欧州、全滅!プレミアリーグの急激な凋落・4つの仮説(2)欧州に本気ではないプレミアリーグ勢
(2)欧州に本気ではないプレミアリーグ勢
はっきり申し上げて、プレミアリーグ勢はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグを本気で勝とうとしていないのではないかと思います。優勝できると考え、それを行動で示しているのはチェルシーのモウリーニョ監督ぐらいではないでしょうか。アーセナル、リヴァプール、そして今やマンチェスター・ユナイテッドも、チャンピオンズリーグで勝つよりプレミアリーグで4位になるほうを優先しているようにみえます。実際、経営的には間違いなくそうでしょう。優勝できるなら別ですが、スペインの2強とバイエルン・ミュンヘンが強すぎる今は、がんばってもベスト4、普通にやれば8強止まり。ラウンド16敗退とベスト8の差と、プレミアリーグ出場権の有無の差を比べれば、圧倒的に後者の差のほうがシビアです。
ではなぜ、つい数年前までは決勝に顔を出すのが当たり前だったプレミアリーグのクラブは、内向きになってしまったのでしょうか。私が考える最大のポイントは、「マンチェスター・シティが強くなったから」。今までは、「マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナルは当確、リヴァプールがコケたらトッテナム」という3強プラス1の時代。これは、スペインのバルサとマドリード勢、ドイツはドルトムントが自滅しなければバイエルンとの2強+2、イタリアもユヴェントス当確でローマも常連と、他国は現在も似たような構図です。トップクラブは優勝を争うものであり、チャンピオンズリーグの出場権は、おのずとついてくるものなのです。
しかしプレミアリーグは、「遅れてきた5番めのトップクラブ」マンチェスター・シティの殴り込みによって、完全なる椅子取りゲームに突入しました。時を同じくして、ベイル資金もあってじわじわと食い込んできたトッテナムを含めると、今や6分の4。ヴェンゲル監督は、チャンピオンズリーグ決勝でPK戦でバイエルンに負けるなどというクラブレコードレベルの結果を欧州で出しても、プレミアリーグで6位ならば、翌シーズンはひたすら財布のヒモを締めて国内で戦うしかなくなるわけです。
しかもプレミアリーグは、テレビ放映権の恩恵を受け、資金がある中堅や下位クラブにも相当な選手がいます。ソング、ボージャン・クルキッチ、カンビアッソは、ついこの間まで欧州のトップレベルで戦っていた選手。下位同士で戦った場合は、自国選手の質の差もあってプレミアリーグはスペインに負けるかもしれませんが、こと上位に対して物おじせず、嫌がるサッカーができるという点においては、プレミアリーグは欧州トップを争うでしょう。ライバルが多くて負けられず、下位に対しても思い切った冒険ができない状況。プレミアリーグ勢は、どの試合も「いつものサッカー」「主力投入」を余儀なくされ、第2・第3の戦術開発や若手抜擢が後回しになりがちなのだと思われます。
今季、いちばん長期的な視野に立ってチームを作っていたのはトッテナムのポチェッティーノ監督で、試合ごとにスタメンを総取り替えする勢いで「次世代の若手を育て、複数のコンペティションをローテーションで戦えるチームへ」という試みに秋から取り組んでいました。ハリー・ケインやライアン・メイソンが成長し、チェルシーから5点を奪うようなチームになったのは監督の功績だと思いますが、彼とて、本丸は明確にプレミアリーグ。「ヨーロッパリーグを失ってもいいから」という但し書き付きだったのは間違いありません。
今シーズンの欧州でいちばん残念だった試合は、パリに負けたチェルシーでもなく、モナコ相手に失敗したエミレーツのガナーズでもなく、11月4日のサンチャゴ・ベルナベウ、レアル・マドリードに1-0で負けたリヴァプールのゲームでした。欧州のトップとの距離感とスペイン人に囲まれたアウェイの空気を肌で知り、経験を積める貴重な機会。ここまでレアル・マドリードは3連勝でトップ通過はほぼ確定でした。リヴァプールは直前のアンフィールドで0-3と手もなくひねられており、だからこそ相手が緩んでドローに持ち込める可能性があった大事なゲーム。しかし、この日のスタメンには、ジェラード、コウチーニョ、ヘンダーソン、スターリングの名前がありませんでした。1-0は惜敗ではなく、戦わなかったレッズと流して終わらせたマドリードの暗黙の了解のような結果。リヴァプールは、この1ヵ月後にチャンピンズリーグ敗退が決まりました。
前週のミッドウィークに行われたキャピタルワンカップのスウォンジー戦にはコウチーニョとヘンダーソンが出て勝っており、当時は「ロジャース監督、手を抜く試合を間違えていませんか」と思ったものでした。リヴァプールが今季、欧州で敗れた最大の理由は、ポストSASのチーム作りが遅れてバーゼルに勝てなかったことと、マンチェスター・シティ戦を重視してベシクタシュ戦でメンバーを落としたことだという認識ですが、こういった欧州軽視の姿勢が、「欧州を勝とうとしているチームに行きたい」という選手離脱の理由につながってしまうのではないかと心配です。
さて、「欧州に本気ではない」といえば、最後にチェルシーについても触れたいと思います。冒頭でも述べましたが、現在のプレミアリーグの監督で、いちばん欧州を知り、勝とうとしているのはモウリーニョ監督だと思います。レアル・マドリードからやってきて2年め。昨季まで4年連続チャンピオンズリーグのベスト4。しかし、世界で5本の指に入る監督は、初年度が無冠だったこともあり、「イングランドですべてを手にすることの難しさ」のほうを軽視していたのかもしれません。パリに負けたモウリーニョ監督の失敗(あえてそういいましょう)は、「キャピタルワンカップを本気で勝ちにいってしまったこと」ではないでしょうか。
クリスマスまわりでウインターブレイクをとったパリに対して、チェルシーの12月はキャピタルワンカップ、チャンピオンズリーグを含む9試合。1月にはプレミアリーグ3試合に加えて、FAカップとキャピタルワンカップ準決勝で4試合も戦っており、計7試合。しかもキャピタルワンカップは、リヴァプールとの死闘で延長戦付きです。1月17日、スウォンジーとのアウェイ戦で0-5と大勝したチェルシーは、以降の2ヵ月、2点差をつけて勝った試合はキャピタルワンカップ決勝のトッテナム戦のみ。90分で2点を奪った試合は、これに加えて2月頭のアストン・ヴィラ戦だけです。ジエゴ・コスタとセスクにキレがなくなったチェルシーは、パリと戦ったスタンフォード・ブリッジでは秋に見せた最強チームではなくなっていました。パリとの試合後、「相手が10人になってよりプレッシャーを感じてしまった」とモウリーニョ監督が語っておりましたが、その源は、自らを蝕んでいた慢性的な疲労だったのではないかと思います。
モウリーニョ監督は、プレミアリーグ開幕後、最初に獲れるタイトルであるキャピタルワンカップで勝ち、まずは2年連続無冠という屈辱を回避したい気持ちもあったのかもしれません。カップ戦も全力で戦えという文化がイングランドにあるのは重々承知ながら、12月から3月にかけての4試合を若手のみで戦っていれば、チャンピオンズリーグで別のチームのような寂しい姿を見せなくてもよかったのではないかと思います。ここ2ヵ月のチェルシーの姿をつぶさに見ていれば、現在のペースダウンは年末年始から徐々に始まっていたものだということを感じていただけたでしょう。日程の話は、次稿であらためて書かせていただきます。
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