偏愛的プレミアリーグ見聞録

着々と話は進んでいるようです。プレミアリーグ、いや、世界でも屈指のGKペトル・チェフが、アーセナル移籍で基本合意と報じられました。ニュースソースは、「スカイスポーツ」。”数打ちゃそのうち当たる”の「テレグラフ」や、おもしろさ重視の「ザ・サン」ではないので、そのまま受け取っていいのではないでしょうか。今後は最終的な移籍金の確定、メディカルチェックと進み、そう遅くないタイミングで発表されるものと思われます。昨季のプレミアリーグでガナーズの最終ラインを落ち着かせたオスピナもいいGKですが、チェフの加入でアーセナルの最終ラインは目に見えて強固になるのではないかと思います。

オスピナにはトルコ移籍の話があり、グーナーのなかには、活躍してくれた26歳のGKを1年で放出して、33歳を招き入れることに批判的な方もいらっしゃるでしょう。しかし私は、今回のチェフ獲得が、マネージャーとしての残り時間が少なくなったヴェンゲル監督に大きなタイトルをもたらすのではないかと期待しています。チーム状況は違うのですが、アーセナルが世界的なGKを狙っているという報を最初に聞いた時、2005年6月に34歳でマンチェスター・ユナイテッドにやってきたファン・デル・サールを重ね合わせたのです。

当時を振り返ってみましょう。マンチェスター・ユナイテッドにとって、2003年からファン・デル・サールの1年めであった2005-06シーズンまでは暗黒の時代でした。プレミアリーグが始まって以来、3季連続で優勝できなかったのはこの時だけです。オランダ代表GKがフラムからやってくる直前までの正GKは、思い出したくない黒歴史といっていいロイ・キャロル。今でこそ、名GKという評価を不動のものにしているティム・ハワードがスランプに陥ってしまい、北アイルランド出身の背番号13がゴールマウスに立ったのですが、シーズン中に何度「おっと！」「危ない！」と叫んだことか。不安定な守備を立て直せなかったマンチェスター・ユナイテッドは、アーセナルに無敗優勝を許した後、モウリーニョ第一次政権のチェルシーに連覇を許したのでした。

ところが、この翌シーズンからマンチェスター・ユナイテッドは、プレミアリーグの歴史で唯一の3連覇と2007-08シーズンのチャンピオンズリーグ制覇を成し遂げます。チームの守備の中心にいたのは、20代後半にユヴェントスで苦しみ、一時は終わったとまでいわれていたファン・デル・サールでした。サポーターとしては、2007-08シーズンのチャンピオンズリーグ決勝、雨のモスクワでアネルカのPKをストップしてくれたビッグイヤー獲得の日も忘れがたいのですが、守護神のキャリア最大のハイライトは、翌シーズンに達成した1311分連続無失点というプレミアリーグ記録でしょう。

1025分というそれまでの記録保持者だったチェフは、GK個人として最高級の栄誉であるこのレコードを奪回することも、プレミアリーグに残りたい理由のひとつだったといっているそうです。これが実現したとき、アーセナルは11シーズン手にしていないプレミアリーグ優勝を果たしているのではないかと思います。私もマンチェスター・ユナイテッドのサポーターとして、クラブは活躍した選手を大事にしてほしいという気持ちはあるので、オスピナの将来を案じている方々の気持ちはわかります。しかし一方で、FAカップ3連覇だけでなく、より大きなタイトルを狙うガナーズにはチェフは必要なパーツでしょう。ファン・デル・サールは40歳まで、変わらぬ高いクオリティでゴールに鍵をかけてくれました。チェフも、この先5年はトップフォームを維持してくれるのではないでしょうか。正式発表まで秒読み状態に入ったようです。グーナーのみなさん、来季が楽しみですね！