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「監督の賞味期限は2年」…監督解任続出の今、注目したいワトフォードのクラブ経営哲学

エヴァートンのロナルド・クーマン監督は2勝2分1敗、レスターのクレイグ・シェイクスピア監督は1勝3分。それぞれ今季のプレミアリーグにおける戦績ですが、TOP6との対戦を抜くとこうなるというお話です。昨季のプレミアリーグでエヴァートンを7位に引き上げ、ヨーロッパリーグ出場権を獲得した監督と、ラニエリ監督の後を受けて選手たちに優勝したときのサッカーを思い出させた監督だけに、相次ぐ解任に批判的な目を向ける方も多いでしょう。2人に共通しているのは、降格ゾーンの18位に落ちたタイミングで解任を告げられたことです。「両クラブの経営陣は、やばい順位を目の当たりにしてパニックに陥った」と受け取っている方もいると思われます。

一方、今回の解任劇を経営者側からの目線で見れば、「監督が新戦力を活かせなければ、多大な投資がムダになってしまう」「立て直しのプランが見えず、未来を託せない」ということになるのではないでしょうか。シェイクスピア監督は、イヘアナチョ、デマライ・グレイ、イスラム・スリマニといったタレントを使いこなせておらず、彼らは揃って今季プレミアリーグでノーゴール。ラニエリのスタイルを踏襲する以外に、戦術の引き出しはないように見えました。クーマン監督のチームでは、夏に加わったシグルズソンやマイケル・キーンに昨季の輝きはなく、サンドロ・ラミレスとクラーセンはフィットする兆しがありません。新戦力でまずまずの結果を残しているのは9戦4発のルーニーだけ。攻守ともに改善に向かっていない状況を見て、筆頭株主のファルハド・モシリ氏をはじめとする経営ボードは重い決断をしたのでしょう。

監督解任のサイクルが早まっている近年のプレミアリーグを見ていると、「短期的な結果で使い捨てのように監督を代えていると、チームを強化できないのではないか」といいたくなりますが、「中位にいるクラブにとって、監督が役割を果たせるのは短い期間だけだ」といい切っているクラブがあります。今季プレミアリーグで4勝3分2敗と健闘し、6位につけているワトフォード。「BBC」に掲載された10000字を超えるレポート「Watford: A rising force through careful planning not instability and chaos(ワトフォード:不安定やカオスなく慎重を期して計画する新興勢力)」が、スコット・ダクスベリーCEOのクラブ経営哲学を紹介しているのですが、彼にいわせれば「監督の賞味期限は2年」だそうです。

「私は不都合な真実をいっている。われわれが多くの監督を起用してきたため、メディアは不安定だと描きたがる。しかし振り返ってみれば、われわれが全員にピッチの内外で成功するための環境を提供してきたことがわかるはずだ」

なるほど。では、振り返ってみましょう。2012年6月にイタリア人実業家のジノ・ポッツォ氏がクラブを買収し、ダクスベリーCEOとジラルディTDとの3人体制になってから、ワトフォードが招聘した監督は8人です。ジャン・フランコ・ゾラ、スラヴィシャ・ヨカノヴィッチ、キケ・サンチェス・フローレス、ワルテル・マッツァーリ…錚々たる顔ぶれをチェックしていると、われわれは奇妙な事実に気づかされます。彼らが監督をシーズン中に解任したのは、チャンピオンシップで13位に沈んだ2013-14シーズンのみ。この1年に限っては、サンニーノ、オスカル・ガルシア、マッキンリーと3人の監督を起用しているのですが、他の4年はひとりの監督にフルシーズン指揮を執らせており、しかも全員が1年でクラブを去っています。

「安定的な環境を構築するのは常識だ。現実的にアプローチし、歴史がそれを正しいと示唆するならば、監督が成功しても失敗しても、その理由が何であっても、クラブに残されたインフラによって別の監督につないで発展し続けることができる」
「過去5年間モデルは機能しており、実際にわれわれは安定したフットボールクラブだ。リソースは有効活用されており、コーチが何らかの理由でいなくなってもクラブが脱線することはない」

ダクスベリーCEOが指揮官に要求しているのは、コーチング手法と人材マネジメント。「彼にはわれわれが探し求めていたプロフェッショナリズムがある。スカッドマネジメント、マンマネジメントともに見事だ」とマルコ・シウヴァ監督を評価しながらも、「監督の役割は非常に重要だが、フットボールクラブを成長・発展させることは期待していない。彼のコアコンピタンスに集中できなければならない」と、クラブ経営陣と現場との役割に明確に線を引いています。

「プレミアリーグの歴史においては、われわれがシーズン中にコーチを変更したことはない。同じ監督ですべてのシーズンを終えている」「オフシーズンには、われわれがどこをめざすのか、どう向かうのかを話し合う。イデオロギーと方向性によって監督を代えようという議論になることもあり、そうなれば必然的に調整することになる」。1年のリサーチの末に、マルコ・シウヴァ監督とともにギャンブルであることを覚悟してリシャルリソンを獲得したと語るダクスベリーCEOは、「監督が要望した選手を獲るが、だからといって彼に負担をかけるわけにはいかない」とも語っています。

昨季はプレミアリーグ17位と残留ラインすれすれだったワトフォードを成功とするのか、指揮官を毎年代えるのがチーム強化という観点で効果的なのかは意見の分かれるところでしょう。それでも、「経営ボードが長期的な視座をもってチームを創っていれば、監督が代わっても継続的に進化できる」「指揮官に過度に負担をかけず、フルシーズンまかせる」といった考え方については納得感があります。エヴァートンとレスターの経営陣に、長期的なクラブ強化のポリシーはあるのでしょうか。有能な指揮官たちは、順位テーブルがトリガーとなって解任されたように見えただけに甚だ疑問ではあります。

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“「監督の賞味期限は2年」…監督解任続出の今、注目したいワトフォードのクラブ経営哲学” への2件のフィードバック

  1. グッチ より:

    更新お疲れ様です。難しい話なので誤読誤解をしているかもしれませんが考えを綴らせていただきます。
    チームスカッドにとって選手が代替可能であるように、一定の基準の元に選定された監督であればクラブにとっては名前も同一人物であるかも重要ではなく継続性を担保するのはその基準そのものというのは確かに一定の説得力があります。監督は期待された通り現場に集中することが仕事であり、仮に期待される「結果」から外れてもアプローチが間違っていなければそれは現場ではなく任命責任という考えは個人的には好きです。
    後はプロスポーツの世界なので結果で正しさを証明してくれればと思います。勝てなければ経営陣にその問題がぶつかり、それこそ継続性を揺るがしかねないので期待したいと思います。

  2. makoto より:

     ここ最近のクレバリー、グレイ、チャロバー、イングランド選手の活躍もファン

    にとっては嬉しい出来事でしょうね♪ ワトフォード経営哲学・・・吉と出るか

    !?凶と出るか!? 見守って行くのも面白そうですね。

    —–
    グッチさん>
    誤読はしてらっしゃらないと思います。成績不振だから展望なく監督のクビを切るという考え方とは一線を画してますよね。長期間采配を執る監督とそのクラブが好きだったのですが、長期的なのは監督ではなくてもいいという考え方は目からウロコでした。

    背番号4さん>
    おもしろいです。いいサッカーしてますよね。今季どこまでいけるか注目したいと思います。

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