アレクシス・サンチェスがエヴァートン!?…メディアの「ガセネタ」「ゴシップ」について思うこと。
3000万ポンドは、夏にマンチェスター・シティが提示したと認めた額の半分で、エヴァートンは「チャンピオンズリーグに出たい」とするアレクシス・サンチェスの希望を満たすクラブではありません。記事が伝えているのは、エヴァートンの筆頭株主であるファルハド・モシリ氏がビッグネームをほしがっているということなのですが、「加えて彼は、サンチェスのチームメイトのオリヴィエ・ジルーと、元チェルシーのジエゴ・コスタを勧誘しようとしている」という記述もあり、終始「最有力株主の願望」というトーンを貫いています。
ちなみに記事のタイトルは、「Alexis Sanchez wanted in sensational transfer swoop by Everton owner Farhad Moshiri(エヴァートンのオーナー、ファルハド・モシリの急襲で、アレクシス・サンチェスが衝撃的な移籍を求められている)」。ゴシップですよと念押しするかのように「MO MONEY(モシリ・マネー)」と添えられており、記事の書き出しも、「金持ちのグディソンのチーフは、夏に財産を吹き飛ばした(splashed out fortunes)が、クラブがひどいスタートを切ったにもかかわらず(the club’s poor start)、1月に出費を続けようとしている」と、エンタメ口調で斬り込んでいます。普段は、笑ってスルーすればいいこの手の記事はあまり取り上げないのですが、今回紹介したのは、2つお伝えしたいことがあったからです。ひとつは「日本の記事が、ニュアンスを変えてしまうことがある」、そしてもうひとつは「そんな『ザ・サン』も、ときどきいい仕事をする」というお話です。
とある日本のメディアの見出しは、「アーセナルFWに新たな移籍先候補浮上」。これでは、アレクシス・サンチェスがパリやマン・シティ以外に興味を示したようにも受け取れてしまいます。一方で「エバートン会長、サンチェス獲得を望む。1月に約46億円を用意」というメディアもあり、こちらはニュアンスはいいのですが、ビル・ケンライト会長が「私はいってない!」と飛び出してきそうです。近年のプレミアリーグでは、プレスカンファレンスで淡々と話しても、日本では「激怒!」と書かれまくったルイス・ファン・ハール監督をいつも不憫だと思っていたのですが、翻訳された記事の煽りやニュアンスには要注意です。
私も日本のメディアのいち読者で、日々ありがたく記事を読ませていただいているのですが、事実関係と文章のニュアンスについてはできるだけ的確に伝えていただけるようお願いしたいと思います。最近は、現地メディアや会見などの記事に疑問符をつけたくなることが増えており、結局現地メディアをチェックするという手間がかかったりしています。ブログを書くときは伝える側ですので、「原文チェックは当然」と思ってやっているのですが、ユーザーとしては気楽に情報収集したくて日本語メディアに頼っているのです。多くのライターに早く仕上げてもらわないと成り立たない大変な環境であることは承知しており、文章のクオリティ云々とはいいませんので、ミスリードだけは避けていただければと思います。
さて、いつもトリッキーな記事でゴシップ業界を牽引している「ザ・サン」ですが、2016年3月上旬の「ズラタン・イブラヒモヴィッチはマンチェスター・ユナイテッドに移籍すると確信している」はお見事でした。決定報道の3ヵ月以上前に断定的に報じた記事のインパクトは大きく、「メトロ」「デイリー・スター」「エクスプレス」「eurosport」などタブロイド紙や専門サイト、フリーペーパーに加えて、地元紙「マンチェスター・イブニングニュース」までが「ザ・サンが確信」と拡散していました。結果、大当たりです。移籍というのは水もので、ある時点では確度が高かった情報も、直前に破談となって結果的に記事がガセネタ化することもあります。ゆえに「ザ・サンは正しかった」というよりも、「これはうまくはまりましたね!」というニュアンスのほうがぴったりなのではないかと思います。
日本では、とりわけ新聞に対しては客観的事実であることや正確性を求めることが多いのですが、イギリスでは多くのメディアがゴシップと断りながら雑多な情報を掲載しており、NHKのように扱われることが多い「BBC」にも他のメディアの記事を集めたゴシップコーナーがあります。傾向としてあるのは「BBCやスカイスポーツが信頼性が高いといわれるのは、確度が高くなるまで載せないから」「タブロイド紙は、噂レベルでがんがんいくので玉石混交(玉石石石混交!?)ですが、ときどきスーパーゴールを決める」。事実でないと許せないという方は、9月や2月になってからメディアが発表する移籍リストを見たり、スタッツ専門サイトやゲームのみに触れれば回避できますので、日常的に配信されるニュースはスルーすることをおすすめします。
私は、現地メディアが次々と放つ怪しげな記事も含めて、現地のプレミアリーグを取り巻くカルチャーをまるごと愉しもうと思っています。コメント欄で「踊らされてる」とご忠告いただくこともありますが、いいではありませんか、気持ちよく踊れば。何しろ魑魅魍魎棲む興業の世界。メディアと同じぐらいクラブ自体が怪しく、移籍のドタバタや嘘くさい公式発表など当たり前、彼らが監督を支持するというと、その数週間後に「sack」の4文字がメディアの見出しを飾ることのほうが多いぐらいです。というわけで、本ブログも玉石石混交ぐらいのニュアンスでお届けしますので、適宜スルーしながらお楽しみいただければと思います。ただし、現地で報じられている情報のニュアンスは、それこそがカルチャーですので、できるだけ的確に伝えさせていただく所存です。ゴシップはゴシップとして紹介し、「正確性にはこだわる」「事実確認したうえで書く」というスタンスはキープしますので、気になることがあればご一報いただければ助かります。いやー、「アレクシス・サンチェスがエヴァートン」は、さすがに踊れませんが…!
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サンチェスの記事は完全に埋草記事っぽいですね。レギュラー執筆者の誰か原稿落としちゃったんでしょうか(笑)
サッカーと関係のない話題で恐縮ですが、「話題のミステリ作品が、あまりに生々しいので調べてみたら、作者は実際の殺人犯だった!」という話題が、少し前にありました。
事実は小説より奇なりを、地で行くエピソードだったので、ジャンル界隈を越えて話題になったのですが、これも翻訳の行き過ぎによる誤解でした(顛末にご興味のある方はコチラへ|http://honyakumystery.jp/4179)
近年、この手の曲解翻訳で怖いのは、第一報がオフィシャルな形で残るので、時間を置いて引用されて、別の誤報が生成され、拡散してしまうところですね(「殺人作家」の話題だけが残る)。
選手の移籍情報は、最終的に、現実が整理してくれるので、大きく問題にはならないのですが…
加えて、まったく素朴な疑問なのですが、「コリエレ・デロ・スポルトによると…」といった記事引用に、ちょろっとアングルをつけてオリジナル原稿風にしているニュースに、便利とは思いつつ、若干違和感があります(権利的に大丈夫なんだろうか?)。
その手の「記事を記事にしてるニュースサイト」は、makotoさんの日々の更新を見習えといいたいですね!
フットボールだけではなく、全般的に日本のテレビ、新聞などのメディアは改善の必要がありますね。
日頃から日本のサッカーメディアについて気になるの事は、本稿で取り上げている某日本メディアの見出しのように「アーセナルFW」と記す、つまり代名詞などを用いて選手名を出さず有耶無耶にすること、そして何より、記事を作成した記者の名前が明かされないことだと思います。
1つでも多く被閲覧数を増やしたい気持ちは分かりますが、最低限のジャーナリズムは貫いて欲しいです。ニュアンスを変えるなら、責任を持って変えてほしいです。
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ASAPさん>
ありがとうございます。リンク先の記事を読ませていただきましたが、日本のフットボール関連の記事でも「英→英→日」で全く別物になるのを時折見かけます。。
「権利的に大丈夫なんだろうか?」→これ、日本の著作権法だけで考えても微妙なんですよね…。「出典明記」「引用部分とそうでないブロックの明確な区分け」「主は意見、記事引用部分はあくまでも従」というのが法律にはありますので。日本とイギリスのルールの違いについて棚上げしたとしても、私もときどきグレーゾーンに足を踏み入れているのだと思います。
アンさん>
書いたことに対する責任という意識が希薄なメディアが散見されますね。
ホタさん>
見出しの煽りは、グレーを通り越して真っ黒というものもありますね。最近では、「岡崎のライバルが契約更新! 2021年まで延長」という記事の主役がデマライ・グレイでした。従来の起用法では彼のライバルはオルブライトンとマフレズとするのが妥当で、かなり無理があります。