:

    ホントに無念
    僕は良い監督だと思ってます
    柔軟性がないイギリス系監督が多い中でダイヤモンドや3バックを採用したりモダンで違いを感じ迷走じゃなくちゃんと意図も見えました
    ロジャーズが望んだ通りにクラブが足元下手な鈍足CBの問題を解決すれば事は上手く運べたはずでスアレスが抜けて以降の補強で前線と中盤と後ろの選手のタイプがバラバラになってしまいかなり難しかったと思います
    ただこの経験は大きなプラスでしょうし頑張って欲しいですね

  3. nyonsuke より:

    更新ご苦労様です。
    とても興味深い記事ですね。
    リバプールがいつ頃からクロップ監督に接触していたか、それは公にはならないでしょうがFSGがリバプールをどのようなチームであるべきと考えているかその方向性が今回の件で垣間見れたと思います。
    ロジャース前監督がひとつでもトロフィーを獲得していれば現時点での解任はなかったでしょう。
    FSGの経営面にシビアな意見もありますが、FSGもリバプールといのは熱いファンがいて常にタイトル争いを求められるチームであることを理解しているように思います。
    キャラガーが熱弁していた通りだと思います。
    その上で経営とクロップ監督招致のタイミングから今回の交代劇となったと自分は思います。
    ロジャース前監督にとっては悲しい結末でしたが、リバプールとクロップ監督にはロジャース前監督が蒔いた種を実らせてほしいです。
    そしてロジャースさんはリバプールで得た経験を次のクラブで開花させてほしいですね。

  4. makoto より:

    abcさん>
    そうですね。いろんなことができる監督なので、いま一度中堅クラブをまかせてもらえたらおもしろいのではないかと思います。

    実はグーナーさん>
    レッズは、ロジャース監督に最大限の機会を渡しつつ、機をみるに敏で意中の監督を招くという難しい立ち回りを何とか実現したのではないかなと思います。納得しているファンのほうが多いのではないでしょうか。

  5. makoto より:

    nyonsukeさん>
    タイトルとファンの声が大きかったようですね。コンセプトを最重要に置きつつ、ジャッジの基準としてこれらを考慮するあたりは健全だと思います。

  6. Macki より:

    更新ご苦労さまです。
    ロジャーズ時代の収穫は書かれている通り若手の成長だと思います。これはチームには大きな財産だと思います。翻ってDFはメディアやOBを通じて補強必須の指摘がされていたにも関わらず、改善することができなかった点は残念でたまりません。
    今シーズンハマーズにホームで0-3の完敗とユナイテッド戦の戦意なき敗北はひびきました。
    例年後半になるとチームが盛り返してくる傾向でしたが流石に今回はだめでしたね。
    良い監督ですので復活して欲しい監督です。

  7. makoto より:

    Mackiさん>
    続けていれば、巻き返しはあったかもしれませんね。たら・ればですが。

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