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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

高額移籍金と超長期契約、チームの混乱、語学力…チェルシーで苦しむミハイロ・ムドリクの現状と未来。

エドゥ・ガスパールSDは、今の彼にいくら支払うでしょうか。チェルシーがミハイロ・ムドリクの獲得をアナウンスしたのは、2023年1月15日。SNSでアーセナル移籍をほのめかしていたウインガーは、発表当日のスタンフォード・ブリッジで、ハーフタイムにサポーターに挨拶するという慌ただしいスタートを切りました。

アーセナルが3度めのオファーを提示したと報じられたのは、チェルシーに決まる4日前。8500万ポンドを要求するシャフタール・ドネツクに対して、アドオンを含む総額7700万ポンドで交渉中といわれていました。22歳になったばかりだったムドリクは、飼い猫の視線の先にガナーズのシャツを着た自分が映っているストーリーをインスタグラムにUPし、早期決着を求めていました。

たった数日でハイジャックに成功したチェルシーのオファーは、移籍金6000万ポンドとアドオン2580万ポンド。当時、電撃移籍の舞台裏をレポートした「アスレティック」のデヴィッド・オーンスタイン記者とジェームズ・マクニコラス記者は、ウクライナのクラブが翻意した決め手は、要望に対して総額でクリアしたことではないといい切っています。

アーセナルも、最終的にはセルゲイ・パルキンCEOのオーダーを呑んでいたのですが、分割払いの条件と現実的ではないアドオンが嫌われたようです。場外ロンドンダービーを制したチェルシーが本人と結んだ契約は、7年半に1年の延長オプション付きで、ロフタス=チークやハドソン=オドイよりも安い週給9万7000ポンドでした。

その頃は異例だった超長期契約は、単年の減価償却費を安くするための策で、アーセナルを少しだけ上回る低額サラリーは、失敗したときに売りやすくするためと伝えられています。そう、ムドリクへの投資は、そもそもリスキーだったのです。その半年前、レヴァークーゼンとブレントフォードが繰り広げた争奪戦のラインは、2500万ポンドといわれています。

2021-22シーズンまでは、4シーズンで公式戦26試合2ゴール7アシスト。2021年12月のPFKリヴィウ戦で決めた1試合4アシスト以外に、目を引く数字はありません。つまり昨夏までは、縦に抜けるスピードに目を付けた中小クラブが、青田買いを考える程度の評価だったのです。凡庸な戦績しか残せていなかったウインガーが、スカウトの見る目を変えたのは2022-23シーズンでした。

9月に開催されたCLのライプツィヒ戦とセルティック戦で、2ゴール2アシスト。ウクライナプレミアリーグで、確変状態に突入したのは10月です。メタリスト戦で3アシストを記録すると、2ヵ月で9試合7ゴール5アシスト。これによって、移籍金の相場はブレントフォードの手が届かないレベルに暴騰してしまいました。

主力として活躍したといえるのは、たった3ヵ月。ウクライナは12月から休みに入っており、チェルシーに加わったときは、コンディションも良好とはいえなかったはずです。ただでさえ難しい冬の移籍で、入団したクラブは直近のプレミアリーグで1勝1分5敗と停滞中。彼の前後に7人の新戦力が加わり、ロッカールームのシートが足りなくなるというカオスでした。

ポッターからサルトール、ランパードという監督交代も、経験が浅い若手にとっては逆風だったはずです。最初の半年は、プレミアリーグ15試合ノーゴールで2アシスト。ポチェッティーノ監督の下でもフィットしておらず、プレミアリーグ3試合66分でシュート2本、ドリブル成功2回に留まっています。

「アスレティック」のサイモン・ジョンソン記者とリアム・トーメイ記者は、本人が抱える問題も指摘しています。内向的な性格。アメリカ遠征で初めて経験したインタビューで、90秒しかもたなかった語学力。ウクライナで暮らす友人や家族への心配。過度なジム通い。無類のゲーム好き。今、彼に必要なのは、内向きにさせないためのコミュニケーションなのかもしれません。

力を出し切れず、苦しんでいる22歳の最大の希望は、ポチェッティーノ監督のサポートです。サイドアタックを改善したい指揮官は、心身の状態を向上させるために、ピッチの内外で手を差し延べていると伝えられています。ムドリクはブレイクするのか。あるいは「スピードはあるけれど、高度な戦術に対応できず守備も不安な選手」として、中小クラブに居場所を移すのか…。

原石に対する高すぎる移籍金、選手の将来を難しくする長期契約。ムドリクの移籍とその後の軌跡には、現在のフットボールシーンが抱えるさまざまな問題が内包されています。6000万ポンドを7年半に分割して償却しなければならないクラブが、20代の後半になるまであちこちにレンタルし続ける「バカヨコ状態」にならないことを祈るしかありません。(ミハイロ・ムドリク 写真著作者/@8Dodo8)


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