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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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補強費1億9000万ポンドって、出せるの⁉ マンチェスター・シティにまつわるお金の話

7月3日、UEFAがマンチェスター・シティとパリ・サンジェルマンに科していたFFP違反によるペナルティを解除したと発表しました。これにより、マンチェスター・シティにおいては、6000万ユーロ(当時のレートで83億円)の罰金のうち4000万ユーロが返還され、チャンピオンズリーグの登録人数削減や、年間人件費総額の上限設定というキャップがなくなります。そんななかで、昨季はプレミアリーグ2位に終わった彼らは首位奪回をめざして大型補強を仕掛けており、スターリングとデブライネにそれぞれ5000万ポンド(約96億円)、ポグバに至っては7000万ポンド(約134億円)にも及ぶ移籍金を用意していると伝えられています。

デルフなどを含めれば総額1億9000万ポンド(約363億円)にも及ぶ新戦力獲得交渉の報道を見ると、「FFPペナルティがなくなったので、マンチェスター・シティが無茶なお金の遣い方を再開した。こんなことしたらまた赤字が膨らんでFFPに引っかかり、UEFAとケンカすることになるんじゃない?」と思われる方もいるでしょう。彼らを「金満クラブ」と揶揄する方なら、「オイルマネーで湯水のごとく選手を買いやがって」と悪態のひとつもつきたくなるかもしれません。確かにイギリス各紙の見出しは派手で、以前からマンチェスター・シティにはお金でプレミアリーグ優勝を買っているというイメージがついてまわっていますが、実際のところはどうなのでしょうか。私はあらためて、マンチェスター・シティの決算、財政に関するレポートをチェックし、この夏の大型補強はどこまでいけるのかをざっくり試算してみました。目論見としては、「まずは現状を把握したい。そして返す刀で、マンチェスター・シティの経営に対する不当な評価があれば払拭してあげたい」といったところでしょうか。

マンチェスター・シティのこの10年の決算数字の推移、2012-13シーズンならびに2013-14シーズン損益計算書、クラブのニュースリリースなどを見ると以下のことがわかります。

■金持ちの道楽でもなくアブダビの宣伝に利用するだけでもなく、
 シティフットボールグループは「企業としてのマン・シティ」を成長させている

 ⇒2009年以降のスポンサーフィー、ユニフォーム関連収益は
  対前年プラスを継続。2014年は1億6600万ポンドと2009年の8倍以上!
  アーセナルやチェルシーより収益は多くプレミアリーグ2位
 ⇒プレミアリーグの放映権料UPとチャンピオンズリーグの常連となったことで、
  放映権収入は1億3300万ポンドと2011年から倍増
 ⇒安価な価格設定やエティハドスタジアム周辺のレジャーランド化等で、
  マッチデイの収入は年間4750万ポンドに増えており、
  2009年~2014年で2.5倍を記録

■2013-14シーズンの決算は2300万ポンドの赤字だが、
 今後はいつでも黒字決算可能

 ⇒赤字額は、2011年の1億9700万ポンドをピークに一気に圧縮しており、
  2012-13は5200万ポンド。2013-14の2300万ポンドという赤字には
  FFPペナルティの「罰金額-返還額」である1600万ポンドを含んでおり、
  実質的にはほぼとんとん。いつでも意図的に黒字を出せる状態
 ⇒改善のポイントは収益向上に加えて、「選手やスタッフへのサラリー抑制」。
  2013-14の人件費2億500万ポンドはマンチェスター・ユナイテッドを下回る

■金満クラブのイメージは、一気にワールドクラスを揃えて
 プレミアリーグ上位を獲りにいった2010年、2011年の残像によるもの。
 ここ3年の選手獲得総額はマンユナイテッドとチェルシー以下

 ⇒2010-11はヤヤ・トゥレ、ダヴィド・シルヴァ、ミルナー、ヴィエラ、
  バロテッリ、ボアテング。2011年はアグエロ、ナスリ、クリシー、ジェコ。
 ⇒2012-13以降はシンクレア、ロドウェルなどの若手獲得と、
  ヘスス・ナバスやフェルナンジーニョなど弱点強化にシフト

■今後の収益増加のポイントは「スポンサーフィーの増加」「スタジアムの客席増設」
 ⇒公式サイトで5月~6月に「スタジアム工事は順調」と写真付きで紹介。
  55000、62000と段階的に席数を増やしてチケットと付帯施設の収入を
  増やそうとしている
 ⇒エティハド航空のスポンサー料は、現状の年4000万ポンド
 (約76億4000万円)から8000万ポンド(約152億8000万円)になる予定
 ⇒スポーツ栄養補助食品のマッスルファーム、FXブライムズ、
  ビーボエナジー、デジセル、PZカズンズと新しいパートナーシップ締結

オーナーからの注入資金はFFP施行前の早いタイミングで株式の形にしており、マンチェスター・シティに借金はありません。エティハド航空とシティ・フットボールグループは同族経営ではないかという話についてはUEFAからセーフの裁定が出ているので、決算内容について今後UEFAのツッコミがあるとすれば、シドニーやニューヨーク、横浜Fマリノスを使った人件費などのコストの付け替えぐらいでしょう。ただしこれについても、クラブのスタッフを大幅に削減するという企業努力はしており、プレミアリーグNo.1だった選手とスタッフの人件費総額はマンチェスター・ユナイテッドよりも少ない額でまわせる状態になっています。

さて、ここからは私のざっくり試算なので、そのつもりで目を通していただければ幸いです。単純計算で、チケット増収分が席数増加により800万ポンド。エティハド航空からの増収が4000万ポンド、直近で5社増えているスポンサーフィーが年間2500万ポンド(以前にあるパートナーが500万ポンド強との報道あり)とすると、トータル7300万ポンド(約139億4000万円)の増。ネグレドの移籍金を筆頭に、選手の売却で既に3000万ポンドは懐に入っていると見られ、これを足し込むと1億300万ポンド。とんとん状態を発射台にここまで積めるとすると、4年契約だった場合の3選手の移籍金1年分+サラリーまでまかなえそうです。さらにお金を捻出できるとすれば、ジェコやヨヴェティッチの売却、ミルナーやボヤタなど退団選手に支払っていたサラリー分でしょうか。赤字を出さずに5000万ポンドクラス3人は大変そうに見えますが、来季からプレミアリーグの放映権料が上がるので、多少の単年度赤字を許容すれば最大1億9000万ポンドは出せない額ではないようです。(※正確には、今季の移籍金は5年契約の選手は減価償却で1/5となり、逆に5年前に結んだ5年契約分の移籍金の1/5が会計上は乗ってくるので計算は難解です。とはいえ、この夏の総額が1/5だとしても、ほぼ人件費によるマイナスである2010-11シーズンの2億ポンドのマイナスの何割かが昨季分の会計に乗るので、FFPの3季ルールで見た場合にはまだ余裕はないと思われます)

私の持っている情報と知識ではここまでです。すみません。わかりづらくなってしまったかもしれません。言いたいことは、金満といわれがちなマンチェスター・シティですが、借金はなくスポンサーは増えており、胸スポンサーの料金改善やスタジアムのシートのさらなる増設など伸びしろもあるので、経営リスクはマンチェスター・ユナイテッドやリヴァプールよりも低そうということです。マンチェスター・ユナイテッドにも決算書と詳細なレポートがあるので、どこかで彼らのチェックにチャレンジしてみたいと思います。

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“補強費1億9000万ポンドって、出せるの⁉ マンチェスター・シティにまつわるお金の話” への3件のフィードバック

  1. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    なかなか興味深い内容だと思います。
    冷静に考えてみれば、チームも経営がしっかりしていないと、成り立たないので黒字経営を目指すのは至極真っ当だと思います。
    フットボールを生活の一部でありロマンを求めるイングランドの人々からすると、シティの場合はビジネスの香りがするから色々と揶揄されるのでしょうかね、、、。
    我がレッズも数年前クラブ倒産寸前まで行った苦い記憶があり再建道半ばなので、黒字経営をしていくことは素晴らしいことだと思います。

  2. ぐなきち より:

    更新お疲れ様です
    実際に数字を出して纏めて頂いて分かりやすかったです。実際去年等大人しすぎて何があったのかと思ってましたが二位をかっさらわれたので何も言えませんねw
    今年は高齢化が進んだチームを改革していくと思うのでまた怖くなる印象です
    健全経営を進めるなかどの程度進化するかに注目ですね

  3. tomo より:

    更新ご苦労様です。

    ここまでお調べになるのは大変だったでしょう。私には絶対に出来ないことです。凄いなと
    感心しております。

    その上で私は疑問です。こういう材料があったのになぜ昨季は制裁を受けたのでしょうか?
    赤字額が実際に減少し今後は更に黒字に向かって改善出来ると言える状況が昨夏にはなくて
    今夏は出来たということでしょうか?そんなことを信じられます?まさか!ですよね。
    では・・・なぜシティは制裁を解除されたのでしょうか?

    理由は一つです。UEFAが基準を甘くしたからです。それらしい理由をどれだけ後付けで
    示したところでそれが唯一の現実です。そもそもエディバド航空とシティの関係性をただの
    フットボール機関が・・・いかなる権限を持って調べるのでしょうか?本当にそんなことが
    出来ると思っていたのならUEFAも随分と奢ったものです。現実は調べた結果でセーフと
    判断されたのではなくあるべきまともな調査など出来なかったはずですよ。

    それにしても・・・その制裁解除は尾を引きますよ。資産家のオーナーが経営者でも帳簿で
    それが分からなければ制裁は発動されないと規制を設けた側が正式に発表しましたからね。
    当たり前の話ですが・・・その方法を見つけることくらい・・・彼等は朝飯前でしょう。

    —–
    tomoさん>
    制裁を受けた理由は、マンチェスター・シティのFFP解釈とUEFAの認識の違いです。ややこしい話になりますが、焦点になったことのひとつとして会計でいう「減価償却費」、つまり昨年の今でいえば、2009年~2011年の選手獲得の移籍金をFFPルールは加算するのかしないのか(会計的には、過去の移籍金は契約期間内で均等割りすることができるので、直近の数字として乗っかるのです)など、いくつかの観点で食い違いがあったようです。マンチェスター・シティとしては、後出しジャンケンでルールを変えられたという思いが強かったようで、当時の声明文には不満が滲み出ていました。

    「UEFAが基準を甘くした」ということはないので、ご安心ください。マン・シティとエティハドの関係は、昨季のペナルティ決定前にセーフが出ている一方で、パリとカタールは当時も今もNGです。この1年に関しては、マン・シティが相当がんばってFFPペナルティの基準をクリアしてきたのを私は見聞きしてきたので、今回のUEFAの解除は「予想通り」という着地でした。

    —–
    コメント有難うございます。

    どうやら私の認識が違ったようですね。お騒がせ致しました。兎にも角にもシティが今夏に
    大規模補強を行える下地は整ったということですかね。正直羨ましいです。

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