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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

補強ゼロのリヴァプールが動かない理由は?「ユーロの影響」「クロップの遺産」「スロットの志向」

「今までとは違う夏だ。すべてが少しスローになった。マーケットの状況と新たなルールをクラブが意識するようになり、ビジネスが少しずつデリケートになっている。われわれは、それに適応してきた。成果を出し、改善しようとしている」

ミケル・アルテタ監督の言葉に、うなずく人も多いのではないでしょうか。プレミアリーグ2024-25シーズンの開幕まで5週間となりましたが、マーケットで積極的に動いているのは、マンチェスター・ユナイテッドとチェルシーのみ。リヴァプールとマンチェスター・シティは沈黙を守っており、アーセナルとトッテナムは未だレギュラークラスを手に入れていません。

完全移籍にスイッチしたダヴィド・ラヤと、ローン延長のティモ・ヴェルナーを除くと、ビッグ6に加わった即戦力はチェルシーの2人とマン・ユナイテッドのザークツィーだけ。フラムにいたアダラビオヨはフリーで、フィーが発生したのは3000万ポンドのデューズバリー=ホールと3580万ポンドのザークツィーのみです。プレミアリーグ全体を見渡しても、最高額はハマーズがウルヴスから獲ったマックス・キルマンの4000万ポンドです。

アーセナルの指揮官が指摘した「マーケットの状況」は、ユーロ2024に出場した選手の不在で、新たなルールはPSRを指しているのでしょう。年度末となる6月はPSR違反を怖れて動けず、いざスタートとなった7月はビッグイベントの真っ最中。強豪国のスターと、コンタクトが取れない状況が続いていました。

とはいえ、ユーロが幕を閉じた後も、ビッグディールが話題になる気配はありません。マンチェスター・ユナイテッドが獲得に近づいているデ・リフト、アーセナルがディール成立間近といわれるカラフィオーリは、いずれも5000万ポンド以下。7000万ポンド以上といわれていた選手は、メディアの見出しから消えています。

アストン・ヴィラがエヴァートンから獲得と報じられたアマドゥ・オナナの5000万ポンドが、夏のマーケットの最高額となる可能性もゼロではありません。ビッグ6は、なぜ動かないのか。とりわけ気になるのは、指揮官もディレクターも代わったリヴァプールの静寂です。地元メディア「リヴァプールエコー」の記者たちは、未曽有のネタ枯れで苦労しているようです。

「ガラタサライのFWユルマズとナポリのスター、クヴァラツヘリアが加わった夢のラインナップ」「セップ・ファン・デン・ベルフが退団希望」…記事をチェックしてみると、話題性が弱いネタやマニアックな見出しが多く、コアなサポーター向けに見えます。現在、確実に動いているといえるのは、チェルシーのアカデミーを去る15歳のングモハの獲得ぐらいです。

「ケヴィン・デブライネ、モハメド・サラー、ジャマール・ムシアラは、チェルシーから去ってワールドクラスのスーパースターになった。今、最注目のひとりであるマイケル・オリースもチームを離れている。他にもデクラン・ライス、ナタン・アケ、タリク・ランプティなどがいる」
「チェルシーのファンは、ングモハを手離すとなれば、激怒するだろう」

興味深い話ではあるものの、答え合わせは早くても2年後で、インパクトは微妙です。ファブリツィオ・ロマーノさんは「クリスタル・パレスのマルク・グエイへの関心は確認できており、既に動いている可能性がある」といっていますが、6500万ポンドを超えるとなると、交渉は難航するでしょう。オリースを失ったクラブは、ユーロで活躍したCBの移籍には相当抵抗するはずです。

ヴィルジル・ファン・ダイクの「将来について、現時点ではわからない」という発言を「移籍の可能性あり」と読み替えるなど、苦心している記者たちの努力は当面報われそうにありません。それにしても、レッズはなぜ静かなのか。体制が変わったときは、前任者との違いを出そうとがんばるものですが…。

最大の理由は、ユルゲン・クロップ前監督のバトンタッチが秀逸だったからでしょう。「リヴァプール2.0」と称した近年のチーム改革によって、既にレギュラークラスの若手が揃っています。23歳以下の主力を並べてみると、クアンサー、ブラッドリー、カーティス・ジョーンズ、ショボスライ、フラーフェンベルフ、エリオット。来季はさらに、バイチェティッチが戻ってきます

クロップがいる間に弱点補強も終えており、慌てて戦力を増やさなければならないポジションはありません。ツィミカス、遠藤航、バイチェティッチが不安なら、左SBとアンカーを足せばOK。バイアウト条項が1億ポンド超といわれるベンフィカのジョァン・ネヴェスは高すぎ、ダニ・オルモを5000万ポンドで獲れるのは5日以内といわれればスルーでしょう。

もうひとつ理由として挙げられるのは、クラブがここ数年、積極的に取り組んできた若手の発掘が実を結びそうになっていること。スコットランド、北アイルランド、ウェールズで勧誘した選手も多く、カイデ・ゴードン、ベン・ドーク、ドハーティー、マコーネル、クラーク、クーマス、ジェイデン・ダンズ、ニョニといったティーンエイジャーが育ってきています

アカデミーのディレクター、アレックス・インゲルソープとコーチたちは、プロフットボーラーが陥りがちなトラブルの回避策から、リヴァプールの文化と社会的な影響力、ヒルズボロとヘイゼルの悲劇などの歴史、レッズサポーターが保守党をいじるチャントを好む理由までを教えるプログラムを開発し、多くの原石の成長を支えているそうです。

1年前にカイセドやラヴィアを獲らず、効率のいい補強で優勝争いに戻ってきたリヴァプールは、現有戦力をじっくり評価してから補強の是非を検討する余裕があるのでしょう。そして最後の理由は、新監督のキャッチフレーズが「似ているけど、ちょっと違う」であること。自らのスタイルを前任者に似ていると認める新指揮官は、最小限の変化による船出を志向しているようです。

「彼らの後を継ぐのは大変だ(They are big shoes to fill)。しかしそれは、勝利のカルチャーがあるスカッドを引き継げるということでもある。私はいいスカッドを得た。素晴らしい選手たちとともに働き、何かを勝ち取るチャンスに恵まれたといえる。今のリバプールには、可能性がある」(アルネ・スロット)


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