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監督解任ラッシュのプレミアリーグ!【後篇】なぜ、昨季のサウサンプトンは監督を解任したのか?

「監督解任ラッシュのプレミアリーグ!【前篇】テコ入れ6チームの解任判断は成功か、失敗か!?」から続きます。ここからは、昨季、2013年1月18日にナイジェル・アドキンス監督を解任し、マウリシオ・ポチェッティーノ監督をアサイン。今季になってプレミアリーグ上位を脅かす存在にまで躍進した、サウサンプトンの監督解任劇について触れながら、「シーズン中の監督解任成功の是非とポイント」について考えていきたいと思います。

昨季、プレミアリーグ昇格を果たしたサウサンプトンは、いきなり開幕4連敗。第4節から吉田麻也が合流し、DFラインの安定を図ってからも状況は好転せず、最初の10試合で1勝1分け8敗と、プレミアリーグ降格候補ナンバーワンでした。もし、この段階で監督を代えるという話であれば、「やむなし」と納得したでしょう。しかし、ここでは噂すらなし。その後、サウサンプトンは守備が安定し、2013年1月16日、22節のチェルシー戦を終えた段階で5勝7分け10敗と持ち直しました。最初の10試合を除けば、4勝6分け2敗と勝ち越しています。直近では、アーセナル戦、チェルシー戦をドローに持ち込んでおり、私は「やはり監督は安易に変えるべきではない。チームをプレミアリーグに昇格させたナイジェル・アドキンスはさすがである。功労者の彼で今後も戦って、残留を果たすのだろう」と思っておりました。

しかし、チェルシー戦の2日後、まさかのアドキンス解任です。後任はポチェッティーノ。私は目を疑いました。サポーターも大ブーイングです。「コルテーゼ会長はクラブを去れ」とまでいっている過激な集団もいました。「これだから、気まぐれ会長のいる中小クラブはダメなんだ」と腹が立ちました。ポチェッティーノ監督の実力はわかりませんが、ここから再降下まであると思いました。

そんな喧騒をよそに、ポチェッティーノのサウサンプトンはさらなる躍進を遂げます。マンチェスター・ユナイテッドを苦しめた直後の2月上旬にはマンチェスター・シティを撃破。その後もリヴァプール、チェルシーを立て続けに破るなど、ジャイアントキリングといっていい番狂わせを次々と起こし、もはやプレミアリーグ最大の伏兵です。最後の4戦で2分け2敗と失速し、14位で終わったものの、ポチェッティーノ監督は、「2年でチャンピオンズリーグ出場権を獲得したい。目標は高いが、決してできないことではない」とまでいっています。監督解任は、結果的には大成功に終わったわけです。しかし、シーズンが終わった後、私は「ポチェッティーノはいい監督だ」と評価する一方で、それでも「たまたまうまくいっただけ。リスキーな監督交代だった」としか思いませんでした。このときは、監督交代の真の理由を理解していなかったのです。

そして、今季プレミアリーグが始まり、ワンヤマやデヤン・ロブレン、オズバルドなど、人数は少ないながらも適切な補強を行ったセインツは、みなさんがご存じのとおりのいいチームへと成長しました。24節を終えて、9勝8分け7敗の9位。4位リヴァプールまで12勝ち点差と、チャンピオンズリーグ出場権までは難しい状況ですが、トップ10でシーズンを終えることは間違いないでしょう。そんななかで先日、「Goal.com」のベン・メイブリー氏のコラムを読み、ナイジェル・アドキンス解任の理由を知りました。目からウロコが落ちるとは、まさにこのことです。そうだったんですね、コルテーゼ会長。素晴らしいじゃないですか!

詳細は元のコラムを読んでいただくとして、ポイントだけ挙げると、解任の最大の理由は「プレミアリーグ開幕前に、ナイジェル・アドキンスが”降格を回避するためのプラン”をコルテーゼ会長に提出したこと」です。コルテーゼ会長は、プレミアリーグ優勝やチャンピオンズリーグ出場という大きなヴィジョンを描いており、セインツが大きな野望を持つべきではないと目標にキャップを嵌めて考えるアドキンスは、このプロジェクトには適切ではないと判断したのです。1月に解任したのは、「直近の成績が悪かったから」ではなく、おそらく「この先をまかすべき監督が見つかったのがその時期だった」から。いわば「冬の移籍市場・監督篇」のようなものだったのでしょう。

その後4月になって、コルテーゼ会長は再度、野望を語り、ポジェッティーノ監督をはじめチームに「どうすればプレミアリーグ優勝のタイトルを獲得できるのか」を聞いたそうです。「獲得できるかできないか」ではなく、「どうすれば獲得できるのか」。これに盛り上がったのは、監督はもちろん、ルーク・ショー、ララナ、リッキー・リー・ランバートといった主力選手たち。なるほど、あれだけの勧誘がありながら、セインツの選手が誰も出て行かなかった理由がわかりました。セインツはプレミアリーグ優勝をめざしているのです。他のチームに急いで移る理由はありません。

本稿の前篇で、私は監督交代成功に必要なエッセンスとして、
1)うまくいっていない要因を明確にしている
2)監督に明らかに問題があり、それを本人が解決できない・解決する気がない
3)新しい監督に、現状課題・長期的課題を解決できる能力がある
4)フロントと新監督に意志の疎通があり、補強などの打ち手を連携して行える
という4点を挙げましたが、セインツの監督交代劇、いや、「コルテーゼ会長の中長期的プロジェクト」は、これらを満たしているというのがご理解いただけますでしょうか。適切な構想と手段で事を進めれば、結果がついてくるという好例ですね。もはやこれは、プレミアリーグでの成功を超えて、ビジネスの成功につながる話です。コルテーゼ会長は元々銀行家で、サッカーに精通した人物ではなく、クラブ経営も初めてだったそうですが、監督をはじめ人材の目利きができる、極めて優秀なビジネスマンだと思いました。

そんなコルテーゼ会長も、2014年1月にサウサンプトン会長の職を降りることが決まりました。セインツの若手SB、ルーク・ショーは、ツイッターで「知らせを聞いてがっくりした」とつぶやいたそうです。監督ならいざしらず、普通、ひとりの選手が会長の退任にショックを受けることなどありません。彼が落胆するくらい、コルテーゼ会長はチームとコミュニケーションをとって、共通の夢を描いていたのですね。この話、いい話だと思いませんか?

クラブにとって大事なことは、自らが描く大きな夢に向かって、適切なプランと打ち手が講じられていることであり、監督交代はそのためのひとつの手段でしかありません。少しだけ、マンチェスター・ユナイテッドについて触れさせてください。私が最近、「モイーズ解任」を唱えているのは、成績が悪いからではなく、クラブが目指しているものと監督の資質や能力がズレているからです。マンチェスター・ユナイテッドは、2度にわたってチャンピオンズリーグ決勝でバルセロナに完敗し、「もはや今までの4-4-2では欧州を勝てない」とモデルチェンジを志向。香川真司獲得はそのシンボルだったはずです。

しかし、選ばれた監督は、チャンピオンズリーグはおろか、国内カップすら獲っておらず、最新のサッカースタイルにも通じていないモイーズ監督です。これはいってみれば、「世界進出をめざすベンチャー企業のワンマン社長が、次期社長に英語のできない仲良しの後輩を指名しちゃった」ような、滑稽な話にみえます。その意味では、私が非難しているのは、モイーズ監督よりもサー・アレックスのほうなのでしょうね。…最後に。毎週試合を観るのがワクワクするセインツのようないいチームを育てたコルテーゼ前会長に、ひとりのプレミアリーグファンとして感謝の意を表したいと思います。

近い将来、プレミアリーグの優勝争いに、新しいセインツが加わってくることを楽しみにしています。ありがとうございました。

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“監督解任ラッシュのプレミアリーグ!【後篇】なぜ、昨季のサウサンプトンは監督を解任したのか?” への2件のフィードバック

  1. takao より:

    いつも更新楽しみにしております。

    また、非常に興味深い、示唆に富む記事の紹介ありがとうございます。
    フットボールを愛する一ファンにとって、こうしたクラブ運営の内情や人事の詳しい情報を知る事で、更にゲームを楽しめるようになるのは嬉しい限りです。

    コルテーゼ氏の辣腕が何処かのクラブで発揮される日を楽しみ待つ事に致します。感謝と共に。。

  2. makoto より:

    takaoさん>
    ありがとうございます。コルテーゼさんみたいな経営者が増えると、中小クラブが魅力的になって、プレミアリーグがさらにおもしろくなりますね。

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