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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

速く、しっかり、妥協なく。チケット値上げを撤回したリヴァプール経営陣の泣かせるメッセージ

アンフィールドに足繁く訪れるリヴァプールサポーターのみなさんは、うれしかったでしょう。ジョン・ヘンリーオーナー、トム・ワーナー会長、マイク・ゴードン社長は、「77分の抗議」を断行したファンの声に応える決断をしました。プレミアリーグ25節、対サンダーランド。来季以降の最高額チケットの値段が59ポンドから77ポンド(約1万3000円)に値上げすることを発表したクラブに反対の意を表明すべく、77分、「You’ll Never Walk Alone」に続けて「もうたくさんだ」とチャントを歌ってアンフィールドを後にしたサポーターは約1万人。2-0で勝っていたチームは、ここから追いつかれて結局ドロー。レッズはライバルのエヴァートンにかわされ、プレミアリーグ9位に後退しました。

これが2月6日の出来事ですので、クラブは5日間で難しい判断に漕ぎ付けたことになります。2月11日、リヴァプールの公式サイトとFacebookページには「Principal Owner John W Henry, Chairman Tom Werner and President Mike Gordon have tonight issued the following message to Liverpool supporters」と題されたメッセージが掲載されました。「Dear Liverpool supporters,」で始まるメッセージには、素晴らしいクラブをフットボール界の頂点に導くために収益を増やすのであってオーナーの私腹を肥やすためではないこと、メインスタンド増築の目的、値上げに至った経緯などが綴られており、最後にはサポーターに対する謝罪のメッセージとともに、チケット値上げの取り下げについて具体的に語られています。これを読んで、思ったことが2つあります。ひとつは経営陣の対応の素晴らしさ、そしてもうひとつは、経営陣が選んだ道の厳しさです。

今回のリヴァプール経営陣が素晴らしかったのは、対応の速さ、きちんと謝罪したこと、「サポーターを大事にしたい」という思いが込められた変更案に妥協がなかったことです。メッセージには「メインスタンド増築に1億2千万ポンドを投入したのは、より多くのサポーターにアンフィールドで試合を観てもらうためであり、入場料収入が増えれば巨大なスタジアムを持つ他クラブの収益に近づける。それによって、より強いチームを創ることができる」とスタジアム改修と値上げの目的について明確に書かれており、これを以て「だから何とかガマンしてください」という話に持ち込むこともできたはずです。しかし、オーナーサイドはそれを選ばず、サポーターの意を汲む道を進みました。5日間で経営計画の見直しをし、具体的なチケット価格とレギュレーションに落とし込むのは大変なことで、スタッフは満足に眠れなかったのではないでしょうか。クラブ側にも理はありながら、謝罪のメッセージには明快に「私たちは間違っていた」と記されており、サポーターへの思いが込められた素晴らしいものでした。

「16/17シーズンのチケットの値段については、サポーターの皆さんの代表からなるサポーターズ委員会のメンバーと話し合いを重ね、協議をしてまいりました。その中で、最優先の課題となっていたのは、スタジアム周辺に住む地元のサポーターの皆さんと、年齢の若いサポーターの皆さんにとって、良心的な金額となるようにすることでした。さらに、地元の子供たちや、経済的に余裕のない方でも試合を観に行けるようにすることでした。(中略)
一部のチケットを値下げしたり無料にしたりする一方で、一部のチケットを値上げすることも提案させていただきましたが、新しく増築される部分からだけでなく、既存の席からも増収が見込める案となっていたという点について、私たちの考えは確かに間違っていました。
イングランドのフットボール界において最新のスタンドとなる座席の座り心地や使い心地が大きく改善されること、そして、経済的に余裕のない方でも買いやすいチケットを用意すること、さらには、私たちがメインスタンド増築のためにすでに1億2千万ポンドを使っていることを考えれば、プレミアリーグの試合のテレビ放映権料による増収があるにしても、一部のチケットの値上げは妥当であろうと考えていたのです。

ですが、その考えは間違いであることに気づきました。

多くの方は、最も高いチケットの値段が77ポンドになることに大変なショックを受けていらっしゃいました。また、既存の席のについては値上げしないでほしいという要望もいただきました。
皆さんからのご意見、ご要望は、しかと受け止めさせていただきました」
(リヴァプール公式Facebookページより日本語訳のメッセージを抜粋。原文ママ)

以下の変更案における妥協のなさも見事です。こういうときは、徹底してやらないと、口先ばかりのお詫びと受け取られてしまいます。

■対戦相手によって値段が変わる「カテゴリー」廃止。チケットの共通価格化
■チケット収入による増収はゼロ。メインスタンドに増築される座席による収入を除けば、
 プレミアリーグ2015-16シーズンのチケット収入と同等にする
⇒最高値チケットの値段は59ポンド据え置き、最高値シーズンチケットは869ポンド据え置き
⇒最安値シーズンチケットは25ポンド値下げし、685ポンド
⇒その他シーズンチケットも、すべて従来と同額か値下げ
⇒2016-17シーズンのプレミアリーグのすべての試合に、9ポンドのチケットを用意
 (1シーズンに計10,000枚)
⇒教師から推薦された地元の子供たちに、1シーズンにつき1,000枚の無料チケット配布
■上記プランはプレミアリーグ2017-18シーズンまで適用。
 この2シーズンはチケット収入による増収を見込まない

私がシーズンチケットホルダーなら、「私たちは、ファンの皆さんと一緒にクラブの成功を分かち合いたいのです」という言葉で締められたこのメッセージに、号泣してしまいそうです。速く、しっかり、妥協なく。自分たちの計画を誤りだとジャッジした後の対応は、ピッチの上ではミスからシュートを打たれた回数がプレミアリーグ1位であるクラブとは思えない完璧なものでした。

さて、一方で、チケット増収は見込まないと言い切った経営陣は、欧州で既に7位となっているコマーシャル収入をさらに増やすべく営業強化したり、選手の売買で利益を出すなど、他の方法で収益を得なければなりません。先に「経営陣が選んだ道の厳しさ」と書いたのは、さらなる売上を創出する難易度に加えて、リヴァプールはサポーターに対して「お金がないから補強できなかった」「戦力に投資できなかったから負けた」といえなくなったと思ったからです。夏の移籍市場では、今までの反省をふまえて適切な補強をし、無駄なコストを排除しなければなりません。経営陣がサポーターから真のリスペクトを受けるのは、満員のアンフィールドでクロップ監督と選手たちがトロフィーを掲げた瞬間でしょう。勝たなければいけない。勝ってください。リヴァプールの姿勢に感銘を受け、ぜひともタイトルを獲得してほしいと思った次第です。

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“速く、しっかり、妥協なく。チケット値上げを撤回したリヴァプール経営陣の泣かせるメッセージ” への3件のフィードバック

  1. リバサポ より:

    更新ご苦労様です。
    経営陣の動きが早かったですね。危機管理が行き渡っている点はさすがFSGですね。この動きはポジティブに捉えたいと
    思います。(訳文ありがとうございました)
    チケット収入を考慮しないとは、かなり退路をたっている感じを受けますが、FSGのメンツは考えているんでしょうね。
    チームやサポーターに対して一番の喜びはやはりタイトルを掲げることですね。
    今度こそ夏の補強は無駄なく適切なコストでの動きを期待します。

    —–
    チケットの値上げをしないということで、ここからがオーナー陣の腕の見せ所ですね。
    まだまだ、フットボールに関しては経験が浅くても、スポーツビジネスに関してはプロですからね、ここから収益を着実に上げて貰えれば、言うことなしです。

  2. nyonsuke より:

    更新お疲れ様様です。

    私はまだアンフィールドへいったことがないファンですので、この問題にとやかく言えないですが、サポーターの声を受け止めることができるチームはやはり魅力的です。
    リヴァプールのファンでよかったと思い、これからも応援していきたいです。
    FSGは茨の道であり、選手を売ってしまうこともあるでしょうが、サポーターと一緒に闘う姿勢があれば理解も得られるでしょう。
    いつかアンフィールドへ行きたいです。

  3. makoto より:

    Mackiさん>
    早かったです。メッセージが秀逸でした。

    リバサポさん>
    テレビ放映権料がUPするので、スポンサーを増やして余剰戦力をそれなりの価格で売れればオッケーですね。クロップ監督初めての夏に注目したいと思います。

    nyonsukeさん>
    この姿勢が、アンフィールドの素晴らしい雰囲気を作っているのですね。リヴァプールは、古きよきイングランドらしさを失っていないところが好きです。

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