2025.08.25 移籍ニュース2025-26移籍ニュース
どうしても必要だった最後の電話。憧れのアーセナル移籍を実現させたエゼのインサイドストーリー。

「それはハイジャックではなく、ラブストーリーだった」。スパーズとの合意報道から一転、アーセナルへの移籍が決まった「運命の1日」の舞台裏を取材した「アスレティック」のジェームズ・マクニコラス記者は、「タイミングがすべてであり、エゼのプレイはパーフェクトだった」とレポートしています。あの水曜日の朝まで、彼はスパーズに行くつもりだったのです。
トーマス・フランクを招聘したクラブはCLの出場権をゲットしており、クリスタル・パレスの選手にとっては間違いなくステップアップです。しかしエゼは、最終的な決断を下す前に、どうしても一本電話をかけなければなりませんでした。コールした相手は、ミケル・アルテタ。聞きたかったのは、「アーセナルと契約する可能性がわずかでも残っているか」だけだったそうです。
13歳のときに、アカデミーから放出されて涙を流した情熱的なグーナーは、既に27歳になっていました。ずっと憧れだったクラブに加わるラストチャンスを、何もせずに見送ることはできなかったのでしょう。6月末からコンタクトを取っていたエゼの問いを受けた指揮官は「午後から経営ボードが集まる会議がある」とだけ伝えたといいます。
カイ・ハヴェルツの膝の負傷で、前線の補強が必要となっていたクラブは、モーガン・ロジャース、ギブス=ホワイト、ロドリゴも検討していました。「アスレティック」の記者は、「エゼはアルテタ監督だけでなく、アーセナルのイングランド代表のチームメイトにも働きかけ、自らの移籍を強くアピールした」と付け加えています。デクラン・ライスとブカヨ・サカでしょうか。
数人のターゲットの優先順位を決める議論のプロセスにおいて、夢の実現のために何でもしようとする彼の姿勢はポジティブに評価されたそうです。ストライカーの補強を見送った冬の苦い経験を繰り返さないと決意したクラブは、即断しました。会議が終わり、「契約は、ほぼ成立した」と聞かされたエゼは、歓喜の声を挙げたそうです。
意中のパートナーと未来を約束できないまま、他のプロポーズを受けてウエディングの準備をしながら、最後の電話に一縷の望みを託す…。「ラブストーリー」「運命的な再会」「複数の思惑が複雑に絡み合ったドラマ」といった記者の表現は、大げさではありません。ヌワネリとの契約を延長してから、エゼに対する情熱が薄れていたクラブは、それが火曜日でも木曜日でも動かなかったはずです。
決断を強いられるタイミングが1日早く、カイ・ハヴェルツの負傷の具合が明確になっていなければ、即決はできなかったでしょう。逆にもう1日遅ければ、スパーズはディール成立に漕ぎ着けていたかもしれません。ダニエル・レヴィ会長とクリスタル・パレスのスティーヴ・パリッシュ会長が直接会談したのは、8月18日の月曜日。ここで既に、彼らは大枠で合意していました。
移籍金は5000万ポンド、アドオンが1000万ポンド。しかしその翌日、アドオンの条件を巡って対立が生じ、サウスロンドンは態度を硬化させたそうです。火曜日の夕方には危機的な状況に陥っていたのですが、何とかディールを成立させようとしたスパーズは、水曜日の朝にパレスの要求をすべて受け入れた正式なオファーを提示しました。移籍金6000万ポンドと750万ポンドのオプション…。
彼らの不運は、狙い通りのクロスがストライカーに届くまでの滞空時間のような「空白の火曜日」を過ごしてしまったことです。「木曜日の夜に開催されるカンファレンスリーグの予選に、エゼを出場させてもいい」という条件も添えられたオファーに対して、クリスタル・パレスからの返事はなく、夜になってアーセナルへの売却が決まったと知らされました。
アーセナルにとっては、ここしかなかった1日。スパーズにとっては、アーセナルを間に合わせてしまった痛恨の1日。「アスレティック」の記者は、争奪戦は存在しなかったといっています。会議の後、ジョシュ・クロエンケの承認を得たアーセナルがオファーを提示するや否や、エゼとパリッシュ会長は即座にイエスと返しており、2つのクラブの間に駆け引きはなかったからです。
追加タイムの逆転劇の立役者は、上層部を納得させたアルテタ監督と、パリッシュ会長と良好なリレーションを築いていたティム・ルイス副会長だったようです。エゼの才能と人柄を評価していた指揮官は、慎重論や他のターゲットを推す声もあったボードに対して、左サイドを強化すればトロサールとマルティネッリを中央にまわせるとプレゼンしたのだと思われます。
夕方にスタートして即日で妥結というスピード決着が実現したのは、副会長とアンドレア・ベルタSDがライバルの交渉の進捗を把握していたからです。総額6750万ポンドとカンファレンスリーグ出場OKというオファーにアドバンテージはなかったのですが、エンケティア、ホールディング、サンビ・ロコンガを譲ってきた見返りがあったといえるのかもしれません。
「最高のタイミング」といえば、エゼの素晴らしいパフォーマンスにも触れなければなりません。昨季プレミアリーグの前半戦は、15試合2ゴール2アシスト。この数字だけだったら、アーセナルは6000万ポンドを超える投資は考えなかったはずです。しかし後半戦から調子を上げ、ラスト6試合で5ゴール。FAカップは準々決勝から3試合連続ゴールです。
ウェンブリーでマン・シティを屠る決勝ゴールをゲットすると、コミュニティシールドのリヴァプール戦でもチームの軸として勝利に貢献し、チェルシーとのプレミアリーグ開幕戦では幻のFKが話題になりました。彼が出場したラスト10試合は、アーセナル、スパーズ、リヴァプール、マンチェスター・シティ、チェルシーと6試合を戦いながら、無敗で駆け抜けています。
キャリアにおいて最高に輝いたタイミングで、最高のクラブからオファーを得て、最後のチャンスを逃さずに夢を成就させた彼こそが、感動的なラブストーリーの主人公であることを忘れてはいけません。土曜日のエミレーツで、グーナーの胸を熱くするムービーの舞台挨拶を終えた役者の次なる仕事は、より心を動かすドラマの続編を生み出すことです。
劇的なハイジャック…いや甘美なラブストーリーのクライマックスの翌日。「プレイできる気がしない」とグラスナー監督に告げ、カンファレンスリーグのフレドリクスタ戦に出場しなかったのは、負傷で破談という最悪の事態を避けたかったからでしょう。グーナーとともに拍手しながら、スタンドをぐるりと見渡した彼のあの笑顔を、忘れることはないような気がしています。
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