偏愛的プレミアリーグ見聞録

いわゆるフォルス・ナイン、日本語でいう「偽9番」には2つのタイプがあるのではないでしょうか。ひとつは確信犯で、周囲に決めさせる本来のニセモノ。このタイプの代表は、バルセロナ時代のセスク・ファブレガス、リヴァプールのロベルト・フィルミーノ。ハリー・ケインを獲り逃した2021-22シーズンに、何度か最前線を任されて15ゴールをゲットしたデブライネも、彼らの仲間でした。

これに対してもうひとつは、器用もしくは曖昧なゆえに、「偽9番的」になってしまった選手です。たとえばデニス・ベルカンプ。フィニッシュもパスもセンスの塊だった10番は、アーセナルの最初の4シーズンはリーグで2ケタゴールだったのですが、ティエリ・アンリが来てからはセカンドストライカーに徹し、プレミアリーグ7シーズンで36ゴールとペースダウンしています。

そう、昔の偽9番タイプやセカンドストライカーには、2トップの一角という居場所が用意されていたのです。しかし今のプレミアリーグは4-3-3と4-2-3-1が主流で、ストライカーを並べるチームはありません。ペップ・グアルディオラが4-1-3-2を採用していたら、ハーランドがメインの戦い方に限界を感じたフリアン・アルバレスは、スペインを選ばなかったかもしれません。

現代の偽9番（あるいは偽9番的）が悲しいのは、どんなにうまく立ち回っても、サポーターたちに「ゴールを量産できるストライカーがいない」といわれてしまうことです。ストライカー不在という指摘を完封したのは、最前線でも爆発し続けたリオネル・メッシという別世界の住人と、史上最強の偽9番と称えるべきロベルト・フィルミーノぐらいではないでしょうか。

なぜこんな話を始めたのかというと、今季のプレミアリーグに行く末が気になる選手がいるからです。パスワークも評価されている前線のオールラウンダーとして、チェルシーのエンクンクとマン・ユナイテッドのザークツィー。9番のはずなのに、守備力を期待されて中盤に下がることもあるタイプとして、アーセナルのカイ・ハヴェルツとリヴァプールのコーディー・ガクポです。

前線ならどこでもOKで、何なら中盤もこなしてしまうエンクンクについては、チェルシーのスポーツディレクターたちに文句をいいたくなります。彼をどこで活かすか考えて補強をしたのか、と。トップ下にコール・パルマーがいて、サイドのスペシャリストとしてペドロ・ネトを押さえたうえで、オシムヘンに手を伸ばしたらエンクンクが詰んでしまいます。

マン・ユナイテッドのザークツィーは、ホイルンドが復帰したらどうなるのでしょうか。ゴール量産型のストライカーが絶対的エースで、外せないプレーメイカーもいると、得点力もパスワークも90点のアタッカ―は強みを活かすのが難しくなりがちです。あの頃のリヴァプールは、「偽9番のフィルミーノがレギュラーで、オプションはオリギ」という組み合わせが絶妙だったのです。

とはいえ、ザークツィー自身が9番としてゴールを重ね、ホイルンドをベンチに追いやれば彼の問題は解決します。周囲を活かすプレイと守備力があるからといって、「純粋な9番ではない」と解釈するのは乱暴でしょう。その意味ではカイ・ハヴェルツもガクポも同様で、「フィニッシュ以外にも強みがあるストライカーは、ガンガン決めるタイプに押されがち」という話です。

ガクポがシュートを打った位置をチェックすると、レッズでNo.1のガチ9番です。最前線で起用し続ければ、シーズン20発のゴールゲッターになるかもしれません。カイ・ハヴェルツは、アーセナルでストライカーとしてプレイした17試合で11ゴール9アシスト。昨季プレミアリーグで34試合22ゴール11アシストのコール・パルマ―より、1試合あたりのゴール＆アシストの率は上です。

すみません。話を振っておいて、これといったオチはありません。エンクンクの「主力と見做されていない感」、ザークツィーの「将来どうなるかわからない感」、カイ・ハヴェルツとガクポの9番としての過小評価が気になるというお話です。SDや監督にお願いできる立場ではないので、秘かに肩入れしながら活躍したら叫ぶしかありません。がんばれ！特にエンクンク。