イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

欧州、全滅!プレミアリーグの急激な凋落・4つの仮説(1)アドバンテージの喪失

アーセナルは慢心、リヴァプールは出遅れ、チェルシーは疲労、マンチェスター・シティは自信喪失、エヴァートンは混乱、トッテナムは若さ。チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグにおけるプレミアリーグ勢の敗因にひとつワッペンを貼るとしたら、こんな言葉になるのではないでしょうか。全滅、ベスト8なし。チャンピオンズリーグでは、2012-13シーズンにもベスト8ゼロチームという厳しい状況を経験しておりますが、この年はグループリーグで3位敗退となったチェルシーがヨーロッパリーグで優勝しており、何とはなしに「プレミアリーグにとっては珍しく厳しいシーズンだったけれど、EL獲ったし来年巻き返せばよい」というムードがあったように思います。

しかし、今季は言い訳のしようがない無残な結果です。この稿では、各クラブの敗退の景色を紐解きながら、あらためてプレミアリーグ凋落の理由を考えてみたいと思います。この重いテーマには、さまざまな要素が複合的に絡んでおり、どれがいちばんの要因なのかを特定するのは難しいでしょう。ここで述べるのは、あくまでも「仮説」であることを添えさせていただきつつ、思い思いに楽しんでいただければ幸いです。

(1)アドバンテージの喪失
話はかなり遡りますが、1980年代後半から90年代にかけては、セリエAの全盛期でした。1988年からの6年間で、ACミランがチャンピオンズカップ(1992年よりチャンピオンズリーグ)優勝3回。当時のUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)では、7年間でセリエAが6回優勝しており、1996年のチャンピオンズリーグもユヴェントスが制しました。その頃のイングランド勢は、1985年の「ヘイゼルの悲劇」によって欧州大会から締め出されており、復帰してからもしばらくは勝てない時期が続きました。

イングランドリーグがその枠組みを変えて、プレミアリーグとなったのは1992年。アーセン・ヴェンゲル監督が、クラブ初の外国人監督としてアーセナルに招聘されたのは1996年。イギリス紙が、とにかく癪にさわるフランス人監督を「Arsène Who?」と書き立て、ゲイ疑惑まで流されたヴェンゲル監督は、イングランド中心主義がはびこっていた当時は革命的な存在でした。10代だったアネルカ、ヴィエラなどフランスを中心に海外の若手選手を青田買いし、ベルカンプやアンリなど他国でくすぶっていたワールドクラスをポジションのコンバートなどで次々と再生。時を同じくして着々と強化に成功していたサー・アレックス・ファーガソン監督とともに、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルの2強が台頭したプレミアリーグは復活を遂げ、1998-99シーズンにマンチェスター・ユナイテッドはトレブルを達成。ヴェンゲル監督が持ち込んだ外国人選手補強や若手育成の手法は、国内各クラブに影響を与え、1999年にはチェルシーがイングランド人選手のいないスタメンを記録。アーセナルもこれに続くと、ヴェンゲル監督は「パスポートを確認してスタメンを選んでいない」とうそぶきました。

セリエAがその全盛期に株式上場でうまくいかなかったのは、彼らには自前のスタジアムがなく、資産と呼べるものがスター選手たちだけだったからでしょう。大物が他クラブに移籍するたびに株価が暴落していれば、安定的な経営は望めません、一方、プレミアリーグは、すべてのクラブが自前のスタジアムを持ち、クラブが強くなっていくとともに資産であるスタジアムも大きくなり、外部からの資金調達を容易にします。

2004年からは、プレミアリーグの全盛期。2012年までの8季のうち、7季にチャンピオンズリーグでファイナリストを送り込み、2006年からの3季は、ベスト4のうち3チームをプレミアリーグ勢が独占。2007-08シーズンにマンチェスター・ユナイテッド、その4年後にはチェルシーがチャンピオンズリーグを制覇します。

プレミアリーグで勝てれば、欧州で勝てる。

つい3年前までは、欧州のサッカーシーンはプレミアリーグを中心に回っていたのです。若手や中堅選手がプレミアリーグに拾われて育ち、ワールドクラスとなり、財力のあるスペイン2強に輸出していた時代。しかしここ数年、その地図は急激に変化します。代表レベルでのスペインとドイツの台頭。オイルマネー投入やマーケティングの成功、スタジアム建設などによる欧州各地の主要クラブの経営強化。今まで、プレミアリーグがアドバンテージとしていたノウハウやインフラが欧州全土に広がり、もはや差はなくなりました。

強かった時代はさして気にならなかったタイトなスケジュールやウインターブレイクの問題、カップ戦の試合数などがより語られ出したのは、ここ数年のことです。マラソンやバレーボールで強かった日本が、世界で勝てなくなっていった構図と似ているのかもしれません。現在は、「強いプレミアリーグがスケジュールに足をとられて、ときどき負けている」のではなく、「アドバンテージを失い差を詰められ、強くなくなったプレミアリーグは、スケジュールなどの問題にいじめられてる場合ではない」といったほうがしっくりくるのではないでしょうか。次稿からは、「今は決して強くはない」ことを前提に、敗因につながったであろういくつかのテーマについて触れていければと思います。

この稿は、「欧州、全滅!プレミアリーグの急激な凋落・4つの仮説(2)欧州に本気ではないプレミアリーグ勢」に続きます。

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