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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

最先端のスタジアム、2つのトロフィー、短命の監督…スパーズの会長を退任したダニエル・レヴィの功罪。

トッテナム・ホットスパーの経営ボードに加わったのは2000年12月、会長に就任したのは2001年2月。現在のプレミアリーグで最長の在任期間となっていたダニエル・レヴィ会長は、最後のトランスファーマーケットで責任を果たそうとしたのでしょうか。2025年9月4日、スパーズの公式サイトが退任を発表しました。

「エグゼクティブチームとすべての従業員とともに成し遂げた仕事に、この上ない誇りを感じている。われわれはこのクラブを世界的な強豪に育て上げ、最高峰の舞台で戦える存在にした。それ以上に誇らしいのは、コミュニティを築き上げたことだ。リリーホワイトハウスやホットスパー・ウェイのスタッフから、長年に渡って在籍した選手、監督まで、このスポーツにおける偉大な人々と一緒に働けたのは幸運だった」

あらためて彼の足跡を辿ってみると、「順位テーブルの真ん中が定位置だったクラブをビッグ6の一角に押し上げた功労者」といえます。会長に就任した当時、クラブの資産は8000万ポンドだったのですが、現在は「フォーブス」に26億ポンドと査定されています。2006-07シーズンからの20シーズンで、欧州の大会に18回出場はビッグクラブの戦績です。

チャンピオンズリーグのファイナル進出、ヨーロッパリーグ制覇、カーリングカップ優勝。21世紀になる前を思い出せば、大きな成果ですが、サポーターの多くはもの足りないようです。下位に低迷した昨シーズンは、「24 years, 16 managers, one trophy. Time for change(24年で16人の監督、トロフィーはたったひとつ。今こそ変化の時)」と書かれたバナーが話題になりました。

最大の功績は、クラブの利益を追求する会長なくして実現しえなかったことです。2019年4月3日にオープンしたトッテナム・ホットスパー・スタジアム。オールド・トラフォードに次ぐ62850人を収容するスタジアムは、選手が間近に見えるビューイングエリア、ミシュランの星が付いたレストラン、ビール醸造所、ベーカリーを備えた最先端のインフラです。

最新のプロジェクトは、スタジアムに隣接する30階建てのホテルと49戸のアパートメント。2028年にオープンする予定で、クラブの経営に寄与すれば、やり手の会長の功績としてカウントされるでしょう。ヴィジョン、ミッション、目標、KPIを常に掲げてクリアしようとする貪欲な姿勢で、クラブを発展させた優秀なビジネスマンですが、人望がないという弱点を抱えていました。

「テレグラフ」のジェイソン・バート記者が、彼の部下やビジネスパートナー、他クラブの会長に取材し、人物像をレポートしています。プライベートで付き合いがある人々の印象は、シャイで礼儀正しく、ユーモアのセンスがあり、楽しい人。カラオケが大好きで、ヨーロッパリーグのモスクワ遠征ではエルトン・ジョンの「クロコダイル・ロック」を歌っていたそうです。

普段は温和な人物のようですが、ビジネスになると豹変します。あるクラブの会長によると、「彼は非常に手ごわい。近づくのは不可能だ。トッテナムから選手を買ったり、売ったりしようとは思わない」。トランスファーマーケットではトラブルが多く、ジョアン・モウティーニョの移籍金を50万ポンドだけ値切ろうとして破談にしたり、ライアン・メイソンの売却で200万ポンドを乗せようとして揉めたりしています。

モドリッチとハリー・ケインは、シーズンが終わったら移籍できるという紳士協定を握りつぶされました「彼の決断の多くは不評だが、クラブのために最善を尽くそうとしている」という好意的な声もあるものの、重要なパートナーと信頼関係を結べなかったために、長期的な強化ができなかったという面もありそうです。

彼に招かれた監督のなかで、3年以上続いたのはハリー・レドナップとポチェッティーノのみ。信頼を得られなかった監督も、野心のなさに嫌気がさした監督も、結果を残せなかった監督も、オーダーした選手を獲ってもらえず、ストレスを溜めていたでしょう。サー・アレックス・ファーガソンやアーセン・ヴェンゲルは、スパーズでは短命で終わっていたかもしれません。

昨シーズンは、ポステコグルーを支持していたサポーターたちが「レヴィOUT」と叫んでいました。退任と聞いて、彼らの圧力が最大の理由だろうと思った人もいるでしょう。しかし実際は、オーナーのジョー・ルイスファミリーとつながりが深いアメリカのコンサルティング会社「ギブ・リバー・グループ」が、クラブ経営のあり方に疑念を抱いたのが発端だったそうです。

2025年の初めから調査が始まり、何度もインタビューを受けたレヴィ会長は、徐々に外堀を埋められました。3月には、オーナーが所有するエニック社の取締役であるピーター・チャリントン氏が社外取締役に就任。アーセナルを復活させたキーマンと評されたヴィナイ・ベンカテシャムがCEOとして招聘されたのは、4月に入ってからでした。

6月になると、レヴィ会長の右腕だったドナ・カレン氏の辞任が発表され、今週の月曜日に任務を終えています。スタッフに宛てた最後のメールで、「真の先見の明を持つリーダー」「今後の活躍に期待している」と称えたエグゼクティブ・ディレクターは、3日後に彼も去るのを知らなかったのでしょう。

今回の人事について、スパーズのステートメントは「長期的な成功を実現するため」「リーダーシップの新たな時代が到来」と説明しています。ピーター・チャリントン氏が非常勤の会長に就任し、ベンカテシャムCEOとのタッグで経営の安定化と人材育成を推進していくようです。夏の補強はレヴィの置き土産か、新体制の主導か。後者だったなら、今後のスパーズは要注意です。


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