偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドは、7月に開催されるアメリカツアーのメンバーから4人のウインガーを外すと伝えられています。マーカス・ラシュフォード、アレハンドロ・ガルナチョ、ジェイドン・サンチョ、アントニー。彼らのこれまでのキャリアと評価額を客観的に見ると、夏のトランスファーマーケットで一気に売却するというプランはクレイジーに見えます。

最も売りやすいのは、20歳のアレハンドロ・ガルナチョでしょう。ヨーロッパリーグのファイナルで20分しかプレイできなかったことに不満を漏らしたのは、原因ではなくトリガーだったのかもしれませんが、公式戦58試合11ゴール10アシストの有望株を追放するというジャッジは冷静とは思えません。退団を決意したガルナチョは、プレミアリーグ残留を希望しているようです。

マンチェスター・ユナイテッドは、移籍金を6000万ポンドに設定していると報じられています。ずいぶん威勢がいい話ですが、売却が前提のディールとなれば、足元を見られてしまうでしょう。「左右どちらでもプレイできる若手のウインガー」は、チェルシーとアーセナルが求める条件に合致しており、アストン・ヴィラやスパーズも注視しているといわれています。

「スカイスポーツ」のダルメシュ・シェス記者は、ユヴェントスとナポリがジェイドン・サンチョの獲得を検討中と伝えています。2021年の夏に、ドルトムントに支払った移籍金は7300万ポンド。契約が残り1年となったサンチョの評価額は、2500万ポンドだそうです。セリエAのクラブにとって、目下の問題は高額のサラリーで、本人が減額を呑めば一気に決まるでしょう。

サラリーの目減りを許容する可能性があるサンチョに対して、バルサが第一希望のラシュフォードは、週給32万5000ポンドをディスカウントする気はないと報じられています。「マンチェスター・イブニングニュース」のサミュエル・ラックハースト記者によると、「CLに出たい」「サウジとトルコはNG」「ロンドンも希望せず」と、候補を減らす面倒な条件を並べているそうです。

4000万ポンドなら容認する意向のクラブは、2025-26シーズンはローンもやむなしと覚悟しているとのこと。アーセナルがメスト・エジルを売れずに苦しみ、チェルシーがルカクの処遇で窮したように、マンチェスター・ユナイテッドも罰ゲームを甘受するのでしょうか。10番との契約は、30歳になる2028年までとなっています。

トラブルでチームからはみ出した生え抜きのために、3年総額5000万ポンドを払い続け、フリーエージェントで出ていくという未来を想像すると言葉を失います。アントニーとの5年契約は2027年までですが、相思相愛のレアル・ベティスが引き取ってくれたとしても、8500万ポンドという巨額の移籍金の傷跡は残るでしょう。

ガルナチョを手離して4000万ポンドを手に入れたとしても、他の3人が2500万ポンドなら、リヴァプールが獲得したフロリアン・ヴィルツのプレミアリーグレコードより少ない額しか回収できません。今の状態で強気に出られないのは理解しつつ、せめて次の移籍の際にマージンを得るセルオン条項を付けてくれといいたくなります。

ジョン・マータフがフットボール・ディレクターに就任したのは2021年3月。最初の夏の補強はサンチョ、ヴァラン、CR7で、翌年はマラシア、リサンドロ・マルティネス、カゼミーロ、アントニー、エリクセンでした。3年めはオナナ、ジョニー・エヴァンス、メイソン・マウント、バユンドゥル、ホイルンド。コンセプトなきFDの退任が発表されたのは、2024年4月です。

名前を見れば、2シーズン以上活躍したといえる選手がいないのは一目瞭然。移籍金をバラまいてサラリーを大盤振る舞いした狂乱の3年が、現在の苦境につながっています。昨年の7月に加わったダン・アシュワースSDが5ヵ月で去り、現在はマット・ハーグリーヴスとクリストファー・ヴィヴェルが戦略と移籍の交渉を担当していますが、立て直しには相当の時間を要するでしょう。

それでも1月に獲得したエイデン・ヘヴンとパトリック・ドルグと、6月のマテウス・クーニャは的確な補強に見えます。2023年にアディダスから転職したハーグリーヴスと、アシュワースが来る前に暫定的にディレクターの役割を担っていたヴィヴェルは、4人のウインガーを可能な限り高値で売り抜くという難易度の高いミッションを達成できるでしょうか。

彼らの補強戦略は、「4-2-3-1にはまる選手」ではなく、「多様な戦術に対応できる人材」だそうです。マテウス・クーニャとエンベウモ、アマド・ディアロが2列めで動き回り、メイソン・マウントがチェルシー時代のプレイを思い出すことで、ホイルンドとザークツィーがそれぞれの強みを活かせるようになるのが理想的です。

ストライカーは、獲れればラッキーぐらいに考えておくことにしましょう。ルーベン・アモリムがコケても、アウトサイドで機能する選手が4人いれば、次の監督がどんなタイプでもそれなりに戦えるでしょう。これからも冴えない話があれこれ聞こえてきそうですが、われわれサポーターも、現実と向き合うしかありません。数年後、ガルナチョは大化けしそうですが…！