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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

新体制で総額9億ポンド!高額移籍金で選手を買いまくるチェルシーがFFP違反を問われない理由。

モイセス・カイセドを1億1500万ポンドで獲得したチェルシーが、ロメオ・ラヴィアも手中に収めました。サウサンプトンと握った移籍金は総額5800万ポンド(約107億円)。最初に5300万ポンドを払い、設定した条件をクリアすればアドオンの500万ポンドを追加する契約です。ラヴィアの売却額の20%を受け取るセルオン契約を結んでいたマン・シティは、労せずして1060万ポンドをゲットしています。

昨夏からラヴィアを追いかけていたロンドンのクラブは、早いタイミングで口説き落としており、本人の同意を得られなかったレッズを退けました。メディカルチェックを無事に終えれば「DONE DEAL」。リヴァプールとの2つの争奪戦は、先にクラブ間合意を許したブルーズが逆転連発でダブル達成となりそうです。

ニコラス・ジャクソン、エンクンク、アンジェロ・ガブリエウ、ウゴチュク、ディサシ、ロベルト・サンチェス、カイセド、ラヴィアに投じた移籍金の総額は3億5200万ポンド(約650億円)。1月にエンソ・フェルナンデスに1億600万ポンドでオファーし、プレミアリーグレコードを叩き出したクラブは、たった7ヵ月で自らの記録を更新してしまいました。

2022年6月にチェルシーの経営権を掌握したトッド・ベイリーとクリアレイク・キャピタルは、3回のトランスファーマーケットで9億ポンド(約1662億円)を超える大型補強を敢行しました。この夏はまだ終わったわけではなく、クリスタル・パレスのマイケル・オリーズなど2人のアタッカ―と、レアル・マドリードに貸し出されるケパの代役を獲るといわれています。

これほどの出費をしながら、FFPに引っかからないのはなぜ?精緻な取材と調査に定評がある「アスレティック」が、「For the third transfer window running, Chelsea’s spending is the talk of football(3回のトランスファーマーケットを通じて、チェルシーの出費が話題になっている)」と題した記事を配信しています。

リアル・トーミ―記者とサイモン・ジョンソン記者のレポートは、チェルシーが赤字を抑えられると考えている理由を丁寧に解説しています。最大のポイントは、支払う移籍金が契約年数で割る減価償却費であるのに対して、受け取る移籍金は償却の残額を差し引いた全額を単年度の帳簿に盛り込めるということです。

彼らが3回のマーケットで行った9億ポンドの投資は、すべてが5年契約だとすると単年の減価償却費は1億8000万ポンド。一方で、生え抜きのメイソン・マウントの売却でマンチェスター・ユナイテッドから支払われる初期費5500万ポンドは、すべて今期の数字となります。

2020年に7000万ポンドで獲得したカイ・ハヴェルツは、アーセナルからもらえる初期費6000万ポンドから、残り2年の減価償却費を引いた3200万ポンドが収益です。夏のマーケットにおける選手の売却で、2億ポンドを超えるキャッシュを手に入れているクラブは、すべての選手が5年契約で残り2年だとしても、1億2000万ポンドを収入として記載できる計算になります。

さらにチェルシーは、契約の長期化による減価償却費の負荷分散という手を使っています。1月に加わったムドリクとエンソ・フェルナンデスは8年半契約。先頃、UEFAが「移籍金は最長5年までしか償却できない」というルール変更を行いましたが、プレミアリーグには未だ適用されていません。このルールが厳守となったとしても、昨シーズンのディールはセーフです。

実際のところ、トッド・ベイリーが売却したのは、コヴァチッチやプリシッチなど在籍期間が長いため残りの減価償却が小さい選手と、メイソン・マウントやロフタス・チークといった償却ゼロのアカデミー出身者です。「アスレティック」の2人の記者は、報道されている移籍金と契約年数で試算し、チェルシーの経営ボードが胸を張れる数字を掲載しています。

「トッド・ベイリーとクリアレイクの過去3回のウィンドウにおいて、チェルシーの減価償却支出は推定1億5720万ポンドとなる。この著しく低い数字は、同期間の選手売却額1億4960万ポンドによって、会計上はほぼ相殺されている」

もうひとつ、チェルシーの赤字対策を挙げるとすると、出ていった選手はクリバリ、カンテ、オーバメヤン、アスピリクエタといった高額サラリーのベテランばかり。獲得は若手中心です。主力の入れ替えで固定人件費が下がれば、移籍金の減価償却の負担を緩和することができます。

シャツのメインスポンサーが決まっておらず、チャンピオンズリーグの出場権も持っていないクラブは、うまくやっているように見えますが、このスキームを成立させたのは高額で売れる選手の存在です。最大のリスクは、「カイセドやエンソ・フェルナンデス、ラヴィアが不発に終わり、移籍金が暴落する」というシナリオでしょう。

高額の移籍金で仕入れたヤングスターたちが伸び悩み、結果を出せず、売却もできず…となったとき、減価償却費の負担を軽くする手段は選手の売却しかありません。しかし今、高値が付く実績があるのはリース・ジェームズ、チルウェル、スターリングぐらいです。「高く買って高く売る」モデルは破綻するのか?その答えは、ピッチで確認させていただくこととしましょう。


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