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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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現地記事は「ルーニーを中盤へ」、日本では「ルーニー失格」…この差について思うこと

イギリスメディア「デイリー・ミラー」が、イングランド代表におけるウェイン・ルーニーのポジションについて、「中盤に置くべきである」と主張しています。私は、今季のプレミアリーグを観るにつけ、ファン・ハール監督はルーニーをワントップで起用するより、アントニー・マルシアルを最前線に据えてルーニーはトップ下に置いたほうがいいのではないかと思っておりました。そんな話かと記事を読むと、「デイリー・ミラー」に寄稿した「幻の天才ストライカー」、スタン・コリーモアさんの意見はもっと後ろ、すなわちマイケル・キャリックの役割です。なるほど。先月、シャビ・エルナンデスが「ルーニーは中盤に下がったほうが長くプレイできるのではないか」といっておりましたが、これは数年先をイメージしたお話です。ところが、件の新聞は、ユーロ2016のフォーメーションについていっているのです。イングランド代表の「今」について、いよいよそんな声が出ましたか。いわれてみれば、総論として納得です。

コリーモアさんの論旨は、「イングランドの前線にはハリー・ケイン、ジェイミー・ヴァーディ、ウォルコット、ウェルベック、スタリッジとタレントが揃っている」「今季のプレミアリーグで、ルーニーは若いストライカーたちよりゴールを決められていない」「一方で中盤のミルナー、デル・アリ、デルフらは、ゲームメイクをする選手ではない」「ゆえに組み立ての才能があるルーニーにその役割をまかせるべきである」。これは、先日のスペイン戦でマイケル・キャリックが負傷したことを受けての見解でもあるのでしょう。イングランド代表は、キャリック抜きで夏に向けての準備をしなければならない可能性が高く、順調に復帰したとしても、34歳のセントラルMFにフルタイムの活躍を期待するのはリスクです。コリーモアさんは、長期離脱中のジャック・ウィルシャーが計算できない今、ルーニーが中盤で舵取りをするのがベストであり、その役割はヘンダーソンのものではないといっています。

「I believe that Rooney should be given a run-out at the heart of England’s engine-room.(私は、ルーニーはイングランドの機関室の中心に君臨する振り子としての役割を与えるべきと信じている)」
「If he regains his fitness, Jordan Henderson’s main attribute is his ability to get around the pitch.(フィットネスが回復すれば、ジョーダン・ヘンダーソンは彼の特質であるピッチを走り回る能力を発揮するだろう)」

人材豊富なポジションではなく、ウィークポイントにルーニーのタレントを差し向けるというアイデアは、おもしろいと思います。懸念があるとすれば、本人がそれを受け入れるかどうかですね。サー・アレックス・ファーガソン監督の時代に、中盤へのコンバートを拒否したストライカーが、新しい役割を意気に感じてフィットすれば、イングランド代表だけでなくマンチェスター・ユナイテッドもより創造的になるのではないでしょうか。

元の記事の内容に関して私が感じたことは以上なのですが、今回の報道のありようについて、いいたいことがあります。これを日本に紹介したサッカー専門メディアの取り上げ方は、記事の趣旨やニュアンスを汲んでおらず、ルーニーに対してひどい扱いでした。「ルーニーを代表の前線から外せ! 代表最多得点の男にFW失格の声」という見出しはないでしょう。原文のタイトルは、「Wayne Rooney is still good enough for England – but Roy Hodgson must make him his middle man(ルーニーはイングランド代表にとって充分いい選手だが、ロイ・ホジソンは彼をMFにしなければならない)」。コリーモアさんは、元選手らしくルーニーに対してリスペクトを込めた書き方をしており、記事中にはホジソン監督に宛てたこんな一文もあります。

「The other plus point is that you don’t necessarily lose Rooney’s goals. He takes penalties and a lot of set-pieces anyway, so that would not be affected.(もうひとつ、プラスとなるポイントは、ルーニーのゴールを失わなくてもいいということだ。彼はどのみちPKや多くのセットプレーでゴールを奪うので、<中盤に下げてもピッチにいれば>影響はないだろう)」

これに対して、「FW外し」「FW失格」などという受け取り方をされたと聞けば、執筆者は落胆するに違いありません。日本の記者やジャーナリストが自説を主張するときは、それぞれの責任においてどんな書き方でもいいと思うものの、現地の記事を紹介する際は、煽るとしても文意に沿ったものにしていただければと思います。この仕事は、プレミアリーグとそこで活躍する選手への愛情を持ち、現地の状況を最低限把握している方がするべきでしょう。

私は、日本のメディアには、日頃さまざまな情報を配信していただいていることを感謝しているのですが、いくつかのメディアに対してがっかりしていることが、大きくひとつあります。それは、「カズ外し」にはじまり、中田英寿、中村俊輔、本田圭佑、香川真司など「強くなるためではなく、”出る杭を打つ”がごとくの〇〇外しが好き」という非建設的な姿勢です。今回は、同じ匂いがしたために、余計に気になったところはあるかもしれません。少し考えてみてください。ルーニーは、プレミアリーグと代表で250以上のゴールを決めているイングランド代表のキャプテンです。事実からかけ離れた修飾は排除して、可能な限り現地の気分やニュアンスを届けていただくよう、どうぞよろしくお願いいたします。

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“現地記事は「ルーニーを中盤へ」、日本では「ルーニー失格」…この差について思うこと” への4件のフィードバック

  1. シティふぁん より:

    更新ご苦労様です。

    私も日本のスポーツ新聞的なメディアの発信の仕方は好きではなく、出来るだけ現地に依ったメディアか主様のようなブログから情報を得ています。
    サッカーに限らず、日本のスポーツメディアはこのような風潮があると思います。
    私は世代ではないのですが、以前プロレス好きの方と話をして、日本のメディアはどのスポーツもプロレスのように演出したがると聞いて至極納得しました。
    が、日本はそれでよくても海外のスポーツをこのように報道するのは敬意に欠けると思います。
    日本のメディアはもうちょっと考えてほしいですね。

    —–
    ルーニーはゲームメイクできるのでしょうか
    確かにキックの精度とか運動量とかもあると思いますが
    イングランドで組み立てできるのはウィルシャーくらいではないかと思います

  2. makoto より:

    nyonsukeさん>
    そうですね。自前の意見をアピールするときと、現地報道や選手・監督の言葉を報じるときと、メリハリつけていただければと思います。

    シティふぁんさん>
    マンチェスター・ユナイテッドで一時期やっておりましたが、運動量とキックは問題なし、守備もまずまず、ウィルシャーよりも球離れよく周囲を動かしたりしていたこともあったので、できる・できないでいえば「できる」と思います。ただし、そのポジションでスペシャルな選手になれるかどうかは、場数を踏まないと何ともいえませんね。可能性は感じるのですが。

  3. Uボマー より:

    悪夢のようなモイーズ時代にはルーニーの中盤起用って多かったですよね。キャリック、フレッチャー、フェライニが不在になることが多くて、クレヴァリーを重用してました。…当時は弱かったわけだ。ルーニーのゲームメイク能力は未知数ですが、ロングシュートはかなり怖さがあるんじゃないでしょうか。

  4. makoto より:

    Uボマーさん>
    なるほど。ロングシュート、確かにおもしろいですね。モイーズさんは、これからどうするのでしょうか!?

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