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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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PK戦でハリー・ケインは不要?「イングランドの5人のキッカーと守護神は史上最強だった!」

スイスをPK戦で下して、ベスト4進出。どんなに退屈だろうと、凡庸といわれようと、ガレス・サウスゲートとイングランド代表は称賛されるべきでしょう。デュッセルドルフの激戦の後、現地メディアをチェックしていて感じたのは、「イングランドの人々のPK戦勝利に対する異常な喜びよう」です。

「BBC」「アスレティック」「テレグラフ」は、こぞってPK戦に特化したレポートを配信。スイスの選手たちのクセと対応策が記されたピックフォードのペットボトル、イエローカード覚悟の変顔パフォーマンス、4年越しのリベンジを期すサカが蹴るまでの23秒、イヴァン・トニーのノールック、静かなるアレクサンダー=アーノルド…全員成功は、喜びを倍増させたようです。

フットボールの母国がPK戦に敏感なのは、これまでの歴史のなかで大きなダメージを被ってきたからです。ワールドカップとユーロで2勝7敗。とりわけワールドカップの3敗は、チームのキーマンの失態とリンクしています。1990年のイタリア大会は、準決勝のドイツ戦でPKは3-4。勝負のターニングポイントは、延長前半の立ち上がりにもらったガスコインのイエローカードでした。

ベルトルトに触ってないのにカードが出た、決勝に進出しても出場できない…動揺したガスコインは、残り22分を幽霊のように過ごし、PKを蹴れないほど憔悴してしまいました。1998年のフランス大会でスターだったデヴィッド・ベッカムは、ラウンド16のアルゼンチン戦の47分にシメオネの挑発をやり過ごせず、うつぶせに倒れながら足を後ろに蹴り上げてしまいました。

ジャッジはレッドカード。2-2のままで何とか120分を終えたものの、PK戦を3-4で落として大会を去ることになりました。「ミラー」の見出しは、「10 Heroic Lions, One Stupid Boy(英雄のようなライオン10人と、ひとりの愚かなガキ)」。轟轟たる非難を浴びた7番は、後に当時を振り返り、「SNSがあったら、耐えられなかったかもしれない」と述懐しています。

2006年のドイツ大会は、準々決勝のポルトガル戦でウェイン・ルーニーにレッド。リカルド・カルバーリョのハードマークに苛立ったエースは、62分に股間を踏みつけ、マンチェスター・ユナイテッドのチームメイトだったクリスティアーノ・ロナウドらの執拗な抗議を受けたレフェリーが、高々とカードを掲げました。

0-0からのPK戦は1-3。ランパード、ジェラード、キャラガーが次々と失敗するのを見れば、肩を落とすしかありません。ガスコインやベッカム、ルーニーの背中を忘れられない記者とファンは今でも多く、スロバキア戦のゴールセレブレーションの股間をつかむ仕草を咎められたベリンガム(出場停止処分は、後に取り消し)は、「あっち側の人間になるな」と諭されています。

積年の悔しさを抱えるなかで、スイス戦が1-1のままタイムアップとなった瞬間、イングランド人の多くが心臓が締め付けられるような感覚に襲われたのではないでしょうか。PKのスペシャリストであるハリー・ケインは、109分にピッチを去っています。しかし今回のチームは、最強のキッカー5人と細心のマネジメントによって難局を乗り越えました。

まずは「最強のキッカー」について説明しましょう。PKの経験が豊富なハリー・ケインは、過去85本のうち74本を決めており、成功率は87.1%。対してスイス戦の5人は、全員がキャプテンを上回っています。コール・パルマーは12本、ベリンガムは5本、アーノルドは4本をすべて決めており、成功率100%。イヴァン・トニーは41本のうち38本が成功で、92.7%です。

最も低いサカでも16本中14本を決めており、成功率87.5%でハリー・ケインに僅差の勝利。さらにGKは、ワールドカップとユーロで10本中3本を止めていたピックフォードです。カルロス・バッカ、ベロッティ、ジョルジーニョを絶望させた守護神は、ペットボトルに書かれたカンペのアカンジの欄に「Dive left」とあるのを確認し、4人めの犠牲者を生み出しました。

ピックフォードのPKセーブ4本は、1990年からの22年でセーブしたイングランド代表GKのトータル2本の倍になります。キッカーとGKが史上最強だったチームは、マネジメントも的確でした。PK戦の前に全員で集まり、騒然としていたスイスに対して、サウスゲート監督はピッチにいた11人だけに指示を出していました。

前回のユーロで悔しい思いをした指揮官は、ジョン・ストーンズ、カイル・ウォーカー、デクラン・ライス、エゼ、ルーク・ショーの「蹴らない5人」をキッカーとペアにして、モチベーションと集中力を高めるようオーダーしたそうです。できることを尽くしたイングランドの唯一のミスは、シェアが蹴る際にピックフォードがカンペに背いたことでした。

ペットボトルのコメントは、「右にフェイクして左にダイブ」。意地があったのか、直感的に違うと思ったのか、左にフェイクして右にダイブしたGKは、セーブするチャンスを逃しました。オランダ戦で同じシーンがあれば、カンペの通りに振る舞ってほしいと願うのは、私だけではないでしょう。

かくして苦手だったPK戦を克服したチームは、悲願のユーロ制覇を果たせるでしょうか。最高のシナリオは、難敵オランダと全勝のスペインに完勝して、誰もが認める欧州最強。最悪は…「決勝がまたもやPK戦となり、カタールで打ち上げたハリー・ケインと4年前に肩を落としたサカが失敗」でしょう。どうなるにせよ、今の盛り上がりが冷えない結末を期待しております。


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