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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

圧倒的なポゼッション、僅差の勝負、しかし…「アーセナル絶賛、トッテナム酷評」と極端に分かれた理由。

「アルベルト・アインシュタインが、『同じことを繰り返し行い、異なる結果を期待するのは狂気の沙汰だ』と本当にいったかどうかは定かではない。しかし、トッテナム・ホットスパーのファンが、チームの同じ過ちの繰り返しに気が狂いそうになっているのは間違いない」(マット・ロー/テレグラフ)

イングランドのメディアとジャーナリストは残酷です。優勝を争う天王山や、ダービーマッチは関ケ原の決戦のようです。勝てば征夷大将軍、負ければ三条河原で晒し首…とまではいかずとも、歯切れのいい言葉でバッサリやられることは覚悟せねばなりません。前節はアルネ・スロットの戦術が絶賛され、テン・ハフとマンチェスター・ユナイテッドが肩身の狭い思いをしました。ショートカウンター3発で0-3ではやむなしと、自分に言い聞かせるしかありません。

日曜日のノースロンドンダービーも、勝ったアーセナルが称賛され、敗れたトッテナムは批判を浴びました。しかしこの試合は、ポゼッション64%対36%、シュート数15対7、オンターゲット5対4とホームのスパーズが押していたゲームです。スコアは0-1の僅差で、唯一のゴールはセットピース。何人かの記者や評論家の言葉に、「そんなにディスります?」と違和感を覚えました。

トッテナムが攻めあぐんでいたのは確かですが、アーセナルも決定機を創れず、ゴールシーン以外のビッグチャンスは、トロサールのスルーパスでマルティネッリが抜け出した19分の速攻ぐらいです。ジェームズ・マディソンとペドロ・ポロの20本の単調なクロスや、完封されたソン・フンミンを見ると、勝利は難しかったかもしれませんが、ドローの可能性はあったでしょう。

「アーセナル絶賛、トッテナム酷評」の急先鋒は、「BBCラジオ」で解説をしていたマシュー・アップソンです。「ガブリエウとウィリアム・サリバは、現在の欧州で最高のCBコンビ」「レアンドロ・トロサールは別格」とガナーズの選手を激賞する一方で、スパーズについては「守備が脆すぎる。決定力もない」と切り捨てています。

スパーズの攻撃陣を困惑させたアーセナルの守備陣が評価されるのは、よくわかります。カイ・ハヴェルツとトロサールを前線に配した4-4-2の包囲網は意思統一がなされており、サカとマルティネッリの献身的なチェックや、トーマスとジョルジーニョのカバーリングは見事でした。しかしトッテナムはなぜそこまで…記者や評論家のさまざまな言葉に目を通すと、共通項は「明確な課題があるとわかっているのに、変わっていない」でした。

たとえば「BBC」のフィル・マクナルティ記者が配信したレポートの見出しは、「Same old story – Arsenal expose Spurs flaws again(いつもと同じ話。アーセナルがまたもやトッテナムの弱点を暴露)」。セットピースのコーチの採用を拒否したポステコグルー監督は、リーグのワースト2となっているCKからの失点を改善できていないと指摘しています。

冒頭に紹介したマット・ロー記者がいう「同じ過ちの繰り返し」も、セットピースを指しています。「CKは、昨季のポステコグルー監督の下で、トッテナムの最大の弱点だった。序盤の状況を見ると、今季もそうなるだろう。GKのヴィカーリオはCKになるのを嫌がっており、ロメロとファン・デ・フェンはCKの守備を好まない」。問題のシーンを、再度チェックしてみましょう。

右からのキッカーは、ブカヨ・サカ。インスイングのボールがニアかセンターに出てくるのは、わかっています。ガブリエウが中央に走った瞬間、ロメロは前に押し出されてしまいました。プレッシャーをかけるなら、彼とゴールの間に入らなければなりません。ウインガーが蹴る直前に、ベン・ホワイトがGKを押さえ込もうとするのも、カイ・ハヴェルツにやられた4月と同じです。

あのときは、ベン・ホワイトがヴィカーリオのグローブを外そうとするというブラックな裏ワザまでありました。ボールが中央に飛んでくると、ガブリエウはロメロの背中を突いてフリーになり、ジェームズ・マディソンとともにSBに押されたGKは、またしても出られませんでした。一部に「ガブリエウのファールでは?」という声もあるようですが、大多数は「ロメロが集中力を欠いた」という評価です。

改善できていないという批判は、ニューカッスル戦でマークを怠ったロメロに集まっています。セント・ジェームズ・パークの最初の失点では、ボールを追って前に出た後、ハーヴィー・バーンズがゴール前に走り込んできたのに戻りが遅く、フィニッシュを見送るしかありませんでした。ジェイコブ・マーフィーが裏に出た決勝ゴールの際も、他の3人が必死に追うのを後ろから見ていました。今回の酷評には、そういった背景もあったようです。

現地メディアの批判は、必ずしもロジカルではありません。そもそもイギリス人の多くは、皮肉やいじりが大好きです。そのうえで、「ポステコグルー監督は頑固一徹」「トッテナムは、昨季プレミアリーグの最終盤から3勝1分7敗とスランプ継続中」といった面もあり、「ほらやっぱりセットピース!」と、テンションが上がってしまった記者も多かったのでしょう。

フラットに見れば、「昨季プレミアリーグで優勝を争った強豪を押し込みながら、0-1の僅差で惜敗」です。主力を欠いたアーセナルが、得意の守備に徹してしまったため、却ってやりにくかったのではないでしょうか。セットピースからの失点だったので、ツッコミが入りましたが、ミドル1発だったら、「最後まで攻めたが、相手の守備が上回っていた」といった程度で済んでいたかもしれません。

歯に衣着せぬ発言で有名なあの人は、クリーンシートで勝ったアーセナルを「未熟、ナイーブといった言葉とは正反対。経験豊富で成熟しており、タイトルを何度も獲得しているチームのようだった」と激賞しつつ、スパーズについても(ロメロは別として)冷静に語っています。タイムアップの後、ナイスゲームとつぶやいた者として、その姿勢に共感します。

「トッテナムを厳しく批判するつもりはない。なぜなら、今日のアーセナルを崩すのは、とても大変だったからだ。クロスを入れても、ウィリアム・サリバとガブリエウという2人の巨漢が戦いを挑んできて、タイトに守られる。彼らのボックスのなかでは、フリーのヘディングなど存在しない。アーセナルは本当によかった。注意力、集中力、規律。全員が自分の仕事をこなしていた」(ガリー・ネビル)


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