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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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最悪の判断と最高の一撃…劇的ゴールで決勝進出のイングランド、評論家が語る「優勝できる理由」とは?

ガレス・サウスゲート監督が勝負に出たのは81分。大会3ゴールのハリー・ケインと、プレミアリーグでMVPに輝いたフィル・フォーデンを諦め、オリー・ワトキンスとコール・パルマーを投入しました。「90分で終わらせたかった。3試合連続で延長戦にしたくなかった」。自らの采配をこう振り返った指揮官は、目の前のオランダではなく、最後のスペインを見ていたようです。

ノックアウトステージをノーゴールで終えたポルトガルのロベルト・マルティネス監督は、クリスティアーノ・ロナウドを代えられなかったのが敗因であり、限界といわれました。対して絶対的エースを3試合連続で代えたイングランドの指揮官は、優秀な戦術家とは評されなくても、素晴らしい勝負師と絶賛される資格はあるでしょう。

ユーロ2024準決勝、イングランドVSオランダ。シャビ・シモンズのスーパーミドルで先制された後、ハリー・ケインのPKで追いついたチームは、ハーフタイムまで優位を築きながら、クーマンの交代策で押し返されました。2人のアタッカ―が投入されるまで、後半のシュート数は0対4。残り9分の最終盤は、戦況を見守っていたファンの多くが、延長戦を意識し始めた時間帯でした。

後方からロングボールを前線に当てて、左右に展開するしかなかったオランダに対して、イングランドは最終ラインのビルドアップから丁寧につなごうとしています。ギアがトップに上がらなかったのは、デクラン・ライス、メイヌー、ベリンガムのポジションが低く、フロントの3人にいい形でつなげなかったからです。

84分、オランダが速攻。ラインデルスのクロスは、ヴェフホルストをケアしていたグエイが落ち着いてカットしました。87分のFKは、ファン・ダイクに着いていたジョン・ストーンズがクリア。この時間までは、均衡が崩れるとしたらクーマンの勝利と思っていた人も多いでしょう。白いシャツが集まるスタンドは、難しい表情と腕組みが目に付きます。

88分、右サイドに寄っていたチームの打開策は、サカのサイドチェンジでした。足元に収めたルーク・ショーのまわりには誰もおらず、グラウンダー以外に選択肢はありません。素晴らしいボールがニアに入るも、オリー・ワトキンスは触れず、トラップしたコール・パルマーのシュートは左に逸れてしまいました。

そして90分、センターサークル付近でキープしたデクラン・ライスが、フェールマンとガクポの間を通すパスをフィード。右で待っていたメイヌーのトラップが流れると、前方にいたコール・パルマ―がフォローしました。24番が左足だけで4回タッチして前を向くと、オリー・ワトキンスがボックス右に走り込んでいました。

デ・フライを背中で制して足元に収めたストライカーは、すぐに打つと決めていたのでしょう。ここまで冷静に守り続けていたCBは、致命的なミスを犯してしまいました。角度が厳しいエリアでの守備の鉄則は、ファーを切ってGKの正面に打たせること。絶対にやってはいけないのは足を出すことで、股間を抜かれてファーに決められたら、GKの責任ではありません。

最悪のジャッジと最高のシュートが重なった次の瞬間、ボールはフェルブルッケンの指先を抜けて、左のサイドネットに突き刺さりました。「劇的な決勝ゴール、サウスゲートの采配的中」と盛り上げたくなる展開です。私も昨日、そう書きました。しかし実際は、14分プレイしたオリー・ワトキンスのボールタッチは4回しかありませんでした。

冷静にスタッツを見ると、「交代策は空回り。あの一瞬以外は」という評価が妥当と気づかされます。試合が終わり、SNSや現地メディアをチェックすると、予想通りの言葉が乱れ飛んでいました。サウスゲートに罵声を浴びせていたイングランド人のサポーターとジャーナリストが、前言完全撤回でわがチームを称えています。

彼らの是々非々、手のひらクルクルは大好きです。日本代表なら、「選手の手柄。森保は変わらず最悪」と主張するファンも多かったのではないでしょうか。オランダ戦のイングランドも、そう評価しても納得できる内容でした。しかし、ファイナル進出という結果を出した監督は、リスペクトされるべきと思います。彼はそのために、日頃の非難に耐え続けているのですから。

かくしてサウスゲート監督は、2大会連続でユーロのファイナル進出。母国以外で開催される決勝を初めて戦うイングランド代表監督になりました。決戦の相手は、2008年からユーロとワールドカップで3連覇という偉業を成し遂げたスペイン。ラストマッチで勝つか負けるかで、評価は大きく変わります。

スペインが勝てば、ユーロ史上初となる全勝優勝。ここまでの6試合のゴール数は13対7、失点は3対4で、いずれもルイス・デ・ラ・フエンテ率いる強者が優勢です。イングランドのメディアを見ると、多くのジャーナリストと評論家が、自分たちが勝つといい出しています。たとえば、アラン・シアラー。「BBC」のレポートのタイトルに、思わず笑ってしまいました。

Why England’s story can have a different ending this time(イングランドの物語が、今度こそ違う結末になる可能性がある理由)」

そこで書かれている「理由」は、「ガレスと選手たちは、自分たちを信じている」「ノックアウトの3試合すべてで逆転勝利を成し遂げた気概」「ゲームの終盤に決定的なゴールを決めた素晴らしい選手たち」「プレッシャーの下で決めたパーフェクトなPK」…相手チームの話が出てこない壮大なポエムに自ら照れたのか、「少しは幸運もあった」とフォローしています。

「イングランドを過小評価してはいけない」「強いチームスピリッツがある」。どの記事を読んでも、スタッツやロジックを吹き飛ばす勢いがあるのですが、逆にいえば、「勢いがあるから勝つのである」といっているだけです。盛り上がりという点でも、16歳がスーパーショットを決めたあちらは負けていないと思われるのですが…。

何かありますかね?イングランドが勝つ理由。「サウスゲートは日本代表に負けていない」ぐらいしか思い浮かびません。とはいえ日曜日は、悲願の優勝をめざすチームを全力で応援します。ロドリが素晴らしいロングフィードを通したら、拍手しちゃうかもしれませんが。ファイナルのMVP予想は、コビー・メイヌーの単勝1点でいかせていただきます。とにかく、がんばれ!


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