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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

大論争!「マンチェスター・ユナイテッドはロングボール放り込みのチームなのか」【後篇】

「大論争!『マンチェスター・ユナイテッドはロングボール放り込みのチームなのか』【前篇】」より続きます。ここまでは、ウェストハムのサム・アラダイス監督の「ロングボール・ユナイテッド」発言から始まった「マンチェスター・ユナイテッドはロングボールのチームなのか」というテーマに対するさまざまな意見と、今季プレミアリーグにおけるマンチェスター・ユナイテッドのデータを紹介させていただきました。簡単におさらいをすると、「ロングボールはバーンリーの次に多い2位、パス本数もマンチェスター・シティに続く2位」「パスの長さの平均は、チェルシーやリヴァプールと変わらない」「ボールポゼッションはプレミアリーグでトップ、パス成功率はマン・シティの次に高い85%」となります。

さて、ここからは、私の見解を述べさせてください。まずは、数字です。上記に加えて、今季のマンチェスター・ユナイテッドを語るうえで、重要かつ特徴的なデータをもうひとつ出させていただきます。「1試合あたりのシュート本数」。プレミアリーグ25節までで、15本を超えているクラブは4つです。上からマンチェスター・シティ、リヴァプール、チェルシー、アーセナル。マンチェスター・ユナイテッドは、トッテナムやセインツはもちろん、QPR、アラダイス監督のウェストハム、ストークにも及ばない10位。ファン・ハール監督のチームは、「ポゼッションが高いにも関わらず、シュートを打てないチーム」なのです。

これを加味して考えると、私の見立てはこうなります。最初に、論争のテーマについて言い切ってしまいましょう。「マンチェスター・ユナイテッドは、ロングボール・ユナイテッドである」と。問題の本質は、「ファン・ハール監督が、チームの守備力を信じていない」ことにあるとみています。ポゼッションとパス成功率が高いのは、後ろでセーフティに回している時間が長いため。マンチェスター・ユナイテッドは、ジルーやアグエロ、ジエゴ・コスタ、スターリングがいる他の上位クラブと比べて、トップに縦パスを当てにいくというリスクをとるシーンが少なく、ボールを失ったときに安全が確保しやすいサイドのスペースに展開するシーンが目立ちます。数多くのロングボールは、放り込みばかりではなく、サイドへのボールと詰まった時のサイドチェンジの比率が高いと思われます。ここからは推測ですが、ヴェンゲル監督が指摘するとおり、ファン・ハール監督はロングボールを放り込めという指示は出していないと思われるものの、「中で簡単に獲られてカウンターに持ち込まれるな」と厳命しているのではないでしょうか。

デ・ヘアの神セーブ頼みのDFラインは信用できない。ゆえに、ダレイ・ブリントにバイタルエリアを埋めさせるダイヤモンド型の中盤を採用。ブリントの脇があくので、インサイドハーフも下がり気味。ただでさえ安全志向のなか、前に張りっぱなしのファン・ペルシと、裏に抜けたいファルカオの2トップにもらいにいく動きがなく、縦へのボールが入らない。サイドに出すしかないが、うまく出ないとすぐやり直すので、ポゼッションとパス成功率はぐんぐん上がる。ときどきサイドを突破できても、下がり気味のMFがゴール前に入る時間はないので、少人数のターゲットに出たクロスからのシュートは少ない。マタの出場機会が減った最近のゴールは、2トップにいいボールが出たときと、セットプレイからのスモーリング、前に張ったフェライニのみ。中盤に入ったルーニーは、プレミアリーグ9試合ノーゴールを続行。キャプテンが得意とするペナルティエリア内からのシュートは皆無に近い。

とまあ、こんなことが起こっているだと思います。5失点を喫した「レスター・ショック」を払拭できず、守備を信用していないファン・ハール監督の安全志向により、中ではなく外、ショートではなくロングに依存する攻撃になっているのではないか、という結論ですが、いかがでしょうか。ファン・ハール監督の戦術にはプラスもあり、レスターに5点を獲られた後の20試合の失点は16と少なく、3点以上奪われたゲームはありません。ただし一方で、アウェイで3点以上獲ったゲームもなく、ドローが多いという副作用を甘受している状態でもあります。いずれにしても、プレミアリーグで優勝を狙うクラブの戦い方ではないですね。下位に難敵が多いなか、攻めないチームは常時勝ち点3を狙えないのがプレミアリーグですから。

今回の一連の論争で、いちばん心に沁みたのは「インディペンデント」に掲載されたポール・スコールズ氏のコラムです。彼こそが、マンチェスター・ユナイテッドの問題点にいちばん迫っているのではないでしょうか。現場を知るレジェンドの言葉は、まさに金言。サポーターとしては、在りし日のプレイを思い出して感動を覚えます。

「サー・アレックス・ファーガソン時代、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃的な選手は、決定機を創るためにリスクを冒さなければならなかった。これはオプションではなく、義務なのだ。私が縦パスを出さなかったり、DF陣を破るためのリスクの高いパスを狙わなくなると、監督は私を起用しなくなった。マンチェスター・ユナイテッドの歴史は攻撃サッカーであり、無失点に抑えたり決定機を許さないということでは決してない。なぜ、長年にわたってマンチェスター・ユナイテッドが世界最高のGKを獲得してきたのか。多くの選手が攻撃参加するので、GKは重要だったのだ」
「マンチェスター・ユナイテッドの中盤たるもの、縦パスを出さなければいけない。毎回ストライカーのお膳立てができなくても、通らなくても、出さなければならない。簡単な仕事ではない。しかし、マンチェスター・ユナイテッドでプレイしているのだから簡単なわけがない」
「今は、ポゼッションに対する妄執がみられる。マン・ユナイテッドのサポーターは、チームのボールポゼッションが40%だろうが、攻撃的なチームを観られている間は気にしないはずだ」

スコールズ氏の言葉から思う、現在、最もマンチェスター・ユナイテッドらしい選手は、ひとり危険な存在であり続けようとするアンヘル・ディ・マリアです。今季はプレミアリーグ4位以内に入ればOKなので、負けないことを大事に戦うファン・ハール監督に、ロングボールやセーフティな戦術を今すぐやめろとまではいいません。ただし、それでも「マンチェスター・ユナイテッドらしい攻撃的なスタンスは、失わないでほしい」「来季につながるポジティブな何かを見せてほしい」とだけはいわせてください。来年の今頃は、伝統の背番号7を背負うチャンスメーカーと、ゴールを量産するキャプテンが、欧州の大会で輝いていることを願いつつ。

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“大論争!「マンチェスター・ユナイテッドはロングボール放り込みのチームなのか」【後篇】” への3件のフィードバック

  1. a より:

    ディマリアに加えて、キャリックも数えてもいいのではないでしょうか?
    リスクを冒してFWに縦に入れようとする唯一のボランチですから。
    早く怪我から復帰してほしいものです。

  2. makoto より:

    aさん>
    確かに。彼が戻ってくれば、いろいろ解決しそうなのですが…。先ほども、心臓がバクバクして死ぬかと思いました(苦笑)

  3. makoto より:

    ルーニーが器用な選手とはよく言われますが、ディマリアも器用なんですよね。現在のレアルにロナウドがいなければディマリアがその位置に入ったであろうと思わせるほど突破力があるけれども、空きが無かったのでアンチェロッティはインサイドハーフ辺りでよく使っていたように見えました。出来ればウィングで使ってあげたいけれども、現状のガンガン上がる形のインサイドハーフも悪くないと思います。

    但しディマリアが空けたスペースをカバーできる選手というとルーニーかキャリックしかないので、現状だとルーニーが活かせない。いっそのこと2トップを止めてマタなどを使ったらと思うのですが。

    —–
    Uボマーさん>
    ファルカオとファン・ペルシの2トップよりは、ファン・ペルシのワントップの下にマタとルーニー、としたほうがおもしろいかもしれませんね。中盤のカバーは、エレーラやフェライニにやってもらえればいいのですが…。なかなかうまくはまりませんね。

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