偏愛的プレミアリーグ見聞録

20年以上、クラブの顔として君臨したサー・アレックス・ファーガソンやアーセン・ヴェンゲルほどではないかもしれませんが、ユルゲン・クロップという偉大な存在の後釜は、名誉とプレッシャーを同時に味わう難易度の高いポジションです。今季限りの退任が発表されると同時に、現地メディアは次の監督を話題にしています。

来季のプレミアリーグで、アンフィールドのピッチサイドに立つのは誰なのか。「BBC」で予想記事を書いたのはアンディ・クライヤー と ティモシー・アブラハムの両氏で、「アスレティック」はアンディ・ジョーンズ、トム・ハリス、リアム・サームの3名。「リヴァプール・エコー」のキーファー・マクドナルド記者も、4人の名前を挙げています。

ジローナを優勝争いに導いたミチェル、サウジアラビアで苦しんでいるスティーヴン・ジェラード、インテルでコッパ・イタリアを連覇したシモーネ・インザーギ、ドイツ代表を率いてユーロ2024に臨むユリアン・ナーゲルスマン、ブレントフォードで評価を高めているトーマス・フランク…。ヴィラをCLに連れて行こうとしているウナイ・エメリも候補とされています。

ここからは、3つのメディアがすべて名指しした2人を紹介しましょう。本命と見られているのは、バイエル・レヴァークーゼンを率いるシャビ・アロンソ。ブンデスリーガで15勝3分という快進撃を続け、12連覇をめざすバイエルンに4ポイント差の首位に立つ指揮官は、「今のレッズの選手たちを、最もうまく動かせそうな監督」といっても過言ではないでしょう。

ジェラルド・セオアネ解任の後を受けた昨季は、守備力を高めるためだった3バックは、スピーディーなトランジションを実現するための装置に進化しています。基本は3-4-2-1ながら、相手の陣形によっては4バックにシフトする戦い方は、クロップよりも高い流動性とハイテンポなパスワークが特徴です。

ピッチに入って手本を示す42歳の若き指揮官が適任と思われるのは、前線と中盤にユーティリティが高い選手が多いからです。センターでもウイングでもプレイできるルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェス、ジョッタ、サラー、中盤ならどこでもこなせるマック・アリスター。偽SBとして前線を動かすアーノルドも、彼の戦術にフィットしそうです。

「リヴァプール・エコー」の記者は、「現役時代にプレイしたリヴァプール、レアル・マドリード、バイエルンから誘いがあったら、退団を容認される」というクラブとの口頭合意の存在を話題にしています。本人は、「次のステップを考える時期ではない。私は今、素晴らしい場所にいる」といっていますが、正式発表があるまでは有力候補の座から降りられないでしょう。

シャビ・アロンソの対抗馬と目されているのは、ブライトンをヨーロッパリーグに導いたロベルト・デ・ゼルビです。2022年9月の就任以降、プレミアリーグとFAカップのリヴァプール戦は2勝2分と負け知らず。リスク上等で相手を引き付けてつなぐビルドアップ、速いパスワークによるポゼッション、スペースへの縦パスで一気にスピードUPする直線的なアタックを武器に、ビッグ6を次々と撃破しています。

ペップ・グアルディオラは、「過去20年で最も影響力のある監督のひとり。まさに唯一無二の存在」と激賞。サポーターのテンションを高める攻撃的なスタイルもさることながら、エンシーソ、ブオナノッテ、ヒンシェルウッド、エヴァン・ファーガソンら10代の選手を磨き上げた手腕も大きな魅力です。

プレミアリーグとチャンピオンズリーグを制覇した名将が去るというニュースに心を揺さぶられ、本日2本めの記事を書けるようになるまで時間がかかってしまいました。しばらく経てば、新監督の予想や「誰がいい」といった話を楽しめるようになるでしょう。今いえるのは、シャビ・アロンソもデ・ゼルビも、決まったら盛り上がる存在であるということだけです。（ユルゲン・クロップ　写真著作者/Mehdi Bolourian）