イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

モウリーニョとクロップ…指揮官としての器の大きさを感じさせる2つのエピソード。

昨日、レスターに2-1と勝利し、FAコミュニティシールドを制したマンチェスター・ユナイテッド。英語版のクラブ公式サイトには、「United in the Community. WINNERS 2016」というアイコンが飛び交い、プレミアリーグ開幕前だけに許された、束の間の祝勝ムードに染まっています。そんななかで、ジョゼ・モウリーニョ監督が冷静に試合を振り返りました。新指揮官は、この時期ならではのコンディションでタイトルを獲得できたことが大事だとコメント。マルシアルやイブラヒモヴィッチは1週間しかトレーニングしておらず、チームはファンタスティックではなかったと認めつつ、フェライニのミスはピッチがスローだったために起こったものと説明しています。誰が見ても弱かった痛恨のバックパスを、ピッチに水が巻かれていなかったからと軽やかに済ますあたりに、チームに尽くす選手はしっかりフォローする部下思いのモウリーニョさんの姿勢が窺えます。

「昨季の優勝チームを相手にいいプレイができた。カンテの代わりにキングがプレイしていたことを除けば、同じメンバーのチームだったね。レスターの選手たちは自らのプレイを理解しており、とてもオートマティックだ。対して私たちは、変化のプロセスのなかにいる。監督が変わり、何人かの選手が変わり、プレースタイル、プレイに対する理念を変えているところだったから、勝ててよかった」。継続性が高いプレミアリーグ王者を称賛しつつ、自らのチームも徐々によくなっていくと語ったモウリーニョ監督は、チームを3年ぶりのタイトルに導いた前任者へのリスペクトも忘れませんでした。

「私はミスター・ファン・ハールに感謝しなければならない。彼がFAカップに勝ってなければ、私たちはここにいない。クラブ、選手、ファン、そして自分自身のためにトロフィーを獲得することはできなかったんだ。私ではなく、ファン・ハールがFAカップで優勝したからこそプレイできた。ミスター・ファン・ハールはこの勝利の一部であり、おめでとうといいたい」(ジョゼ・モウリーニョ)

いちサポーターとして、モウリーニョさんのこの言葉はうれしかったです。プレミアリーグでは最少失点、FAカップを制覇しながらも、ゴールをなかなか奪えない消極的なサッカーが非難されたファン・ハール前監督は失意のうちにマンチェスターを去りましたが、タイトル獲得と若手育成の功績は評価すべし。2年間の苦闘は決して無駄な歩みではなく、たとえモウリーニョさんがプレミアリーグ制覇を果たしたとしても、礎を築いた前監督が貶められるべきではないと考えていたからです。先制ゴールを決めたのがリンガードだったことも含めて、非常にいい勝利だったとあらためて感じました。ゾーンディフェンス、積極的なサイドアタックなど、自らのスタイルをインストールしようとしている新監督には、ラシュフォードやリンガード、フォス=メンサーなど若手のさらなる成長とプレミアリーグ優勝をダブルで実現していただければと期待しています。

モウリーニョさんがファン・ハール前監督をリスペクトした2日前、8月6日に行われたバルセロナ戦後のクロップ監督の会見が話題になりました。質問しようと手を上げた「ザ・サン」の記者に対して、ドイツ人指揮官はコメントを拒否したのです。

「私は『サン』の質問には答えないことにした。理由は、明日かあさってにはわかるだろう。あなた個人には何もない。でも、あなたは『サン』紙の記者という立場でしょ?ならば、私は話さない。ここにいるのは構わないが、私と直接話はできないと思ってほしい」(ユルゲン・クロップ)

リヴァプールの監督が「ザ・サン」の記者の質問をシャットアウトしたと聞くと、真っ先に思い浮かぶのは「ヒルズボロの悲劇」です。1989年のFAカップで、観客96人が亡くなった事件について、「ザ・サン」はリヴァプールサポーターの乱暴な振る舞いが原因と一面で大々的に報道。この非難については、後の調査で警備スタッフが安全対策を怠り、事故後の対応も不適切だったためと覆され、「ザ・サン」も謝罪しているのですが、長年仲間を糾弾され続けたレッズサポーターはタブロイド紙を許しませんでした。彼らが起こしたキャンペーン「Don’t Buy The Sun」は今も続いており、今回のクロップ監督の発言は、このカルチャーを尊重したものなのではないかという見方が一部にあったようです。

しかし、真相は違いました。0-4完敗と、バルセロナ戦のゴールをすべてマインツにプレゼントしたゲームの後、クロップ監督は、「ザ・サン」に話さない理由はデヤン・ロブレンに対するプライバシー侵害にあると説明したのです。

「私は、どんなに有名人であっても侵害されるべきではないプライバシーがあると考えている。侵害があれば、それに対する反発も当然あるものと思う。よのなかには800万もの新聞があることに思い当たり、その中のひとつと話をしなくても、何の悪影響もないだろうと思ったんだ」(ユルゲン・クロップ)

デヤン・ロブレンの件について簡単に紹介すると、奥様の浮気が発覚したロブレンが、子どもの未来を案じ、家族の関係修復に努めるべくユーロ2016の代表招集を拒否して家族旅行に出かけたというお話です。「ザ・サン」は、ロブレンの家族と浮気相手のプロフィールや写真を掲載しており、レッズの監督はこれを見て、わが選手を守るべく抗議の姿勢を示したのでした。さすがクロップ。男気があります。ロブレンはうれしかったでしょう。この監督のためなら、できることは何でもやるとテンションが上がったのではないでしょうか。自らを飾らず、正しいと思ったことを即座に行動に移す監督ならではのエピソードです。

モウリーニョさんの気遣い、クロップさんの侠気に心を動かされ、紹介させていただいた次第であります。器の大きさを感じさせる両監督と選手たちが、1年後に何らかの栄冠を獲得し、歓喜の輪を築いていることを祈っております。素晴らしい!

おもしろいと思っていただけた方は、お時間あれば、下のブログランキングバナーをクリックしていただけると大変うれしいです。所要時間は5秒です。何とぞよろしくお願いいたします!


“モウリーニョとクロップ…指揮官としての器の大きさを感じさせる2つのエピソード。” への6件のフィードバック

  1. YVG より:

    1617シーズンのプレミアはこの2つの赤いチームが主役になると確信しています。

  2. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    二人ともタイプは違いますが男気溢れる監督ですね。今シーズンのダービーが楽しみです。ファンハールは監督時代叩かれまくってましたが、結果次世代をしっかり残しましたよね。やっぱり凄い監督だなとレッズファンながら改めて思います。

  3. nyonsuke より:

    更新お疲れ様です。

    両者とも男気あふれる監督ですが、チームを強くすることに関しては手段を選ばないモウリーニョと、あくまで明るく理想を具現化するクロップ、というイメージがあります。
    私はもともとクロップ監督のファンでしたので、レッズに来てくれたことは震えるほど感激してます。
    モウリーニョさんは、勝利のためには非道な采配を取ることもあるのであまり好みではないですが、勝利こそ全てはある意味正しいと思います。
    ロジャース前監督が来る前は、モウリーニョさんのような監督がレッズには必要かと考えたこともあり、ジェラードが唯一移籍を考えた監督でもあります。
    やはりモウリーニョさんはスペシャル・ワンなのでしょう。
    今季のダービーが楽しみです!

  4. グッチ より:

    更新お疲れ様です。ファン・ハールさんは焼畑農業の如き監督で、目先の花より強い土地をどのチームでも残していきますね。そこに一流の庭師が入ったのは恐ろしい限りだと思います。
    ロヴレンの件は初耳でしたが、クラブのカルチャーに会う兄貴分クロップが、リヴァプールをファミリーとして引っ張ってくれるのは心強い限りです。

  5. おはむ より:

    ファン・ハールは強豪クラブではし難い若手育成を行いかつ、育成結果を出す、素晴らしい監督だと思います。

    マンユー手強いチームになりそうですね。

  6. makoto より:

    YVGさん>
    同感です。レッズもマンチェスター・ユナイテッドも背骨を強くする補強をしましたよね。

    Mackiさん>
    ファン・ハールさんは、タイトルの数と補強で使ったお金の相関では「コストパフォーマンスがいい監督」なんですよね。若手の能力を見る眼など、やはり一流だなと思いました。

    nyonsukeさん>
    モウリーニョさんがファーガソンの直後に来ていたら、私も「震えるほど感激」だっただろうなと思います。クロップさんとレッズは、最高に近いタイミングで出会いましたよね。ダービーはよろしくお願いいたします。

    グッチさん>
    ファン・ハール→モウリーニョの流れはよさそうですね。クロップさんに心酔する選手がこれから続々と出てきそうです。

    おはむさん>
    ファン・ハールさんは、周囲の評判やマスコミの声に振り回されず、わが道を歩ける監督でした。とにかくブレないです。

nyonsuke へ返信するコメントをキャンセル