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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

届かなかった栄冠、見えなくなった未来~ブレンダン・ロジャース監督への惜別の言葉

2015年10月4日、ついにブレンダン・ロジャース監督が解任されました。3年4ヵ月に渡ってリヴァプールの指揮を執っていた42歳の若き指揮官にとって、最後の試合となったグディソン・パークでのマージ―サイドダービーは、解任が既に決まっていながら必死に戦っていた試合だったと知ると、せつなさがこみ上げてきます。

思うようにゴールが奪えず、プレミアリーグのノリッジ、キャピタルワンカップのカーライル、ヨーロッパリーグではスイスのシオンと、勝たなければいけない格下のチーム相手に先制しながら追いつかれて1-1のドローに終わってしまい、打開策は見出せていませんでした。プレミアリーグのラストゲームも、ダニー・イングスが最初のゴールを決めたものの、前半終了直前にルカクにやられてしまい、またも1-1で決着。ただし、この試合が他の3つと違ったのは、ロジャース監督は勝ちにいかず、何としても敗戦だけは回避したいという采配を振るっていたことです。彼のなかには、この試合に敗れるようなら解任を覚悟しなければならない、しかしここを乗り切れば未来はある、という思いがあったのではないでしょうか。ところが現実は、そうではありませんでした。リヴァプール経営陣が考えていたのは、ロジャース監督続投の是非ではなく、ロジャース監督解任の時期だったのでした。

彼の足跡を振り返ってみましょう。39歳だったブレンダン・ロジャースのリヴァプール監督就任は、「彗星のように」という言葉がぴったりのジャンプアップでした。プレミアリーグで指揮を執った経験は、わずか1シーズン。11位でフィニッシュしたスウォンジーの美しいパスサッカーに、ロジャース監督の才能を感じさせられたものの、どこまでがパウロ・ソウザとロベルト・マルティネスが築いた礎で、どこからが彼の積み上げによるものかはわかりませんでした。当時のリヴァプールは、クラブの買収問題に端を発した混乱期から抜け出せていなかったとはいえ、チャンピオンズリーグを5回制しているクラブとしては英断です。しかも、彼は試されたわけではなく、長期的な強化を担う男として白羽の矢が立ったようでした。当初の私は期待と疑念が半々で、本ブログで苦言を呈してコメント欄でたしなめられたこともあります。しかし、続けて観ていくうちに、ロジャースさんは見どころある監督であり、リヴァプールをプレミアリーグのトップクラブに復活させられる人物だという思いを抱くようになりました。

7位、2位、6位。彼が走った3季のプレミアリーグの順位です。アッガー、キャラガー、ジェラード、グレン・ジョンソンと実績ある選手が次々とクラブを去り、チームの攻撃を牽引したスアレスとスターリングを失った監督としては、素晴らしい奮闘だったと思います。手探りの初年度は上位クラブに勝てず、7位に甘んじましたが、引退したキャラガーを継ぐ軸としてシュクルテルを蘇らせた2013-14シーズンのプレミアリーグでは、最終盤まで首位を走りながらの準優勝。このシーズンを、「スアレス頼みで監督は何もしていない」という向きもあるようですが、私はその意見には与しません。ルイス・エンリケやグアルディオラに、「メッシやスペイン代表の中心メンバーがいれば勝てて当然。彼らに功績はない」とは誰もいわないはずです。結果が出た年は、すべからく監督の労はねぎらわれるべきだという思いがあるのに加え、このシーズンのレッズは「SAS(スアレス・アンド・スタリッジ)がいたから優勝に迫れた」とはいえたとしても、「SASだけだった」などと批判されるチームではなかったからです。

ホセ・エンリケ離脱の後にフラナガンを抜擢し、コウチーニョとヘンダーソンに適切な役割を与え、スターリングを大きく成長させたのは、ロジャース監督のお手柄でしょう。前シーズン、イヴァノヴィッチに対する噛みつき事件で10試合にも及ぶサスペンデッドを受けた傷心のスアレスを、過去最高水準の31ゴールというプレミアリーグ得点王に導いたのも、監督の人間力があってこそと称賛したいと思います。このとき、プレミアリーグのタイトルを獲得していれば、功績を考慮されて現在のレベルの不振は許容されたかもしれません。やはり、監督も選手も経験不足だったのでしょう。在籍が長いキャプテンのジェラードですら、プレミアリーグ優勝はありませんでした。チェルシーに足をすくわれ、最後は自ら速度を落としてしまったチームが残念でなりません。

昨季は補強に失敗し、ストライカーが8点しか獲れないひどい状態ではありましたが、ロジャース監督は何とかチャンピオンズリーグ出場権が見える状態で、春までは踏ん張っていました。12月から3月まで3ヵ月無敗を続けた彼らは間違いなく脅威だったのですが、マンチェスター・ユナイテッド戦に敗れたことをきっかけに、突如別のチームに変貌してしまいました。ラスト9試合を2勝2分け5敗は、優勝監督ながら解任説まで飛び出した現在のモウリーニョ監督を下回る大失速。これがたたっての6位、ここから夏をまたいでも這い上がれずの解任劇でした。ファーガソン監督の下でコーチ兼任でクラブを支えたギグスのように、精神的支柱だったジェラードをクラブに残せたら、また違っていたのではないかと思わずにはいられません。

「成績不振で解任」という報道がありましたが、3勝3分け2敗の10位は4位と勝ち点3差、2試合あれば首位と並べるギャップしかなく、問題は成績そのものではないでしょう。問われたのは結果だけでなくサッカーの中身、過去の履歴ではなく未来への展望だったのではないでしょうか。2季連続で大型補強をしたにも関わらず、ロジャース監督のめざすサッカーが見えなくなってしまったことを、経営陣は懸念したのだと思われます。その理由が、「彼が望む補強ができなかったから」なのか、他の事情でコンセプトを見失ってしまったからなのかは、もはやわかりません。継続性の象徴だったヘンダーソンの離脱は痛かったでしょう。いや、個別各論はここではやめましょう。いえるのは、ロジャース監督の勝負の年がどうなるのか、その結末を見届けることがないままに、私たちは別れを告げなければならなくなったということだけのような気がします。

ロジャーズ監督には、おもしろいサッカー、エキサイティングなシーズンを見せていただいてありがとうございましたと申し上げたいと思います。結果が求められるプロスポーツの世界に「たら・れば」はないといいますが、最後ですから、少しだけいわせてください。私は、あの年だけは、リヴァプールのプレミアリーグ優勝が観たかった。そして、SASを擁するロジャース監督のチームが、チャンピオンズリーグでどこまで戦えるのかを観たかった。しかしそれも、今となっては遠い過去の夢のお話です。無念です。

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“届かなかった栄冠、見えなくなった未来~ブレンダン・ロジャース監督への惜別の言葉” への9件のフィードバック

  1. ジョーダン より:

    いつも楽しんで見ています。
    ロジャーズ監督の目指すサッカーは大好きでしたが、SASのときと比べ試合への期待度は急降下していました。そういったファンも多いのではないでしょーか。

  2. makoto より:

    ジョーダンさん>
    SASがあまりにも眩しかったのと、昨季の補強失敗がそうさせてしまったのでしょうね。ここ半年は、残念な状況だったと思います。

  3. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    ダービーはドローでしたが、気持ちのこもったゲームだったので続投かと思ってました。
    が、既に解任が決まっていたとなると最後マルティネス監督と笑顔握手していた姿が本当に切ないです。私はロジャーズには希望を持っていた1人でした。ラファで欧州を制覇した後、ホジソン-ダルグリッシュと厳しい時代を過ごした者としてはロジャーズのスタイルは新鮮でした。ダルグリッシュの時代から始まったと思いますが、若手選手を引き上げチームを作ったことは、チームの財産になっており今は苦しいですが、今後に期待を抱かせます。
    とは言っても結果が全てのプロの世界、昨シーズン終盤から始まったと不調を打開できないまま今を迎えてしまい残念な形となりました。
    彼には本当に夢を見させていただきました。ラファの時も2位がありましたが、ロジャーズ時代の方が興奮しました。本当にお疲れ様でした。そしてありがとう!

  4. プレミアリーグ大好き! より:

    いやSASだけだったよ…
    あれでプレミア制せないなんてロジャースにしかできないよ…
    過大評価だった典型的な監督です。

  5. ヒロ より:

    個人的に、スアレスが去った後のチーム作りに失敗したのが痛かったと思います。スアレスがいずれいなくなるというのは理解できた話ですが、その後に課題だった守備の悪さを最後まで改善できなかったのが解任劇の遠因になったと思います

    希望通りの選手が獲得できなかったという話も出ていましたが、今年になっても変わっていないのは一体どういう練習しているんだ?という疑問がつねにありましたからね

    やはり、守備がダメなチームは国内でも国外でも勝てないと言うのを痛感させられた監督でした

  6. makoto より:

    今季は何から何まで迷走してたとはいえ好きな監督だったんで 切られるのは寂しいです
    プレミアには残ってくれるんですかね?
    スウォンジー時代のサッカーがまた見たいです

    —–
    Mackiさん ヒロさん>
    2年めまでの若手抜擢には、可能性を感じましたね。ヒロさんがおっしゃるとおり、ポストスアレスをもう少しうまくやれていれば、今季はともかくマン・ユナイテッドが不安定だった前季は、プレミアリーグ4位に滑り込むぐらいのところまでは狙えたのだと思います。

    プレミアリーグ大好き!さん>
    現在からの逆引きではなく、当時の状況をフラットに見るべきではないかと思います。キャラガーがいなくなったリヴァプールには、絶対的なレギュラーCBがおらず、期初のシュクルテルとアッガーは、多くの評論家から不安視されていました。優勝候補に挙げっていたのは本命マンチェスター・シティ、対抗チェルシー、次がアーセナルで、リヴァプールを4位候補にも挙げる人が少なかったのは、守備の人材不足を懸念する声が多かったからでした。そのなかで、軸となるまでにシュクルテル(7ゴール!)を復活させ、フラナガンを抜擢して、失点は多かったものの何とか勝てるチームにしたところは、ロジャース監督を素直にほめていいと思います。SAS以外で50点近く獲っているチームなので、中盤の構築に成功したのも大きかったでしょう。

    私も含めてですが、ファンや評論家は、若いロジャースさんに「いい監督になってくれれば」と「期待」したのであって、過大評価まではしていないのではないでしょうか。その後の2年で守備の人材を獲得したにも関わらず強化できず、評価を下げてしまったのは、他の方の指摘しているとおりだと思います。とはいえ、これからの方ですので、どこかで復活していただければと願っています。

  7. makoto より:

    シティズンさん>
    私も同じ気持ちです。プレミアリーグならどこでしょうか。彼のスタイルを考えると、おもしろいのはストークあたりですが、まさかのサンダーランド⁉いや、さすがにないですよね…。

  8. nyonsuke より:

    いつも楽しく拝見してます。
    私はレッズですがmakotoさんはマンUサポなのにとてもフラットな目線でブログを書いていて、一サッカーファンとしてとても魅力的なブログかと思います。
    今回もロジャース解任に関してとても深いコメントで感激しました次第です。
    私もロジャースにはベニテス政権以来の期待を胸に応援していましたが、残念な結末でした。
    キャラガー、ジェラードとリバプールを象徴する人がいなくなっていく中で新しいリバプールがどうなっていくか見届けたいと思います。
    奇しくもマンUもファーガソン政権以降、建て直しの時期が続いていると思います。
    お互いいいライバル関係でプレミアが盛り上がっていけばと思います。
    次期監督が決まったら記事を載せてくださいね。
    楽しみにしています。

  9. makoto より:

    nyonsukeさん>
    ありがとうございます!まだ若い監督ですので、10年後に大きくなって戻ってきてくれたりしたら、盛り上がりますね。

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