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FFP違反で罰金のペナルティを受けたチェルシーとアストン・ヴィラは、何が引っかかったのか?

プレミアリーグのPSRは逃れられても、UEFAのファイナンシャル・フェアプレーには従うしかなかったようです。以前から「黒に近いグレー」と目されていたチェルシーとアストン・ヴィラに、巨額のペナルティが科されました。チェルシーが通達された罰金は、総額9100万ユーロ(7850ポンド)。ギョケレスやオシムヘンを獲得できるレベルです。

ただしこれには執行猶予が付いており、初回のお支払いは2670万ポンド。今後4年間で再犯が認められれば、5180万ポンドの請求書が届くというスキームです。アストン・ヴィラは、いわば軽犯罪法違反で、今回は950万ポンド。これから3年の間に同様の違反を問われると、1300万ポンドの追加徴収があります。

さて、ウェストロンドンとバーミンガムは、何を咎められたのでしょうか。罪状は3つで、「決算上で利益を創出するための相互売却」「同一オーナーの企業間の資産売却」「人件費と代理人マージンの比率違反」です。それぞれ、できるだけわかりやすく説明しましょう。相互売却のメリットを理解するためには、選手の売買と決算書の関係を押さえる必要があります。

たとえば2つのクラブが選手を売り合って、移籍金5000万ポンドで5年契約の等価交換を成立させたとしましょう。売却益の5000万ポンドは、当該年度の決算書にそのまま反映されます。一方、支払った移籍金は減価償却費として5年に分割して計上するので、単年では1000万ポンドです。差分の4000万ポンドが利益となれば、目前の赤字を圧縮することができます。

UEFAはテクニカルな相互売却とスワップを禁じており、チェルシーはこれに抵触してしまいました。2つめの「同一オーナーの企業間の資産売却」は、スタンフォードブリッジの2つのホテルと駐車場、さらに女子チームの株式の売却がNGとされています。引き受けるのがオーナー所有の企業なら、相場をぶっちぎる高値での取引として数字をコントロールできるからです。

ニッポンの連結決算なら、グループ内で売買しても利益は変わりません。ちなみにプレミアリーグのPSRは、相互売却とグループ内の資産売却を違反としていません。理由は明確で、PSRのルール変更の議決権をプレミアリーグ所属の20クラブが握っているからです。泥棒と警察が同一人格という恐るべき運用のなかで、「明日はわが身」のクラブが厳格化するわけがありません。

PSRにツッコミを入れ始めると、より刺激的かつ膨大なレポートになってしまうので、別な場で語ることとしましょう。チェルシーとアストン・ヴィラは、「選手の人件費と代理人のマージンを総収入の80%以内に抑える」という新しいルールも違反してしまったようです。これによるチェルシーの罰金は950万ポンド、ヴィラは520万ポンドとアナウンスされています。

今回の処分を受けて、チェルシーの「罪状認否」は全面的にイエス。公式サイトにはステートメントとUEFAのリリースへのリンクが掲載されています。アストン・ヴィラのサイトの最新トピックスは、「シーズンチケットは4日までに申し込んでね」「コウチーニョがバスコ・ダ・ガマに移籍」。この件についてのアナウンスは見当たりませんが、UEFAとは争わないでしょう

「チェルシーは、UEFAのファイナンシャル・サスティナビリティ・レギュレーションに基づき、2022-23シーズンと2023-24シーズンにおいてクラブが報告した赤字に関して、UEFAと和解合意書を締結しました。また、2024年度のレポートにて選手のコスト比率が80%~90%だったことに対し、罰金を支払うことにも同意しています」

「クラブはUEFAとの緊密な関係と透明性を維持しながら協力し、財務報告書のすべてと詳細な内訳を提供しました。ここでは、クラブの財務状況は堅調で上昇傾向にあることが示されています。チェルシーはUEFAとの関係を非常に重視しており、和解合意書の締結によって問題を迅速に解決することが重要であると判断しました」

2つのクラブは、欧州の大会のAリストに登録する選手へのサラリー総額が制限され、トランスファーマーケットでの収支がプラスであることを求められています。既に契約が成立しているペンダース、エスゴ、デラップ、ママドゥ・サール、ジョアン・ペドロにバイノー=ギッテンスを足すと支出は1億9000万ポンド。次の新戦力の前に、夏のスペシャルセールが開催されるはずです。

移籍決定のベッティネッリ、ケパ、ハンフリーズの総額は1600万ポンド程度。サンダーランドと合意間近のペトロヴィッチは、2500万ポンドと報じられています。スターリング、ジョアン・フェリックス、チルウェル、ディサシ、アルマンド・ブロヤ、ダトロ・フォファナ、デューズバリー=ホール…さらなる売却で1億5000万ポンドを調達できれば、何とかプラスマイナスゼロです。

5000万ポンドを超えるストライカーや堅実なDFを手に入れたければ、ジョアン・フェリックスとデューズバリー=ホールのお値段で妥協できず、ノニ・マドゥエケとニコラス・ジャクソンを手離すなどの大胆な決断もあるかもしれません。新戦力に投資していないヴィラの懸念は、現有戦力のサラリーの総額と先般発表した女子チームの売却の影響でしょう。

大陸に目を向けると、バルセロナ、リヨン、ベシクタシュ、パナシナイコス、ハイドゥク・スプリトも罰金のペナルティ。さらにEL出場権を獲得したリヨンの降格処分に対する異議申し立てが通れば、同一オーナーのルールに抵触するクリスタル・パレスは欧州へのチケットを取り上げられる可能性があるようです。そういえば、マン・シティのあの件は…?(スタンフォード・ブリッジ 写真著作者/Arne Müseler)


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“FFP違反で罰金のペナルティを受けたチェルシーとアストン・ヴィラは、何が引っかかったのか?” への1件のコメント

  1. アイク より:

    いつもありがとうございます。硬いテーマですが、非常に分かりやすく、面白かったです。
    (シティが平然と新戦力獲得を発表するたびにハラハラしてます…)

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