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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

ギョケレスは慎重に、エゼは大胆に。アンドレア・ベルタSDの巧みな新戦力獲得術を振り返る。

レミアリーグレコードが2回も更新された狂乱のトランスファーマーケットが幕を閉じました。20クラブのなかで補強の評価が最も高いのは、連覇をめざすリヴァプールでしょう。イサク、ヴィルツ、エキティケ、ケルケズ、フリンポン、レオーニに4億1500万ポンドを投じる一方で、ルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェス、クアンサー、ベン・ドークらを納得の価格で売り切っています。

高額の移籍金で獲得した2人のストライカーとプレーメイカーの印象が強く、戦力が格段に高まったと評されていますが、マーク・グエイの獲り逃しが苦しいやりくりを招く可能性があります。ファン・ダイク、コナテ、ジョー・ゴメス、レオーニというCBの顔ぶれは万全とはいえず、遠藤航やフラーフェンベルフが最終ラインに加わる必要が生じるかもしれません。

新戦力の実績と投資額を見ると、マイケル・エドワーズCEOとリチャード・ヒューズSDが称えられそうですが、コストパフォーマンスと適材適所という観点では、アーセナルを推す記者もいるでしょう。ケパ、ズビメンディ、ノアゴーア、ノニ・マドゥエケ、ギョケレス、モスケラ、エゼ、インカピエの8人は、アルテタ監督のオーダーに完璧に応えたといえそうです。

ガナーズの最大の補強は、3月末に加わったアンドレア・ベルタSDではないでしょうか。「アスレティック」のジェームズ・マクニコラス記者は、アトレティコ・マドリードの強化に貢献したディレクターの人となりについて、「影の存在」「控えめな性格で、SNSのプロフィールも壮大な計画を語るインタビューも存在しない」と表現しています。

アーセナルを10年以上取材してきた記者のレポートを読むと、53歳のイタリア人SDの強みが交渉力と決断力であることがよくわかります。前任のエドゥ・ガスパールは、生来のスポークスマンであるとともに野心家で、リスクに躊躇しない攻めの補強が持ち味でした。一方、アンドレア・ベルタは「是々非々」「メリハリ」。粘り強い交渉によって最適な解を導き出すスタイルです。

今回の8人を、「慎重」「大胆」に分けてみましょう。ラヤのバックアッパーに関しては慎重で、2170万ポンドといわれていたジョアン・ガルシアに懸念を示し続けていたそうです。エスパニョールのGKのバルサ移籍が決まると、即座に500万ポンドのケパを獲得。ギョケレスも慎重モードで、初期投資を5480万ポンドに落とせたのは、粘り強いコミュニケーションがあったからです。

シェシュコに目を向けていた指揮官やスタッフたちを納得させたうえで、フレデリコ・ヴァランダス会長と揉めるきっかけを作った代理人のジョナサン・ハルキアスからマージン放棄という妙案を引き出し、アーセナルとスポルティングCPが双方納得の金額で着地させました。今ではすべての関係者が「グッドビジネス」と評しているといいます。

トーマスの退団から10日後にノアゴーアを1500万ポンドで獲得したのは、「経験豊富な即戦力を後釜に据えるべき」というSDの主張がトリガーでした。バレンシアでプレイしていた21歳のCBクリスティアン・モスケラは、アトレティコ・マドリード時代から注視していた選手で、1300万ポンドは格安とジャッジしたようです。

ノニ・マドゥエケとの契約は、良好な関係を築いていたアリ・バラット氏が仲介人となり、スムーズに進みました。ここまでは、「慎重」「堅実」「コスパ重視」のディールです。対して大胆だったのは、ズビメンディ、エゼ、インカピエ。前任からの引継ぎ案件だったズビメンディは、5100万ポンドのリリース条項をクリアすればよかったのに、500万ポンドを上乗せしています。

レアル・ソシエダから引き出したかったのは分割払い。その後の投資が視野に入っており、PSR対策が必要になる状況を作りたくなかったのでしょう。クリスタル・パレスのエベレチ・エゼは、6800万ポンドのリリース条項の解除を待って、5000万ポンド程度で獲りたかったのですが、プレミアリーグの開幕後にカイ・ハヴェルツの負傷とスパーズのオファーが重なりました。

移籍金6000万ポンドと750万ポンドのアドオンという好条件を提示したのは、スパーズとの交渉を即時で止めさせたかったからです。数時間でクラブ間合意に漕ぎ着け、翌日にメディカルチェックというスピード決着は、ギョケレスに時間をかけていた人物とは思えません。緊急時の決断が速いSDは、デッドラインデーのインカピエの決着ではマジックを披露したといわれています。

ジェームズ・マクニコラス記者のレポートからエピソードを紹介しましょう。時間との戦いを強いられていたアーセナルは、キヴィオルのポルト移籍とインカピエ獲得をセットで決める必要がありました。レヴァークーゼンとスワップに持ち込めればシンプルですが、彼らはキヴィオルには興味がなかったようです。

既に2億5000万ポンド以上の投資を行っていたガナーズは、ドイツのクラブに支払う4500万ポンドを来期の計上にしたいと考えていました。買取義務付きのローン移籍となると、契約が保証されているため、今期の数字となってしまいます。買取オプションなら、来期に先送りできるのですが、レヴァークーゼンが納得しないでしょう。

早期に着地させるべく、Win-Winをめざしたアンドレア・ベルタの提案は、「両クラブが完全移籍のオプションを有するローン契約」。アーセナルがオプションを行使しなくても、レヴァークーゼンが手を挙げれば強制的に買取となる仕組みです。選手がドイツに戻るのは、両者ともに買取NGのレアケースのみ。ディールが成立したとき、アーセナルのスタッフは驚嘆したそうです。

かくして8人の新戦力が、納得のお値段で手に入りました。ディーン・ハイセンなど獲り逃がしはあったのですが、冒頭で「アルテタ監督のオーダーに完璧に応えた」と表現したのは、指揮官の納得や満足を得ながら事を進められたからです。総合評価は85点でいかがでしょうか。ジンチェンコ、ファビオ・ヴィエイラ、リース・ネルソンがローン移籍ではなく売却成功なら98点です。

層が厚くなったチームがリヴァプールの進撃を止め、プレミアリーグかチャンピオンズリーグを制覇できたら、グーナーのみなさんは彼を盛大に称えたくなるでしょう。フロントマンという役割を好まないSDは、アルテタ監督に舞台に上がるよう促し、後ろで静かに拍手するのだと思われますが…。まずは8人のパフォーマンスに注目しましょう。モスケラ、よさそうですね!


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