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ルール見直しが必要か?「ホームグロウン選手」のプレミアリーグ出場はチームあたりでわずか3.5人!?

「ホーム・グロウン選手=イングランド人」ではないのですが、この問題を語るとなると、サッカーの母国・イングランドの弱体化に触れないわけにはいきません。最近、「ホーム・グロウンルール」につながるトピックスがいくつか、イギリスの新聞紙上を賑わしていました。「ホーム・グロウン選手のプレミアリーグ出場はわずか13.9%」「イングランド人選手の成績だけでみればチェルシーは18位」「プレミアリーグでゴールを決めた選手は91ヵ国」というお話です。

「そもそもルールがよくわからない」という方もいらっしゃるかと思いますので、最初に、ホーム・グロウンルールについて、おさらいをしますね。プレミアリーグで2010-11シーズンから導入されたこのルールは、「クラブは25人の登録選手のうち、ホーム・グロウン選手を8人以上登録しなければならない」というもの。ここでいうホーム・グロウン選手とは、「15歳~21歳の誕生日の間に3シーズンもしくは36ヵ月以上、イングランドかウェールズのクラブでプレイした選手」で、国籍は問われません。アーセナルの宮市亮は、ヴェンゲル監督がルールを満たすべくチームに留めたこともあって、ホーム・グロウン選手のひとりとなっています。

登録は8人必須なのですが、「国際スポーツ調査センター(CIES)」の報告によると、10月21日までのプレミアリーグの試合に出場した選手において、ホーム・グロウン選手の割合は13.9%にとどまるそうです。単純計算ですが、25人の13.9%は約3.5人。このデータからわかることは、ホーム・グロウン選手として登録されている選手の半数以上が、未だリーグ戦に出ていない」ということ。リストのなかには、半ば数合わせ、名義貸しのような状態でクラブに拘束されている選手もいるでしょう。

ちなみに、他国リーグをみると、いちばん比率が高いのは、リーグ・アンの24.6%。ベンゼマ、グリーズマン、ジルー、ドビュッシーなどの代表選手が国外で活躍しているフランスでは、即戦力として獲得された外国人選手に負けずに、一定数のフランス人を中心とした生え抜き選手ががんばっているようです。フランスに続くのはスペインの22.4%で、ブンデスリーガが16.4%。欧州の主要リーグでプレミアリーグより低いのは、セリエAの9.6%のみ。比率が小さいイタリアとイングランドの代表チームが、このところ芳しくないというのは象徴的です。ホーム・グロウンルールによって、多国籍化によるクラブのアイデンティティ喪失の抑制、自国選手の成長、クラブの選手育成強化が実現すればいいのですが、イングランドにおいては、ルールが狙い通りの成果を挙げているとはいえません。

話は若干変わりますが、プレミアリーグ公式記録を管理する「オプタ」がおもしろい記録を紹介していました。イングランド人選手のゴールだけでクラブの得失点と勝敗を集計すると、以前は多国籍集団の代名詞だったアーセナルが、イングランド代表選手6人を擁して無敗で首位。ケーヒルとテリーしかゲームに出ていないチェルシー(今後もベーカーやソランケをプレミアリーグで観ることはないでしょう)は、ノーゴールで18位に沈むそうです。チェルシーは、最近若手育成に力を入れているクラブですが、彼らが育てているのはまさしく「ホーム・グロウン選手」であって、イングランド人選手ではないわけです。それぞれにルールを守っている以上、アーセナルとチェルシーの間にいい・悪いはないのですが、プレミアリーグ首位のクラブに、ベテランCBコンビしかイングランド人の「戦力」がいないという話は、自国選手強化という目線では、考えさせられるところです。

先日、サウサンプトンがサンダーランドを8-0で下した試合で、ワニャマがケニア人としてプレミアリーグで初ゴールを決め、イギリス紙「ガーディアン」が、91ヵ国めと紹介していました。海外資本とテレビ放映権料をバックに世界一の金持ちリーグとなったプレミアリーグの上位クラブが、世界じゅうの選手に目を光らせて即戦力獲得に走るのは至極当然のことでしょう。各クラブとも若手育成を強化してはいるものの、育てた選手が経験を積める場所は限られており、公式戦ではキャピタルワンカップか、武者修行として出されたレンタル先のクラブとなっているのが実情でしょう。

話が拡散気味になってしまい、恐縮ですが、そろそろまとめましょう。プレミアリーグの「ホーム・グロウンルール」は、選手が試合経験を積むための場数担保にはつながっておらず、むしろ有望な若手を試合で使えないまま拘束してしまう「塩漬け機能」の一助となってしまっているのではないでしょうか。そしてまた、イングランド人選手の移籍金が、ホームグロウンの名義料が乗っかったかのように高騰しており、ビッグクラブがイングランド人の代表クラス獲得を諦めるケースも散見されています。

本質的には、この話は、「イングランドからもっといい選手が出てくれば、おのずとホーム・グロウン選手の比率が上がり、人数合わせのようなことをしなくてもよくなる」ということなのですが、国を挙げての選手育成強化策となると、成果が出るまでには時間がかかるでしょう。「クラブにお金があっていい選手を獲れるのに、実力が足りない選手をメンバーに含めないといけない」という弊害が顕著なのがプレミアリーグ、という現状は由々しき問題ですね。プレイヤーとして大事な時期を、ベンチで過ごしている選手が多いというかわいそうな状況を打開する策はあるのでしょうか。

私見ですが、ルールがなくなっても、1チームあたりのホーム・グロウン選手出場数3.5人という数字は、さほど変わらないのではないかと思います。一方で、ホーム・グロウンルールがなければ、クラブは数合わせをする必要がなくなり、束縛が解けた若手選手たちが海外に活躍の場を求め、将来のイングランドは「いい選手の輸出国」という、現在のスペインやフランス、ベルギーの立ち位置に近づけるかもしれません。イングランドの復権という命題を考えるならば、ホーム・グロウンルールは「登録選手25人」「ホーム・グロウン選手8人」のいずれか(あるいは両方)を見直す時期にきているように思います。とはいえ、このルールはチャンピオンズリーグの登録選手枠と整合性をとっているので、欧州のほうが変わらないとどうしようもないのかもしれませんが。外国人ばかりのクラブを地元のサポーターが愛せるのか、という問題もあり、考えれば考えるほど、モヤモヤするテーマですね。歯切れが悪くて、すみません。

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“ルール見直しが必要か?「ホームグロウン選手」のプレミアリーグ出場はチームあたりでわずか3.5人!?” への3件のフィードバック

  1. のり より:

    もっと単純に英国人枠で良いと思うんですけどね

  2. makoto より:

    のりさん>
    そうですね。「現在は、外国人選手をユース年代から育成しているクラブが多い」というような実勢を考慮し、あれこれ盛り込み過ぎて、ルールも目的もわかりづらくなった感があります。

  3. パックン より:

    ブンデスとプレミアの比率の差がわずか2.5%しかないわけであまり関係ない気もしますけどね。
    結局はユース年代の育成能力の差だと思いますよ。
    時間がかかってもコツコツやってくしかないように思います。

    個人的にはリーガやブンデスのようにBチームの下部リーグ参入を考えて欲しいです。
    わざわざレンタルに出さずとも若い選手に真剣勝負を経験させる事が出来ますからね。
    トップチームに欠員が出れば直ぐに補充も出来るますし。
    まあ色々と解決すべき問題も多いので保守的なFAがやるとも思えませんけど。

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