偏愛的プレミアリーグ見聞録

スペインがフランスを2-1で下して、ひと足先にファイナル進出。ラストマッチを90分で勝ち切れば、史上初の全勝優勝となります。佳境を迎えているユーロ2024は、残り3チーム。ドルトムントのセミファイナル第2試合は、イングランドVSオランダです。サウスゲート監督は、大苦戦のスイス戦からCBを1枚代えただけで、大事なゲームに臨んでいます。

GKピックフォード、DFカイル・ウォーカー、ジョン・ストーンズ、グエイ。2センターはデクラン・ライスとメイヌー、アウトサイドにサカとトリッピアー、フォーデンとベリンガムの前にハリー・ケイン。スタンドで見守るイングランドのサポーターは、快勝は期待していないでしょう。序盤のビルドアップは、相変わらず縦にパスが出ず、詰まるシーンが目立っています。

ベリンガム、ハリー・ケイン、サカと右につながった5分のアタックは、ファーに上がったクロスがフォーデンに届かず。6分に敵陣でインターセプトしたサカは、出しどころがなく逆サイドまで持たされています。デクラン・ライスがシャビ・シモンズに自陣で奪われたのは7分。ボックス手前に持ち込んで放ったミドルは、ピックフォードの手を弾いてネットに突き刺さりました。

いきなりビハインドを背負ったイングランドは、早い時間にイーブンに戻したいところです。12分のFKを、ボックス左に浮かしたのはトリッピアー。走り込んだデクラン・ライスは、ダイレクトの折り返しをうまくコントロールできません。13分のハリー・ケインのミドルは、GKフェルブルッヘンが右に体を伸ばして弾き出しました。

14分にハリー・ケインのパスをボックス右で受けたサカは、中央にまわり込んで打ったシュートをブロックされ、こぼれ球を叩いたハリー・ケインのボレーはクロスバー越え。このとき、スパイクの裏で9番の足を削ったダンフリースは、PKを取られてしまいました。キッカーは、スイス戦で蹴っていないキャプテン。左隅へのキックは文句なしです。

イングランドの前線はボックスの前に張っているのに、最終ラインは低く、陣形は間延びしています。23分にドリブルで上がったメイヌーが、ラインの裏を窺うフォーデンに絶妙な縦のスルーパス。ダブルタッチでGKをかわして枠に転がしたフォーデンは、ゴールライン上でクリアしたダンフリースを見て、悔しがっています。

29分、デパイが右から仕掛けた速攻は、中央で斜めのパスを受けたマレンのダイレクトショットをカイル・ウォーカーがクリア。CKに競り勝ったダンフリースのヘッドは、クロスバーにヒットしました。32分に左足で巻いたフォーデンのミドルは、左のポストを叩いてアウト。WBのサカは、アーセナルでプレイしているときと同じ高さに張って、ボールを呼んでいます。

38分にメイヌーがヒールで落としたボールを、フォーデンが足元に収めて左足でミドルを放つと、読んでいたフェルブルッヘンがファーポスト際でキャッチ。プレミアリーグのMVPが持ち味を発揮できているのは、後方のメイヌーのパスワークと守備が冴えているからでしょう。前半は1-1、しかしポゼッションは63％対37％で、明らかにイングランドペースです。

シュート数は7対4、オンターゲットは4対1。オランダの直線的なアタックは単発で、後方からのフォローを欠いています。サウスゲート監督は、ハーフタイムにトリッピアーを下げ、ルーク・ショーを投入。デパイとマレンを下げ、ヴェグホルストとフェールマンを入れたオランダはパスワークのテンポが上がっており、後半立ち上がりの5分はイーブンです。

中央でパスコースを探すデクラン・ライスは、スペースを見出せず、セーフティーなパスを出し続けています。キックオフから15分を過ぎても、両者ともにチャンスを創れず。ガクポが右に展開した61分の速攻は、フェールマンのクロスが味方に合いません。65分にフェールマンが右からFKを入れると、ファン・ダイクのボレーはピックフォードがビッグセーブでしのぎました。

残り20分、まったく攻められなくなったイングランド。ボールを左右に動かしているオランダも、勝負のパスが通りません。白いシャツは6人が最終ラインに並んでおり、ハリー・ケインに縦パスが出ても、カウンターを仕掛けるのは難しそうです。サウスゲート監督に、策はあるのでしょうか。77分、クロスのクリアを叩いたシャビ・シモンズのボレーは、GKの正面です。

79分にフォーデンのパスから、カイル・ウォーカーの折り返しをサカが押し込むも、ジャッジはオフサイド。スリーライオンズの指揮官は、ここで勝負に出ました。フォーデンとハリー・ケインを下げ、オリー・ワトキンスとコール・パルマー。ベリンガムを残したのは、スロバキア戦の残像が脳裏に焼き付いているからでしょうか。

サカのサイドチェンジがルーク・ショーに届いたのは88分。ファーでグラウンダーを収めたコール・パルマーは、得意なアングルからのフィニッシュを浮かしてしまいました。91分、コール・パルマーの斜めのパスが、ボックス右に入ったオリー・ワトキンスへ。デ・フライをかわして右足を振り抜くと、ボールは左のサイドネットに突き刺さりました。

2-1となり、サカとメイヌーをコンサとコナー・ギャラガー。5分の追加タイムにオランダはシュートを打てず、イングランドが2大会連続のファイナル進出となりました。途中出場のコンビで決勝ゴール！采配的中というべきでしょう。コール・パルマーの絶妙なラストパスも、オリー・ワトキンスの振り抜きざまの一撃も、プレミアリーグでよく見る彼ららしいプレイでした。

フォーデンの決定的な2発、サカのカットイン、メイヌーの攻め上がり…収穫はありましたが、すべて「前半は」と付け加えなければなりません。後半の苦戦の要因は、クーマンの交代策によってベリンガムが左サイドに引っ張り出され、ハリー・ケインやフォーデンとの距離が遠くなったことと、メイヌーの運動量が落ちてしまったことでしょう。

サウスゲート監督は、なぜコナー・ギャラガーを投入しないのかとハラハラしながら見ていたのですが、鮮やかな逆転勝利を見せつけられると、プレミアリーグ19発のヴィラのエースを称賛するしかなくなります。スペイン戦も、今日のメンバーがキックオフのピッチに立つのでしょう。ここまで来たら、「悔いのないように」のひとことです。（オリー・ワトキンス　写真著作者/Ardfern）