2025.10.18 チームの話題(全体・他クラブ)
現地記者が異変を指摘!「ペップとアルテタがプレミアリーグをつまらなくした」といえるのか?

「これはあなたが求めるフットボールなのか?」。私なりに記事の趣旨を解釈すると、「ペップとアルテタがプレミアリーグをつまらなくしたといえるのか?」となります。まずは、開幕から7節までの異変について、事実ベースで整理しましょう。70試合を終えて、トータル182ゴール。1試合あたり2.6ゴールで、このままいくと2015-16シーズン以降の最低ゴール数となります。
全体は減っているのですが、セットピースからのゴールは1試合あたり0.7を記録しており、こちらは過去15年で最高の数字です。今季のトピックスのひとつとして、ロングスローのブームが挙げられます。2020-21シーズンの攻撃陣のスローインのうち、ボックスに届いたのは6%だったのですが、昨シーズンは13%で、今季は27%に激増しています。
1試合あたりのパス本数858本は、過去15年のワースト。GKのロングフィードは9年連続で減っていたのですが、今は51.9%で昨季より増えており、ヘディングでのゴール比率19.8%は2000年以降で最高だそうです。オープンプレーからのゴールは、2023-24シーズンが1試合あたり2.38、2024-25シーズンは2.15だったのですが、2025-26シーズンは1.69まで下がってしまいました。
クラシックなイングランドが復活したような状況を見て、「ペップ・グアルディオラが持ち込んだポゼッションフットボールが、プレミアリーグをつまらなくした」と非難する人々は歓迎ムードだそうです。もともとイングランドは、スピーディーな攻守の切り替わりやゴール前での競り合いが好きなファンが多く、強すぎるペップに対するストレスも溜まっていたようです。
「22体のロボットがパスを出し合っているだけ」とペップを非難したのはパトリス・エヴラ。ビルドアップに時間をかけ、リスクを取らず、ひたすらつなぐ時間が長くなれば、スタジアムのテンションは下がります。7節のブレントフォードVSマンチェスター・シティのレポートに、「退屈な一戦は、レポートも退屈です」と見出しを立てた者としては、その声を否定はできません。
オープンな展開の殴り合いやプレスからのショートカウンター、自陣からの速攻が増え、プレミアリーグレコードだった2023-24シーズンのゴール数を超えれば、「ポゼッション志向はフットボールを殺した」という主張の納得感が高まるでしょう。しかし現状は、ジョゼ・モウリーニョの全盛期だった2006-07シーズンのワーストに迫るロースコアです。
こうなると、もう一方の傾向に目を向ける必要があります。ミケル・アルテタが火付け役と目されているセットピースの高度化・複雑化です。「フットボールはゴールが多いほうが勝つスポーツで、手段は選ばない」という意見に、返す言葉はないでしょう。しかし問題は、勝つための方法の正当性ではなく、セットピースばかりで決まる試合がおもしろいかどうかです。
見過ごせないのは、CKやFKの複雑化によって生じた新たな問題です。オリヴァー・ケイ記者は、「アーセナルはCK1回あたりで45.4秒を費やしており、開幕からの7試合をすべて足すと40分6秒となる。これは少なくとも、他のチームより11分以上も多い」と指摘しています。さらにロングスローが加わると、カラフィオーリがタオルを探す時間が乗っかります。
今季プレミアリーグでロングスローから最多ゴールのブレントフォードは、ユルゲン・クロップのもとでスローインコーチを務めていたトーマス・グレネマルクをコンサルタントとして招聘しています。ロングスローが最も多いチームが、スローイン1回に費やす時間は25.4秒。3‐1で勝ったマンチェスター・ユナイテッド戦では、プレー再開を待つ時間が14分25秒もあったそうです。
2025-26シーズンの試合時間は、平均100分35秒。これにはVARチェック、負傷の応急処置、選手交代、ゴールセレブレーション、セットピースの待ち時間が含まれており、デッドタイムの平均は45分35秒です。オープンプレーの時間は、ゴールラッシュだった2023-24シーズンより3分以上短くなっており、GKのロングフィードとロングスローが増えるとさらに圧迫されます。
ペップのチームがパスをつなぐ時間は退屈なのか。デクラン・ライスやサカがCKを蹴るまでの時間はゲームのテンションを下げるのか。オープンプレーからゴールのほうが、セットピースより盛り上がるという見方は妥当なのか。ゴールが減ったのは、昇格クラブ以外のレベルが上がったため、強いチームの圧勝が減ったからという説もあります。
記事を読んだ後、ビーズとマン・シティのゲームをあらためてチェックしてみました。あのときなぜ、退屈と感じたのか。最大の理由は、9分という早い時間にリードしたマン・シティがポゼッション70%を占めているのに、後半のシュートは1本のみと45分をまるごと殺したからでしょう。ホームチームはノーチャンスで、0-1で終わるのを待たされているかのような一戦でした。
「セットピースやロングスローを軸に据えた消耗戦のような戦術が、再び流行する可能性は常にあった。しかしオープンプレーよりロングスロー、CK、FKを優先し始めると、ゲームはおもしろみを失い、楽しめなくなる危険性を孕んでいる。グアルディオラが楽しさと創造性を奪ったと非難する人々は、自分の望みについてよく考えるべきだ」(オリヴァー・ケイ)
今回の「アスレティック」のレポートは、ポゼッション志向を肯定しつつ、セットピースの重要度が高まることに警鐘を鳴らしています。これに対して、ガブリエウの決勝ヘッダー、セメンヨの強烈なFK、ロングスローからのファビオ・カルヴァーリョの劇的な同点ゴールなどでテンションがMAXになった者としては、「セットピースも盛り上がりますよね?」といいたくなります。
退屈な試合の特徴を言葉にすると、「両チームともにチャレンジが少ない」のひとことに尽きるのではないでしょうか。ロングボールの蹴り合い、膠着状態、一方がバスを停めてもう一方は横パス地獄、時間を消費するために自陣でスローダウン…。こう考えると、ペップのこれまでの攻撃的なスタイルに敬意を表しつつも、いいたいことが頭に浮かんできます。
「残り20分という早い時間から11人でバスを停めたアーセナル戦や、試合の半分を時間を進めるパス回しに費やしたブレントフォード戦は、さすがにカンベンしてください」。ペップの戦術がプレミアリーグを殺したというのは乱暴ですが、「今季のペップはときどき意図的につまらなくしやがる」とはいえるのではないでしょうか。ポゼッションを取れるから使えるワザですが。
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