教訓を活かし切ったユルゲン・クロップ~リヴァプール、CL制覇の軌跡(2)ファイナルアンサー
ラウンド16のバイエルン戦は、ファン・ダイクがいなかったアンフィールドでのファーストレグを0-0で終えられたのがアウェイでの勝利につながりました。ヒーローは、見事に穴を埋めたファビーニョ。敵地アリアンツ・アレナで、最低でもゴールを奪ってドローに持ち込むというミッションは簡単ではありませんでしたが、プレミアリーグ得点王となったマネの2ゴールと、CKを叩き込んだファン・ダイクの完璧な勝ち越しヘッドで見事にクリアしました。不用意な飛び出しでマネの先制ゴールの戦犯となってしまったノイアーに対して、オウンゴールのみで食い止めたアリソンは終始冷静でした。
準々決勝のポルトは、前年も2試合トータル5-0で下している与しやすい相手で、2-0、1-4と同じ5点差をつけて難なくクリア。バルサとのファーストレグは、カンプ・ノウの雰囲気に呑まれた最終ラインが、メッシやスアレスをリスペクトしすぎたのが最大の敗因だったと思います。サラーとフィルミーノ抜きで3点のビハインドを追うという絶体絶命のセカンドレグで、隠し玉オリギと初戦の不出来を咎められて激オコだったワイナルドゥムが爆発しました。4-0、大逆転!前半戦はオプションがなかったチームは、2試合トータルを同点とするワイナルドゥムのヘッドをお膳立てしたシャキリ、メッシやスアレスへの縦パスを殺したファビーニョ、アーノルドのクレバーなCKを左隅に押し込む決勝ゴールをゲットしたオリギという新たな戦力を誇示して決勝に辿り着きました。
リヴァプールがCLを制することができた最大の理由は、大一番でゴールを許さない鉄壁の守備が仕上がったからだと思います。プレミアリーグ38試合で22失点しか許さなかったチームは、ナポリに1-0、バイエルンとのセカンドレグで1-3、バルサとの決戦で4-0と、絶対に負けてはいけなかった3試合をマティプのオウンゴールのみでしのぎ切っています。64試合連続でドリブルで抜かれるシーンがない大黒柱ファン・ダイクと、欧州屈指の守護神アリソン・ベッカーの移籍金は、既に元を取ってお釣りが出ているのではないでしょうか。最後に残った負けられない試合、トッテナムとの決勝でも、この2人が勝利の立役者となりました。
開始30秒でマネがシソコのハンドを誘い、前年のリベンジに燃えるモー・サラーがPKを決めて1-0。レッズがアグレッシブに戦おうとしたのは、ここからの3分のみで、フィルミーノの不調と相手のロングフィードの脅威を察したチームは戦い方をスイッチしました。ユルゲン・クロップが、この2年の教訓をすべて活かし切った90分。モウリーニョ、ヴェンゲル、ローレンソンなどプレミアリーグのOBたちが、「レベルが高いとはいえなかった」「つまらない試合だった」と評した戦い方こそが、クロップの望む展開だったのだと思います。就任当初、「ゲーゲンプレッシングはフルシーズン機能しない」と成功を疑問視されていた指揮官は、3年半の苦闘を経て、「つまらないけど負けない試合」ができるチームを創り上げていたのでした。
ムバッペやジョルディ・アルバに使われたアーノルドとマティプの周辺のスペースは、策士ポチェッティーノも当然のように狙ってきました。ファビーニョの脇を締めることに腐心した前半を終え、体力に不安があったフィルミーノを58分で諦めると、クロップ監督は自信をもって「シーズンの最後に間に合ったオプション」オリギを投入します。さらに62分、ミルナーの起用でサラーとオリギが流動的に前線に出る4-2-3-1にスイッチ。試行錯誤の前半戦で何度も使ったフォーメーションが、決勝の大事な局面でチームを支えることになりました。
スパーズの左からのアタックに対して数を足し、速攻の際にはファン・ダイクがマティプのポジションにまわり込んできます。75分のソン・フンミンに対するチェックは、ストライカーがスピードを落とすタイミングを熟知したワールドクラスの対応でした。アーノルドとロバートソンにアーリークロスを徹底させたのも、カウンターを嫌った指揮官の工夫でしょう。磨き上げた最終ラインをベースに、MFを的確に配してスペースを埋め、さらに2枚のオプションで弱点にフタをする周到な采配は、バルサ戦でラッキーボーイとなったオリギのゴールとして結実しました。2-0とした後、緊張感から解放されたのか、マティプの脇を何度も崩されたシーンがレッズの弱点が未だそこにあることを物語っていました。
苦い失敗を教訓としてすべて活かし切ったレッズの指揮官を見て、「人間は、50代になってもこんなに変わることができるのだ」という驚きと感動を覚えました。これが、クロップのファイナルアンサー。ゲーゲンプレスが看板だった監督は、ジョゼ・モウリーニョのように引いて戦うスタイルをオプションに加えて欧州を制しました。指揮官と選手たちがいかに苦心したかを物語る言葉を聞いて、ついに涙腺が決壊してしまいました。最後に、紹介させてください。
「Did you ever see a team like this, fighting with no fuel in the tank?(こんなチームを見たことがあるかい?タンクに燃料がないのにファイトするんだぜ!)」
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リヴァプールのCLの軌跡ありがとうございます。
美味しいコーヒーを飲みながら余韻に浸りながら楽しく読ませていただきました。
たしかに決勝戦はつまらない試合と思った方も多いでしょうが、まさに1年前の教訓を活かしたクロップなりの答えだと私も思いました。
つまらないサッカーをしてでも今年のタイトルは欲しかったのだと思います。
面白いゲームもするし、重要な試合ではつまらないけど負けないゲームも出来ることになったのは強くなった証だと思います。
来年こそは悲願のプレミアのタイトルを目指して欲しいです。
美しいフットボールをして、しかも勝つ‼︎が理想ですが、CL決勝3回目のクロップにすれば盤石の態勢で勝ちに行くのは当然でしょう。
リーグに関しては来季は引き分けに終わらせず勝ち切るフットボールをしないと制覇できないでしょう。
もっとも、レッズにこれ以上強くなられたらシティもちょっと厳しいでしょうが。
更新ご苦労様です。
ゲーゲンプレスや失点しても取り返すなど、かつてのレッズはDFは脆く攻撃は絶品でした。そのためリーグ戦でも取りこぼしが多く、守備的でも勝ち切るゲームを渇望していた自分がおりました。以前のモウが率いたチームのように、、、。今回のCLがそれと同じとは言いませんが、過去の経験教訓をしっかり活かした結果だと思います。どんなに派手なゲームをしても負けてはカップはとれません。
マティプの脇は今後の課題ですね。とにかく強いチームを作ったと思います。次はEPL制覇です。今度こそです!
恐らく、リヴァプールというチームはいつも『劇的なゲーム』を大舞台で繰り広げることが多くのフットボールファンの間でイメージ化されてきたことに対する反発として、「面白くない」や「地味な試合だった」という言葉が決勝後に出てきた大きな要因の一つなのかな?と。
実際僕自身も派手なドンパチを繰り広げての勝利をどこかで期待していましたし。
ただ、makotoさんの仰ってる通り、タイトルを獲得するための実利を選んだクロップの采配は、このチームが持つポテンシャルを更に一段引き上げたと認識してます。
「このタイトル獲得は新たな挑戦のスタートに過ぎないんだ」
というクロップの言葉は、来季のプレミアタイトル奪取に向けた士気が高まる宣戦布告でしたね。
シティーとリヴァプール、更にそこに何チームかが加わる新たな覇権争い、楽しみでなりません。
good job!
素敵な記事をありがとうございます。
更新ありがとうございます!このタイミングしかない素晴らしいエントリーですね。
オリギの忍耐強い起用がずっと不思議でしたが、ヘヴィメタルフットボールの進化について色々と腑に落ちました。ファンダイクを見事に活かし、彼を軸にして手に入れた守っても勝てるサッカー。ボスは名実ともに世界最高の監督の仲間入りを果たしましたね。
もしプレミアも優勝していたら次の目標を見失っていたかもしれません。しかしもう1人、選手のポテンシャルを最大限に引き出す天才がマンチェスターにいます…来シーズンがますます楽しみな結果になりました!次は二冠!
オリギの評価が難しい…。
ラッキーボーイではあれど、やはりまだ第4の男とは言えない気がするなぁ。