偏愛的プレミアリーグ見聞録

1ヵ月前、プレミアリーグ11節終了時点では、首位に並んでいたリヴァプールとトッテナムに2ポイント差の3位。フランク・ランパード率いるチェルシーは、優勝候補と目されていました。2節のリヴァプール戦を0-2で落とした後、CLグループステージ最終節のクラスノダール戦まで、公式戦17試合連続無敗。ヴェルナーが決められなくなったのは懸念材料でしたが、出遅れていたツィエクがフィット感を高め、セヴィージャ戦で4ゴールのジルーは絶好調でした。

順調だったチームが暗転したきっかけは、ウイングの相次ぐ負傷だったように見えます。プリシッチ、ツィエク、ハドソン＝オドイを欠いたエヴァートン戦を1-0で落とすと、ジルーのゴールでリードしていたウルヴス戦は、終了間際にペドロ・ネトに決められて逆転負け。ハマーズには3-0で勝ちましたが、手負いのアーセナルに3-1で敗れ、8位に転落してしまいました。ひとつ上にいたアストン・ヴィラとの「直接対決」もまた、ジルーの先制ゴールを守れず1-1ドロー。コロナウイルスの感染拡大で5人の主力を欠いていたマンチェスター・シティとの一戦は、スタンフォード・ブリッジで前半0-3という屈辱的な展開で完敗しました。

直近のプレミアリーグ6試合で1勝1分4敗。12月5日のリーズ戦の前に「契約延長したい。長期的なチームづくりに関わる一員でいたい」と語っていた指揮官は、たった4週間でブックメーカーの解任監督予想の大本命となってしまいました。チェルシーは、なぜこれほど崩れてしまったのでしょうか。考えられる理由を列挙してみましょう。「ヴェルナーの自信喪失」「カイ・ハヴェルツの不振」「層が薄い中盤の疲弊」「カウンターへの対応の脆弱さ」「サイドアタックの弱体化」。スタッツを見ると、現在のチェルシーは「持たされているチーム」であることがよくわかります。

6試合すべてでポゼッションが50％を超えているにも関わらず、ゴールは7つしかなく、オンターゲットが5本以上だったのは、勝ったハマーズ戦と指揮官が檄を飛ばしたヴィラ戦のみ。無敗を続けていた頃は元気だったSBの攻め上がりが減ってしまい、孤立しがちなウイングは強引な個人技とミドルシュートが目立つようになりました。今季プレミアリーグで唯一、全試合先発のエンゴロ・カンテは、明らかにパスミスやチェックミスが増えています。カイ・ハヴェルツがインサイドにフィットしないため、ジョルジーニョ、コヴァチッチ、メイソン・マウントでまわすしかない中盤は、プレスの強度や上下動の切り替えスピードを欠く時間帯があり、しばしばカウンターを許しています。

「プレミアリーグは以前にいたリーグと違い、思っていたよりもタフだった。コンタクトはドイツより厳しい。予想以上だった」「3日ごとにプレイするのは大変だ。それに、週末に対戦する相手は1週間まるまる休んでいたりする」。2ヵ月もゴールを決めていないティモ・ヴェルナーの不振は、メンタルの問題なのではないでしょうか。1対1でGKに当てたり、フリーの決定機にボレーを打ち上げたりしているうちに、アグレッシブなドリブルやスペースに飛び込む大胆な動きを失ってしまった感があります。いずれは彼らしさを取り戻してくれるはずですが、厳しい試合が続くチームを救う役回りを期待するのは難しそうです。

リヴァプール、アーセナル、マンチェスター・シティに敗れ、マンチェスター・ユナイテッドとトッテナムにはスコアレスドロー。彼らより上位にいるエヴァートンにも1-0で負けており、アストン・ヴィラ戦も引き分けています。7位以内のチームとアーセナル相手に2ゴールを決めた試合がなく、3分4敗のチェルシーは、よくいえば発展途上。「2億2600万ポンドを費やした新戦力を活かせていないチーム」という表現も妥当でしょう。

ランパード監督は、ロフタス＝チークやロス・バークリーをレンタルしたのを悔やんでいるのではないでしょうか。お疲れ気味の中盤と、カウンターを喰らうと慌てる最終ラインは、簡単に改善できるとは思えないのですが…。レジェンド解任という最悪の事態だけは、回避していただければと思います。自らも発展途上の指揮官が苦境を乗り切り、タイトルを獲得すれば、「大型補強頼みだったチームに、アカデミー出身の選手を定着させた監督」として絶賛されるはずです。