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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

最後のクラブにFAカップとラシュフォードを残して…ルイス・ファン・ハール、ついに引退!

After a 26-year career in coaching, Louis van Gaal has retired(監督として26年のキャリアを経て、ルイス・ファン・ハールがついに引退) 」。イギリスメディア「BBC」のTwitterが、類まれなる名将の最後のクラブがマンチェスター・ユナイテッドであることを、短い言葉でアナウンスしました。プレミアリーグの名門クラブで指揮を執るのが最後の仕事になると公言していた指揮官は、FAカップ制覇の2日後にクラブを追われた際も引退するとはいっておらず、契約を全うして終われなかった消化不良感をどこかで晴らすのだろうと思っておりました。ご本人は、最近までその気だったようですが、娘婿が亡くなるなどのトラブルもあり、極東からのオファーを断ったようです。リタイアを表明する言葉は、マンチェスター・ユナイテッドにおけるプレスカンファレンスでの物腰を思い出させる淡々としたものでした。

「一度は、もう辞めようと思った。しかしその後、長期休暇だと考え直した。今は、監督の仕事に復帰するとは考えていない」「とても多くのことが家族に起こってしまった。普通の人間に戻ろうと思う」(ファン・ハール)

アヤックス、バルセロナ、オランダ代表、AZ、そしてマンチェスター・ユナイテッド。バルサとバイエルンでは就任初年度にダブルを達成するなど、結果を出せる監督ではあったものの、選手やサポーターとの軋轢でクラブを離れるなど、浮き沈みの激しい監督人生でもありました。プレミアリーグ4位、5位という2年をどう評価するかは難しいところですが、ファーガソンからモイーズへとバトンタッチされたチームが世代交代に失敗した後の登場であり、「よく立て直した」といってもいいのではないでしょうか。

悪いひとではないのですが、コミュニケーションがうまいとはいえず、ストイチコフ、リベリー、イブラヒモヴィッチなど酷評する選手は後を絶たず。よくも悪くも「オランダの監督」でした。最も輝いた季節は、アヤックスを率いていた1994-95シーズン。エールディヴィジとチャンピオンズリーグを無敗で制した3-4-3は、まさに敵なしで、彼のスタイルが欧州を席巻し続けるのだろうとすら思われました。2008-09シーズンのAZのエールディヴィジ制覇は、クラブにとって28年ぶりの快挙であったとともに、アヤックス、フェイエノールト、PSVアイントホーフェン以外のクラブが勝ったのも前回のAZ以来というメモリアルな偉業です。オランダ代表の指揮を執った2014年のワールドカップブラジル大会では、世界王者のスペインを5-1で叩き、コスタリカとのPK戦でGKシレッセンをクルルに代える離れ業を披露して堂々の3位入賞。母国では、間違いなく成功者でした。

一方、プレミアリーグだけでなく、海外で気持ちいい辞め方を一度もできなかったのは、オランダのカルチャーをクラブに持ち込もうとし過ぎて、内部に敵を作ってしまったからでしょう。バルセロナ時代は、クラブをアヤックスに変えるのかといいたくなる勢いでオランダ人選手を獲得。バイエルンではファン・ボメルをドイツ人以外の初のキャプテンに指名しており、オールドファンからは疎まれる監督でした。「オランダでの成功を引っ提げて海外に飛び出し、信奉するオレンジ色にクラブを染めると非難されて袂を分かつ」。このサイクルをまわしたのが、ファン・ハール監督のキャリアでした。

ただし、海外クラブのなかでもマンチェスター・ユナイテッドだけは違ったのかもしれません。ブリントやデパイの獲得を「いつものオランダびいき」と揶揄されたりはしたものの、ファン・ハール監督は、クラブを自分の色に染めるばかりではなく、むしろ伝統を取り戻してくれたのだと思います。若い才能の発掘。ヴァレラ、マクネア、ドナルド・ラブ、ボースウィック=ジャクソン、フォス=メンサー、リンガード、アンドレアス・ペレイラ、ニック・パウエル、ウィア、ラシュフォード、ウィル・キーン。既に出来上がっていたルーク・ショー、ヤヌザイ、マルシアルを除いても、これだけの数の若手をプレミアリーグやチャンピオンズリーグに送り出してくれました。最終的に何人が残るかはわかりませんが、確実に種は蒔かれたのです。ファーガソンが9年取り逃し続けたFAカップを奪還してくれたこと、未来への期待をチームにもたらしてくれたことに、サポーターとして感謝しています。イブラヒモヴィッチとモウリーニョを選んだクラブの決断は間違いなかったと信じつつも、「ファン・ハールの3年めが観たかった」という思いは消えません。

最後に、私が過去に書いた記事を2つ紹介させてください。ひとつは、「『ファン・ハール激怒』『アーセナルの負傷者減少』…日本の記事からは伝わらなかった報道の真意!」。日本のメディアにおいては、彼のエキセントリックなイメージを誇張した記事が多かったのですが、名将に対するプレミアリーグファンのみなさんの記憶を、デフォルメされた部分だけに留めたくないという思いがあります。そしてもうひとつは、「『若い選手が成長し続ける姿を見たい』ルイス・ファン・ハールの最後の言葉。」チームを去る者が残すさまざまなメッセージのなかで、これほど美しく哀しい言葉を私は他に知りません。それぞれ、ご一読いただければ幸いです。

デ・ヘア、スモーリング、ブリント、バレンシア、ロホ、キャリック、フェライニ、マタ、ルーニー、ラシュフォード、マルシアル。2015-16シーズンFAカップ決勝、ファン・ハール監督がキャリアのなかで、最後に選んだスターティングメンバーです。在任中は、リスペクトの気持ちを注いで「奇将」と呼ばせていただきました。アヤックスのような革命的なチームを生み出す監督には、もう出会えないのかもしれません。

ありがとうございました。万感の思いを込めて。

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“最後のクラブにFAカップとラシュフォードを残して…ルイス・ファン・ハール、ついに引退!” への4件のフィードバック

  1. MUFC より:

    私もLVGの3年目が見たかったです。試合内容はつまらないしモヤモヤする気持ちがありながらも混乱したチームの建て直しに貢献したと思います。得点力不足に苦しみながらもデ・ヘアを中心に堅い守備で戦い抜き、私自身なによりもユナイテッドで大事だと思っている若手の起用を何の恐怖もなく行いました。ビッグクラブを率いる現役監督を見回してもそんな肝っ玉を持つ監督を見つけるのは難しいですね。長らく留まれるのか、そうではないのかは別として若手が出てこれる環境が大事なのです。マケダ、ヤヌザイ、マクネア、ラッシュ彼等はみなチームがピンチの時に救ってくれた救世主です。ファーストチームを夢見る下部組織にも憧れにうつったでしょうし、それこそがクラブに大事なのだと思います。LVGのように選手を育てる事のできる監督こそユナイテッドに相応しいかったとおもいます。 心からのありがとうという言葉を彼に贈りたいと思います。

  2. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    色々とありましたが名将の一人と数えられる監督だと思います。
    彼のユナイテッドでの若手発掘の功績は大きいと思います。私も残念に思うのは一部日本メディアの取り上げ方は、毎度ながら気になっておりました。
    まずはお疲れ様でした!

  3. yuto より:

    ファンハール監督による若手の積極起用は今後のユナイテッドにとって大きな功績でしょう。
    特に昨シーズンの自身の解任への声が増え続けたときのELのミッディラン戦、リーグでのアーセナル戦でのラッシュフォード起用には度肝を抜かれました。
    癖のある人だったので評価が分かれている印象ですが、私はLVGのユナイテッドでの2年間は成功だと思っています。

  4. makoto より:

    MUFCさん>
    観たかったですよね…最終的にどうなるかはともかくとして、年明けの順位は上だったかもしれません。

    Mackiさん>
    そうなんです。一部選手ともめたりしていたのは確かですが、エキセントリックな取り上げ方は彼らしさを伝えてないなといつも思ってました。

    yutoさん>
    ここぞというシーンで迷いがない、器がデカいひとですよね。後半戦で見直しました。

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