偏愛的プレミアリーグ見聞録

「われわれのチームに、彼のような選手はいない。おそらく守備においては、私がこれまでに見てきたなかで最高の選手だ。彼のコンセプト、原則とそれらの活用術。デュエルに臨む姿勢、危険を察知する方法。冷静沈着に緊急事態に対応する術を持っている」（2023年9月28日、ボーンマス戦の直前のプレスカンファレンスにて）

「幸いにも長期離脱にはならないようだけど、復帰した際には、負荷やピッチ上の影響からの反応を見守らなければならない。われわれは彼を必要としている。その仕事量と、復帰のために費やした時間には驚くべきものがある。彼はやり遂げ、素晴らしい状態を取り戻した。でも、また新たな課題に直面している」（2024年10月18日、ボーンマス戦の直前のプレスカンファレンスにて）

出場機会を得られない選手だけでなく、負傷によるリタイアを繰り返す選手もまた、メディアが繰り出すゴシップのおいしい素材です。冨安健洋は、夏のトランスファーマーケットが終わっても、ユーヴェやインテルのターゲットといわれています。結論のない記事は、インターナショナルブレイクに集中しており、さほど重要な話ではないのでしょう。

2024-25シーズンが3ヵ月を過ぎても、公式戦の出場時間はサウサンプトン戦の6分のみ。それでもアルテタ監督にとって、冨安健洋は重要な戦力のようです。現地の記者やジャーナリストの間で、伝説となっているリヴァプール戦から2年。彼の状態について問われた指揮官は、あの頃と変わらず能力と姿勢を称賛し、必要な存在といい続けています。

2022年10月10日、ノースロンドンダービーを3-1で快勝した直後のエミレーツ。7勝1敗で首位に立ち、リヴァプールを迎え撃つアーセナルの最大の課題は、「モー・サラーをいかに止めるか」でした。アルテタ監督が選んだソリューションは、冨安健洋。左サイドで先発するのは、前シーズンの最終盤以来で3度めでした。

両足を同じように使えるフルバックのパフォーマンスを熱く語るより、完封されたウインガーのスタッツを並べたほうが、長く語られ続けるであろう69分の出来事を再現できるかもしれません。リヴァプールのエースはシュート1本に留まり、ファイナルサードに通したパスも1本だけ。xG（ゴール期待値）は0.06で、ラムズデールを脅かすシーンはありませんでした。

サラーにカットインを許さなかった冨安健洋は、デュエルで3勝1敗と上回っただけでなく、ファイナルサードに13本のパスを供給しています。状況が好転する見込みなしと判断したクロップ監督は、残り20分の手前でサラーを諦めてしまいました。2-2というゴールがほしい状況で、エースに代えてファビーニョ。冨安が完璧だったことがわかる交代策です。

2年後のエミレーツで、キヴィオルとルイス＝スケリーがサラーに置き去りにされたのを見て、彼がいればどんな展開になっていただろうと想像しました。2-1か、あるいは3-1か。セットピースからのファン・ダイクのゴールが、アウェイチームの最後の歓喜になっていたという筋書きは、贔屓目が過ぎるでしょうか。

「このDFの実力に疑いの余地はない」「長いシーズンのなかで、冨安の価値が感じられる時が来るだろう」。アーセナルの内情に詳しい「アスレティック」のアール・ド・ロシェ記者は、アルテタ監督にとって依然として素晴らしい選択肢であるとともに、1年のオプションを含む2年契約は、将来がどうなろうとクラブの利益につながるといっています。

膝を負傷した冨安健洋の復帰時期は未定だそうです。私たちはひたすら、待ち焦がれるしかありません。最終ラインのリタイア続出に苦しむ指揮官こそが、最も強い思いをもって早期の復帰を願っているはずですが、最高のDFについて語る言葉は、焦らせまいとする思いやりに満ち溢れています。この監督との出会いは、彼のフットボール人生における最大の財産でしょう。

「われわれはみんな、彼を支援している。彼にはわれわれのサポートが必要だ。きっとうまくいく」（2024年10月18日、ミケル・アルテタ）