偏愛的プレミアリーグ見聞録

ユーロ2020は、ファイナルのPK戦で2人めまでリードしながら、若手の失敗が連鎖してイタリアに惜敗。7試合のうち6試合をウェンブリーで戦えるというアドバンテージがあったとはいえ、イングランドが欧州屈指のチームであるという評価は揺るがないでしょう。カイル・ウォーカーが完璧だった守備陣は、7試合を2失点に抑えました。メジャーな大会で55年ぶりの決勝進出を果たしたチームは、3月から始まったワールドカップ欧州予選でも最初の3試合で1失点しか喫しておらず、全勝で首位を快走しています。

プレミアリーグ2021-22シーズンは3試合で中断。インターナショナルマッチウイークに入り、イングランド代表は2勝1分と好調のハンガリーとの首位攻防戦に臨みました。9月2日、首都ブダペストのプシュカシュ・フェレンツ・シュタディオン。ガレス・サウスゲート監督がピッチに送り出した11人は、現在のベストメンバーです。

GKピックフォード、DFカイル・ウォーカー、ジョン・ストーンズ、マグワイア、ルーク・ショー。中盤センターはカルヴァン・フィリップスとデクラン・ライス、2列めにスターリング、メイソン・マウント、グリーリッシュ、最前線は昨季プレミアリーグ得点王のハリー・ケイン。このチームは、低調な時間とハイテンションなアタックを繰り返す時間の差が激しいのですが、ハンガリーとのアウェイゲームも前半と後半は別の集団でした。

ハーフタイムまで0‐0。ルーク・ショーのCKを叩いたマグワイアのヘッドと、ハリー・ケインのクロスがメイソン・マウントに当たってGKの前に流れたシーン以外は、ゴールの匂いがするチャンスはありませんでした。凡庸な45分を終え、セカンドハーフに入ると、開始5分にカイル・ウォーカーが猛攻の開始を告げる超絶スルーパスをラインの裏に送りました。

オルバンを左手で抑えながら放ったハリー・ケインのシュートは明らかにミスキックで、GKグラーチが右足でブロック。攻め続けたアウェイチームが先制したのは55分でした。左サイドからドリブルで上がったのはジャック・グリーリッシュ。追い越していったメイソン・マウントに縦パスが転がると、ゴールラインまで抉ったチェルシーのアタッカ―は、中央でフリーだったスターリングに完璧なグラウンダーを通しました。イージーなハーフボレーが右隅に決まり、0‐1。グリーリッシュの柔らかいタッチを見ていると、思わずため息が漏れてしまいます。

2点めは63分。相手のクリアをハーフライン手前でカットすると、ボックスの右手前にいたメイソン・マウントが外のスターリングにダイレクトで浮き球を通しました。10番がゴール前に折り返すと、ヘッドで押し込んだのはハリー・ケイン。今のイングランドにとって、2点差はセーフティーリードです。67分のグリーリッシュのスルーパスも絶品でした。ボックス左に飛び出したハリー・ケインの一撃はグラーチに左足で弾かれてしまいましたが、直後のCKをルーク・ショーがマグワイアに合わせ、勝負は決しました。

マンチェスター・ユナイテッドのCBが正面に放ったヘッダーを後逸したグラーチは、78分にグリーリッシュのスルーパスで抜けたハリー・ケインのフィニッシュをストップしますが、87分にもキャッチミスでゴールを許してしまいました。ジョン・ストーンズのサイドチェンジをボックス右で受けたのはグリーリッシュ。シュートコースが空かないと判断した7番がボックスの入り口に落とすと、デクラン・ライスのダイレクトショットに反応したGKはうまくセーブできず、ボールは左脇を抜けてしまいました。

「BBC」のマン・オブ・ザ・マッチは中盤を仕切ったカルヴァン・フィリップスですが、私にとっては「グリーリッシュがあまりにも美しかった試合」でした。オーバーラップしてきた選手に通す柔らかい縦パスは、タイミングも速度計算もパーフェクト。ハリー・ケインをラインの裏に走らせた2本のスルーパスも、普通のMFには見えない狭いコースを通した職人技でした。マンチェスター・シティは、いい買い物をしたと思います。5日のアンドラ戦はベンチスタートでしょうか。1億ポンドのプレーメイカーの鮮やかなパスとクロスを堪能したいのですが…。