偏愛的プレミアリーグ見聞録

ファン・ハール監督が、今季のプレミアリーグを戦ううえで、極めて重要な決断をしました。今回のジャッジは、チーム全体のモチベーションを上げられるベストチョイスなのではないでしょうか。マンチェスター・ユナイテッドは、一昨日、ネマニャ・ヴィディッチが去った後のチームをけん引する新しいキャプテンを発表。新監督が指名したのは、自らが指揮したオランダ代表で信頼をおいていたファン・ペルシではなく、ここしばらくキャプテンを熱望していたウエイン・ルーニーでした。

ワールドカップにおける「死のグループ」緒戦でスペインを迎え撃ったオランダ代表が、前半終了間際にファン・ペルシのヘディングシュートで同点に追いついたとき、エースであり主将のファン・ペルシは脇目も振らずにボスの立つベンチへ走ってきて、熱いハイタッチをかわしました。このシーンをみて、監督の求心力とオランダ代表チームのまとまりを感じた方も多いのではないかと思います。マンチェスター・ユナイテッドサポーターだけでなく、過去のファン・ハール監督を知るサッカーファンのなかにも、「キャプテンはファン・ペルシで決まり。ルーニーが気を落とさなければいいけど」と予想していた方もいるでしょう。

しかし、ファン・ハール監督の選択は違いました。彼のルーニーへのコメントが、熱くて感動的です。「私にとって、チームの主将選びはいつも非常に重要なことだ。ウェインは、これまで素晴らしい姿勢を示してきた。プロ意識、練習への取り組み方、私の哲学を理解しようとする姿勢には感銘を受けた。若手の刺激となる存在であり、心と魂を込めてキャプテンの役割を果たしてくれるだろう」

非常にいい言葉であり、いい選択だと思いました。誰もが認める実力者であり、プレミアリーグでもチャンピオンズリーグでも貴重なゴールを挙げてきたファン・ペルシがキャプテンでもよかったのかもしれません。しかし私には、オランダ代表キャプテンが、クラブでもすんなり同じポジションに立つことに懸念がありました。ファン・ペルシがマンチェスター・ユナイテッドに入団した最初の年。夏から秋にかけて快調にゴールを重ね、負け試合をひっくり返してきたストライカーは、1月を過ぎるとスランプに陥り、プレミアリーグでゴールを決められない時期を迎えました。このときの彼は、何とか自分で決めたいとわがままなプレイに終始。当時は、チームが瓦解してもおかしくない状況だったと記憶しています。

昨年、スポンサー関連のイベントで、ルーニーが香川真司を評して、こんな発言をしていました。「僕とシンジはお互いに、まったく身勝手ではない選手だ（very,very unselfish players）」。個人で打開しようとするアタッカーが多いマンチェスター・ユナイテッドにおいて、背番号10はときにそういったプレイを苦々しく感じていたのでしょう。悪童と非難され、ワールドカップでレッドカードを受けたやんちゃな姿は、過去の話。チームが劣勢に立たされたときでも、最後まで走り抜き、ときにはゴールラインまで戻って守備に貢献するなど、能力と行動両面で勝利への姿勢を見せられる選手は、ルーニーをおいてほかにはいないでしょう。

そしてまた、ファン・ハール監督が心憎いのは、副キャプテンにこの選手を指名したことです。「副キャプテンはフレッチャーだ。ダレンは生まれながらのリーダー。ウェインがプレイしないときは、彼にキャプテンをまかせる。経験が豊富で、チーム内で高く支持されている。ウェインとともに、いい仕事をしてくれるだろう」

フレッチャーが長期にわたって潰瘍性大腸炎と戦い、相当な苦労の末にピッチに戻ってこられたことをチームメイトは知っています。こちらも、チームがひとつにまとまるうえで、最高の選択なのではないかと思います。

「この偉大なクラブで主将に指名されるのは、僕自身にとっても家族にとってもすごく誇らしい。ファン・ハール監督が僕を信頼してくれたことに感謝している。16日のプレミアリーグ初戦で、チームをリードするのが楽しみ」とルーニーは語っています。私も楽しみです。オールド・トラフォードにスウォンジーを迎える、ランチタイムキックオフの開幕戦。ピッチに選手が入ってきたとき、最初に目がいくのはウエイン・ルーニーの左腕です。キャプテンには、マンチェスター・ユナイテッドの復活を宣言するような、プレミアリーグ2014-15シーズン最初のゴールを決めてもらいたいと思っています。…すみません。いつになく熱くなってしまいました。信頼を意気に感じてモチベーションを上げていくタイプである、ルーニーの喜びはいかばかりかと思って、つい。