偏愛的プレミアリーグ見聞録

フォラリン・バログンがモナコに移籍したのは、2023年の夏の終わり。レンタル先のランスで、リーグアン37試合21ゴールという数字を叩き出したストライカーの放出は、賛否両論でした。今年の夏は、チャーリー・パティーノ、エンケティア、スミス・ロウがチームを離れ、リース・ネルソンとカール・ハインがローン移籍となっています。

サカ、マルティネッリ、サリバなど若手を育てて強くなったアーセナルは、優勝をめざすべく即戦力を引き入れるとともに、若手が居場所を失いつつあります。16歳の逸材、チド・オビ＝マルティンの退団は衝撃でした。昨季のU-18プレミアリーグで18試合32ゴールという出色のスタッツを叩き出したストライカーは、ノースロンドンでの未来に疑念を抱いたと伝えられています。

ビッグクラブにとって、「勝ち続ける」「育てる」の両立は、時に大きなジレンマになります。カイ・ハヴェルツ、デクラン・ライス、ミケル・メリノ、カラフィオーリ、ティンバーらを次々と獲得したアルテタ監督のチームは、若手が食い込むすき間がなくなったように見えます。それ自体は、悪ではありません。トロフィーを獲得する体制が整った証です。

とはいえ、これは、ブカヨ・サカの後に続きたいティーンエイジャーたちの行く末が案じられる状況でもあります。放出候補となってしまったエンケティアや、移籍が既定路線となっていたパティーノのニュースが流れるたびに、気になっていたのがイーサン・ヌワネリです。15歳だった2年前、史上最年少でプレミアリーグデビューを果たしたMFにチャンスはあるのか…？

昨シーズンは、プレミアリーグ2やFAユースカップなど、ユースのゲームで20試合18ゴール。トップ下、インサイド、ウイング、CFなど複数のポジションで起用したのは、ユーティリティーを求めるトップチームの意向を汲んだからでしょう。上で戦えるレベルに達しているように見えたMFのプレミアリーグでの出番は、0-6で圧勝したウェストハム戦の13分のみでした。

今季のプレミアリーグや国内カップで、チャレンジする機会を得られなければ、移籍を検討し始めるのではないか。いや、スミス・ロウとファビオ・ヴィエイラの離脱には、17歳の原石を磨こうという意図が込められているのではないか。机の上では結論が出ないテーマについて、あれこれ考えていると、ノースロンドンダービーという重要なステージで光が射してきました。

この日の出場時間は13分。専守防衛となったマン・シティ戦をスキップしたアタッカーは、ボルトンとのカラバオカップ3回戦でスタメンに抜擢されました。左サイドには、エティハドの最終盤に左サイドで奮闘したルイス＝スケリーもいます。GKは16歳のジャック・ポーター。右SBのジョシュ・ニコルズは18歳で、アメリカツアーで目を引いた逸材です。

マルディーニ・カクリとイスメアル・カビアの18歳コンビも、勝利が確実となった終盤に公式戦デビューを果たしています。デクラン・ライスが先制した後、37分の追加点は、ルイス＝スケリーのスルーパスでスターリングが抜け出し、クロスに走り込んだヌワネリが決めました。公式戦初ゴールの17歳は、49分にも敵陣で奪ったボールを中央に持ち込み、ネットを揺らしています。

カラバオカップ4回戦の相手は、1888年にスタートしたフットボールリーグで最初の王者となった古豪プレストン・ノースエンド。チャンピオンシップで21位のクラブという抽選結果は、ティーンエイジャーたちにとって朗報です。ヌワネリは当然、先発でしょう。彼はいずれ、ウーデゴーアとガチで比べられるような存在になるのではないでしょうか。

ルイス＝スケリーは、絶賛渋滞中のSBより、トーマスとジョルジーニョの後釜のほうがチャンスがあるでしょう。ボルトン戦で74本のパスを通したジョシュ・ニコルズが成長すれば、負傷が多い冨安健洋はいよいよ危うくなりそうです。今季のプレミアリーグ2で3戦4発2アシストのネイサン・バトラー＝オイェデジは既に21歳で、早々にブレイクしてほしい選手です。

育てながら勝つ…どんな名将でも必ず突き付けられる難しいテーマに、アルテタ監督は最適な解を示せるでしょうか。難敵との連戦を無敗でクリアしたプレミアリーグは、レスター、サウサンプトンと5戦未勝利の昇格チームが続きます。セーフティーリードを得て、若手にチャンスを与えられる展開になればいいですね。ヌワネリには、プレミアリーグ初ゴールを期待しています。