偏愛的プレミアリーグ見聞録

ウェストハムのフレン・ロペテギ監督に、残された時間はなくなってしまったようです。「BBC」のサイモン・ストーン記者は、「金曜日のFAカップ3回戦のアストン・ヴィラ戦で、指揮を執るかどうかは定かではない」とレポート。「テレグラフ」のマット・ロー記者とジェイソン・バート記者も同じ見解で、「ポジションキープは、ほぼ不可能」と報じています。

プレミアリーグ6勝5分9敗で14位。先月のレスター戦を3-1で落としたのが致命的で、既に「経営ボードは解任を検討」と伝えられていました。その後の4試合を2勝2分として、最大の危機は乗り越えたものの、ホームのリヴァプール戦で0-5、エティハドのマン・シティ戦も4-1の惨敗。後任の目星がついた今、逃れる術はなさそうです。

現地メディアが、「ティム・シュタイテンTDが、ラッシュグリーンのトレーニング施設とロンドンスタジアムのドレッシングルームへの立ち入りを禁止された」と一斉に報じたのは月曜日。ロペテギ監督との関係に亀裂が生じたと噂されているドイツ人ディレクターは補強に専念し、指揮官はピッチに集中すべしというのが表向きの理由です。

しかし実際は、シュタイテンTDの最重要タスクは新監督選びで、「テレグラフ」の記者たちはグレアム・ポッターとの密談の写真を確認したといっています。「シュタイテンとロペテギが長期的に一緒に働くのは不可能に思える」。チームの不振、パートナーとの確執、有力な後任候補というスリーカードを突き付けられ、勝てる手札を切った指揮官を見たことはありません。

2023年7月に招聘されたシュタイテンTDは、ロペテギの前任のデヴィッド・モイーズとも対立しています。就任直後のマーケットで、プレミアリーグの実績を重視するモイーズがほしがったコナー・ギャラガーやマクトミネイを却下。進まない補強に危機感を抱いた経営ボードは、モイーズ推しとシュタイテンのリストの両方から新戦力を獲得する妥協策で切り抜けています。

ブレーメンやレヴァークーゼンでスカウティングの実績を積んだTDは、しばしば現場に介入しており、昨年の5月にもモイーズが仕切るトレーニングとドレッシングルームを出禁となっています。ロペテギ招聘を主導したのは共同オーナーのデヴィッド・サリヴァンで、TDの意向ではなかったことも指揮官の仕事を難しくしてしまったようです。

新たなプロジェクトに前向きといわれるグレアム・ポッターが、シュタイテンと話したうえで契約書にサインするなら、自らの戦術をインストールできなかったスペイン人監督のように孤立せずに済むでしょう。むしろ今後は、昨夏の大量補強が空転気配となっているTDのほうがプレッシャーに苛まれる可能性があります。

フォデリンガム、キルマン、ワン＝ビサカ、トディボ 、ギド・ロドリゲス、ギリェルミ、アーヴィング、ソレール、サマーヴィル、フュルクルク。TDがかき集めた総勢10人のなかで、期待通りといえるのはワン＝ビサカぐらいでしょう。自身がアサインしたポッターが振るわなければ、経営ボードはチームビルディングの妥当性を問題にするはずです。

マイケル・アントニオとボーウェンが負傷したため、ハマーズはストライカーの獲得を検討し始めています。エヴァン・ファーガソンかファン・ヒチャンか、ミドルズブラでプレイしているラテ・ラトか。いずれも簡単に引き入れられる選手ではありません。前線に加えて中盤の強化も進めようとしており、デューズバリー＝ホールやチュクエメカの名前が挙がっています。

ヴィラ戦の指揮を執るのはロペテギか。ポッターは就任するのか。冬の補強は成功するのか。ハマーズにトロフィーをもたらしたモイーズと、最下位だったウルヴスを残留に導いたロペテギを切るきっかけとなったシュタイテンTDは、新監督に働きやすい場を提供できるのか。クラブからビッグマネーを預かり、未だ結果を出していない人事の責任者は失敗するわけにはいきません。