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マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

選手の成長を阻害する!? イギリス紙が「26人ものレンタル選手を抱えるチェルシー」に問題提起!

イギリス紙「ガーディアン」が、若手選手を中心に26人を他クラブにレンタルに出しているチェルシーの手法に一石を投じています。「With Chelsea having 26 players out on loan, is it time to change the rules?」というタイトルのこの記事の問題提起は、「ルールを変える時期ではないか?」。彼らが懸念しているのは、チェルシーで試合に出られないため、他国のクラブにレンタルに出されている選手たちは、フランス、オランダ、ドイツなどのクラブを転々とすることが要因で、成長を阻害されているのではないか、ということ。このやり方は、プレミアリーグのトップクラブは多かれ少なかれ、どこも採用しているものなので、本質的にはチェルシーがどうこうという話ではないでしょう。

それでもこの記事で、ブルーズが俎上にのっているのは、26人と突出して人数が多く、象徴的だったからだと思われます。26人のなかにはフェルナンド・トーレスも含まれているので、若手ばかりで膨らんだ数ではありませんが、「これだけ多ければ、選手の7割方は青いユニフォームに袖を通せないじゃないですか。数を打って少数のアタリを残す、というやり方はひどくないですか」というお話でしょう。

これは、非常に難解な問題ですね。われわれ日本人がイメージしやすいのは、宮市亮ではないでしょうか。論点を2つに絞ってみますね。ひとつめの論点は、これです。

宮市亮が一流の選手をめざすうえで、どの道がいいのか
(1)アーセナルに入団して、レンタルで他クラブで修業を積んでトップクラブのレギュラーをめざす
(2)アーセナルに残って練習で争ってレギュラーをめざす
(3)Jリーグや海外の下位クラブなど、試合経験を積めるチームに腰を据える

そしてふたつめは、「上記1~3のキャリアステップのなかで、1がなくなる(あるいは制限される)ことは選手の選択肢が狭くなるということでもあるが、そのほうがよいのか」。宮市だけでなく、過去、稲本潤一、宇佐美貴史らが半ば青田買いでプレミアリーグやブンデスリーガのトップクラブの門を叩き、いずれも苦戦しました。香川真司のドルトムントも、この話と紙一重だったのかもしれません。それでも、クラブは若い才能をテストすることができ、選手にとってはチャレンジできたことはプラスであり、ファンも夢を見られたという「全員ハッピー」が成立するのであれば、ルールによってそのルートが制限されるのは決していいことではないという考え方もあります。

私は、こう考えます。ひとつめについては「どれもあり。ただし、1と2は狭き門であり、成功可能性は3より低いかもしれない」。ふたつめは、選手にとってのチョイスは多いほうがいいのではないか、と単純に思います。つまり、この話は、クラブの問題ばかりではなく、オファーを受ける選手側の生き方の問題でもある、ということですね。「選手が、成功確率が低いことを承知でチェルシーでレギュラーになりたいんだ、という意志を持ってレンタル先でがんばっているのであれば、それはそれでいいのではないか」と。ただしこれらは、あくまでも感覚値であり、この考え方に固執するものではありません。何しろ、「レンタルされる選手は、ひとつのクラブに定着した選手よりも伸び悩むものなのである」という事実も、その逆を証明するデータも、今のところどこにもないわけです。

つまり、見方を変えればポジティブに言い切ることもできるということです。「そもそも、一流になれる選手はひと握り。記事では、チェルシーに残ったのはクルトワひとり、といっているものの、この仕組みの中で頭角を現した選手として、ルカクやデブライネもいる(全員、ベルギー人ですね)。”成長したかどうか”という論点のなかでは、クラブに残る・残らないは別な議論。30人弱のレンタルを抱えている中から3人も一流を出したのだから、チェルシーのシステムは優秀じゃないか」と。いずれにしても、トップクラブが抱えている若手選手が他と比べて成長が阻害されているのか、そしてその要因がこういった仕組みにあるのかどうかが明確にならなければ、おいそれと結論は出せない話ではあります。

ルール変更については、「ひとりの選手に対して、ひとつのクラブはレンタル〇回までしかさせられない」「レンタルの年齢制限」「レンタルの人数制限」などの可能性があるでしょう。現在、プレミアリーグでは人数については、「国内クラブからレンタルできる選手は1シーズンに2人まで」「同じクラブから複数選手のレンタルNG」というルールがありますが、国外は無制限で、年齢や回数などの縛りはなし。無理に条件で縛ると、レンタルに出せずに飼い殺し状態になる選手が出たり、期限が迫っているという理由で選手が望まない移籍が生じたりするリスクもあるので、「契約選手の総数制限」ぐらいしか打ち手はなさそうです。しかし、これもどうなのでしょう。いいアカデミーを持ち、数多くの自前の選手を育てたところほど、選手の未来の見極めができない段階で泣く泣く放出する選手が多くなるということにもなりかねません。ルール変更も、なかなか難しそうです。

ガーディアンの記事は、論点をはっきりさせるために、選手の成長の問題にフォーカスしていますが、レンタルの選手が多いという話は「公平な競争が担保できるか」「レンタル選手だらけのクラブをサポーターは愛せるのか」など、別な問題も内包しています。わかりやすくするために極端な例を挙げますが、「クリスティアーノ・ロナウドをレンタルで獲得したマンチェスター・ユナイテッドが、チャンピオンズリーグ決勝で彼のハットトリックでレアル・マドリードを倒したら、双方のクラブのサポーターや、多くのサッカーファンはどう思うのだろうか」ということです。せっかくの最高の舞台が、「レアル・マドリードは何で貸したんだ」「マンチェスター・ユナイテッドは借り物で優勝した」などというネガティブな言葉で語られるのは残念なことです。われわれファンは、クラブを愛する選手たちが、自身のプライドやチームの名誉を賭けて必死に戦う姿に感動するのだと思います。

今回、記事を書いたガーディアンの記者の方は、事実関係がはっきりしていないことは承知のうえで、それでも気になって一石を投じたのではないかと推察します。現場に近いジャーナリストのみなさんが、もやもやしながらも批判を怖れて黙っているのではなく、果敢に問題提起してわれわれプレミアリーグファンに知る機会を提供してくれるのはいいことだと思います。その意気を受け止めるのであれば、読者の側も、短絡的に「チェルシーひどい!」とせずに、「こうなったらおもしろいのではないか」「こんなことも知りたいね」と、建設的に会話できればいいのではないでしょうか。ひとりの専門家の勇気によって、プレミアリーグを楽しみつくすための、貴重な情報とテーマをいただけたわけですから。

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“選手の成長を阻害する!? イギリス紙が「26人ものレンタル選手を抱えるチェルシー」に問題提起!” への5件のフィードバック

  1. より:

    ホントに難しい話ですね。

    若手の育成が目的の他にも「完全移籍で欲しいけど、能力に確信ないからとりあえずレンタルで1年試す」というパターンもあるでしょうし、若手選手に関しては、「レンタルに出て活躍すれば引き抜いてもらえる」と思って出てる人もいるんじゃないですかね。

    そういう意味では、将来有望(と思われる)多くの選手にチャンスを与えられるレンタル制度は良いんじゃないかなーって思います。

    ただ、ローンで加入してきた選手は、あまり気持ち入れて応援できないというのは自分もありますが、「買取オプション付き」って言葉があると、気分が格段に違いますよね(笑

    レンタルではないですが、ユーヴェに行ったモラタの「3年間は買い戻しオプション付き」の移籍も、これまた応援する側からしたら非常にモヤモヤする内容ですよね。

  2. ワルテルFC より:

    ご さん>
    そうですね。「ルールを変えるべき」といっても、これといった妙案がないように思います。私も、レンタル移籍については現状のままでいいと考えており、「成長を阻害するようなレンタルを仕掛けるクラブ」があれば、選手側が「あそことの契約はやめよう」と判断すればいいと思ってます。悪いサービスには誰も手を出さなくなる、という市場の論理にまかせるということですね。いずれにしても、チェルシーが他と比べて特段悪いようには見えません。

    —–
    毎回、楽しい記事ありがとうございます。
    ブルーズ好きとしては、気になる記事でした。レンタルの仕組み自体は現状それほど悪いものではないと思います。ただ、(詳しくないので感覚的に書きますが)最近、チェルシーはユース出身者と自国の選手があまりいないような…。そこが個人的には応援熱が冷めてしまっている原因かなと。新規加入選手も素晴らしいし、確かに今季は強いですけど。ランプスもいなくなり、“心情的な部分”で物足りなさは拭えないですね。

  3. パックン より:

    ブレイク前で手頃な値段の有望株を大量に獲得、レンタル先で活躍し価値が上がったところで売却、そして差額分を補強費に充てると。
    まあ手法としては賛否あるでしょうがこれはこれで有効なFFP対策の一つなのかもしれません。
    もちろん成績次第ではクルトワのように主力としてチームに復帰する事もあるわけで。
    選手としてもベンチ入りすら出来ずに飼い殺しにされるよりはずっとマシでしょう。
    むしろイングランド人の若手は国外へのレンタルをどんどん経験した方が良いのではと個人的には思ったりもしますね。

  4. Joe より:

    Wallace (Vitesse Arnhem, loan),
    Bertrand Traore (Vitesse Arnhem, loan)
    Thorgan Hazard (Borussia Monchengladbach, loan),
    Mario Pasalic (Elche, loan),
    Ryan Bertrand (Southampton, loan),
    Gael Kakuta (Rayo Vallecano, loan),
    John Swift (Rotherham, loan),
    Oriol Romeu (Valencia, loan)
    Christian Atsu (Everton, loan),
    Victor Moses (Stoke, loan),
    Marko Marin (Fiorentina, loan),
    Josh McEachran (Vitesse Arnhem, loan),
    Patrick Bamford (Middlesbrough, loan),
    Fernando Torres (AC Milan, loan)
    Marco van Ginkel (AC Milan, loan),
    Nathaniel Chalobah (Burnley, loan),
    Jamal Blackman (Middlesbrough, loan)

    ローン選手は17人だと思ってました。ソースはインディペンデントです。

  5. makoto より:

    ワルテルFCさん>
    おっしゃっている「応援熱」のお話も、この問題のひとつのテーマですよね。

    パックンさん>
    レンタル費で一定回収できて、海外での武者修行が成長につながるケースもありそうで、今の運用は何かとよさそうなんですよね。

    Joeさん>
    24人まではWikiに載ってますね。

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