采配が空回りし続けるマンチェスター・ユナイテッド。決断するなら今が最後のチャンス⁉
ジルーの落としをボレーで突き刺したウォルコット。おそらくゴールが決まっていなければラストプレーだったエジルのFKを、ここしかないというコースに流し込んだウェルベックの絶妙なヘディング。クリシーの冷静なグラウンダーに左足を振り抜いたイヘアナチョの文句なしの一撃。エリクセンをジョー・ハートと1対1にさせたラメラの完璧なスルーパス。終盤の見事なプレイは、スタジアムを盛り上げます。デマライ・グレイとキングでドローに持ち込もうとしたラニエリ監督の必死の采配も見ごたえがありました。
TOP5で唯一采配が空回りし、サポーターのため息を誘ったのは、サンダーランドに静かに敗れたマンチェスター・ユナイテッドでした。かつては土壇場での決勝ゴールが多かったチームは、今季プレミアリーグで2ゴールのエレーラをベンチに残し、この試合がプレミアリーグデビューとなったウィル・キーンが何もできない9分を過ごしてタイムアップの笛を聞きました。3つの2-1のうち、この試合だけが白けた雰囲気が漂う終わり方になったのは、決してたまたまではないでしょう。マンチェスター・ユナイテッドは、ファン・ハール監督の度重なる不可解な采配に選手が反応しなくなっているのだと思われます。
2015年9月12日、オールド・トラフォード、マンチェスター・ユナイテッドVSリヴァプール。86分にシュクルテルをあっさりかわして決めたマルシアルの一撃は、「19歳の天才的なアタッカーがプレミアリーグで初めて決めた衝撃のゴール」として記憶している方が多いでしょう。選手個人を見れば、この表現は妥当なのですが、マンチェスター・ユナイテッドというチームを引いた位置から見ると、開幕から5試合めのこのゴールには別な形容の仕方があります。「マンチェスター・ユナイテッドのプレミアリーグ2015-16シーズンで、途中出場の選手が決めた唯一のゴール」。公式戦すべてを見渡しても、これ以外にはクラブ・ブルッヘとのCLプレーオフ第一戦で、デパイのクロスを叩き込んだフェライニのヘッドしかありません。ファン・ペルシ、チチャリート、ファルカオ、ディ・マリアが去り、体脂肪を落とすと同時に筋肉までそがれたチームには、試合の途中から入って決定的な仕事をする選手がいなくなってしまったのです。
「400億円以上の補強をしたのに強くなっていない」と批判されるチームの問題は、獲り方ではなく出し方のほうにあったのだと思います。マルシアルとデパイがプレミアリーグでどれだけやれるかわからず、ジェームズ・ウィルソンにもOKのハンコは捺せず、リンガードが頭角を現す前だった9月、ファン・ハール監督はどうやってゴールを奪おうと考えていたのでしょうか。ルーニーがいなくなったとき、最終盤にストライカーを足したくなったとき、今季のチームにはオプションがありません。それでも守備は堅かった前半戦は、7節に5勝1分1敗で首位に立ち、13節には8勝3分2敗で2位でした。シュナイデルラン、シュヴァインシュタイガー、キャリックのローテーションがうまくまわっており、ルーニーとデパイがゴールを奪えない潜在的な危機を、マルシアルとマタが隠してくれていたのです。凋落のきっかけとなったのは、13節のワトフォード戦に競り勝った直後の11月25日、勝てばグループステージ突破を決めていたチャンピオンズリーグのPSV戦です。
チームの中心だったマタをラスト5分まで起用しなかったファン・ハール監督は、最終節のヴォルフスブルク戦に勝たないと3位に転落するという状況に追い込まれました。PSV戦後のプレミアリーグ2試合をドローと停滞したマンチェスター・ユナイテッドが決定的なダメージを受けたのは、3-2で敗れたヴォルフスブルク戦です。69分、直前にイージーなパスミスが2つあったとはいえ、マタに代わってプレミアリーグにも出たことがなかったニック・パウエルという起用に、納得した選手やサポーターはいなかったのではないでしょうか。これ以降のマンチェスター・ユナイテッドは、攻守とも目に見えて機能しなくなりました。
CL終了後のプレミアリーグ11試合を3勝3分5敗、得点13、失点14。先制した試合で追いつかれなかったのは、枠内シュート1本で1-0と辛勝したリヴァプール戦と、相手に覇気がなかったストーク戦のみ。先にゴールを奪われた試合は5戦全敗です。守備陣はうまくゲームを畳めず、終盤追いつくための打ち手がまったくはまっていないのが、今のマンチェスター・ユナイテッドです。こと攻撃に関しては、負傷者の多さは理由にならないでしょう。アシュリー・ヤング、エレーラ、デパイ、アンドレアス・ペレイラをベンチに残して敗れた試合が多いのですから。ファン・ハール監督には、この状況を打開する策はもはやないとしか思えません。今さらながら、昨季ゴールした試合は7勝1分1敗だったファン・ペルシか、今季のブンデスリーガで17試合13ゴールと爆発しているチチャリートのいずれかひとりは残すべきではなかったかと、悔やまれてなりません。
勝てなくなり、指揮官の采配に迷いが見られ、チームが動かなくなり、未来が示せない。この状況に立ったクラブは、そのほとんどが監督を解任するでしょう。マンチェスター・シティの足踏みに助けられ、プレミアリーグ4位に勝ち点6差でしがみついている今ならぎりぎり間に合う可能性があり、FAカップかヨーロッパリーグを勝てればそちらから欧州へのチケットを手に入れられます。しかし、現状を改善できなければ、チャンピオンズリーグどころかプレミアリーグ6位にも入れず、モイーズ監督以下のポジションでシーズンを終えてしまうでしょう。マンチェスター・ユナイテッドは、ファン・ハール監督にまかせている理由を明確にしなければなりません。「まだチャンスが残っているからクビにはできない…」という程度の理由しかないのであれば、適切な手を講じなければならず、これ以上引っ張れば、来季は再度欧州で戦えなくなることを甘受することになるでしょう。
われわれは、信じられる限り信じ、充分すぎるほど我慢もしたのではないでしょうか。ファン・ハール監督には、昨季4位に食い込んでくれたことを感謝しており、シーズン途中のリタイアという形で去ってほしくない名将だという思いもあるものの、クラブの未来のほうが重要です。采配が空回りし、今まではデ・ヘアにおんぶにだっこだったことを再認識させられた2-1の敗戦は、クラブが大きな決断をしたとしても納得の結果だったのではないかと思います。
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文章から悲痛さが伝わってくる、心に刺さるコラムです。
僕はグーナーですが、ファンハールの箇所をヴェンゲルに置き換えると
とても耐えれそうにありません。
もちろん状況や条件はまるで違うのですが、それでもつらいです。
拍手で送り出される監督なんて、ほんの一握りなのだなと、
プロスポーツの厳しさを感じました
データにして出されたら強烈なものがありますね。監督、選手、フロントの三者が負の掛け算した結果がCL敗退、以降3勝3分5敗っていう悲惨な成績なんだと思います。ずっとモウリーニョの就任をのぞんでましたが、今のこの現状を顧みるとあまり効果はないのかもと考えてしまいます。まず、第一にするべきは監督選手フロントが一つの共有したビジョンを持ち、同じ方向向いて歩いていくことなんじゃないかなと。そうした観点からは監督はギグスの方が良いのかもしれません。フロントにはリオやスコールズを入閣させて、チーム強化も市場ばかり見ずに優秀な人材の多いU21のチームに目を向ける。ユナイテッド程の規模のクラブの行うアプローチとしてはあまりに地味ですが、本当に1からやり直した方が良いのでは?と提案したくなるような惨状です今のこのクラブは。
ファンハールに不満があるでしょうけど
モイーズ迎えたときの選手、コーチ陣の上から目線の報道聞く限り正直誰が来ても厳しいと思います。もう一度一から作り直すか、スペシャルワンという劇薬連れてきてどうなるかを見守るか…
またテベスがいた頃のようにロスタイムに強いユナイテッドが戻ってくることを祈ってます。
体脂肪を落とすと同時に筋肉までそがれたチーム
非情に的確な表現だと思いました。
昨季、4-1-4-1でシティやスパーズを倒したときは「来年はリーグ優勝だ!」と期待に胸を膨らませていましたが……どこでこうなってしまったのでしょうか。
長期離脱のショー、バレンシアをはじめとした怪我人ばかりのSBという台所事情には同情の余地はありましたが、結局1月に動きませんでしたし……。
この場をお借りして何度か書かせてもらっているのですが、ファーガソン退任後のマンユナイテッドはクラブ運営の計画性が欠如しています。現在における状況を作り出してしまった責任はファンハール監督にありますが、元々ファンハールにどんなチームを作らせたかったのか、もっと言ってしまうとモイーズ前監督に何を期待していたのかがよくわかりません。
マンユナイテッドをけなすアンチの人達が言うように大金をつぎ込むならモイーズ時代にやらせればよかったという意見にも頷けるところはあります。といってもただモイーズを続投させていればよかったというのではなく、これだけの大金を掛けるのならファンハール後も見据えているはずだよねという思いからです。これで後任の目途が立っていないとか言ったらギャグでしかありません。
ファンハール体制になってモイーズ体制から一つだけ改善したなと思うのは、監督を批判する声が表向きには聞こえてこないことです。ファーガソン元監督時代は内部の情報が洩れることを非常に嫌っていました。モイーズ時代はダダ漏れだったことに呆れていたのですが、そこだけはもとのマンユナイテッドに戻りましたね。次の監督にはファーガソン時代に見せていた粘り強さも取り戻してもらいたいところですが…。