偏愛的プレミアリーグ見聞録

ガレス・サウスゲートの後を継ぐイングランド代表監督が決まったようです。予想はしていなかったものの、いわれてみれば納得のトーマス・トゥヘル。バイエルンのブンデスリーガの連覇を11で止めてしまい、6月に退任した後、マンチェスター・ユナイテッドとの交渉も条件の折り合いがつかなかったと報じられました。

「アスレティック」のデヴィッド・オーンスタイン記者によると、FAはペップ・グアルディオラを称賛し続けており、トゥヘル監督のミッションはアメリカ、カナダ、メキシコの共同開催となるFIFAワールドカップ26となるとのこと。同意に至ったばかりの契約には、優勝のボーナスについても記載されているそうです。

あらためて、51歳の新監督のキャリアを紹介しましょう。現役時代はDFで、膝の負傷をきっかけに24歳で引退。26歳からの10年は、シュツットガルト、アウグスブルクでユース年代の育成に携わっていました。初めて指揮を執ったのは2009-10シーズンのマインツで、クロップの後を継いだヨルン・アンデルセン監督の解任に伴う内部昇格でした。

マインツでの最高順位はブンデスリーガ5位。その後ドルトムントは、ユルゲン・クロップと同じルートです。2015-16シーズンをリーグ2位で終え、2016-17シーズンにはDFBポカールを制したのですが、ヴァツケCEOと揉めてしまい、2シーズンで解任の憂き目に遭っています。1年の充電期間を経て、パリ・サンジェルマンと契約したのは2018年5月でした。

余剰戦力の整理と弱点補強を敢行した最初のシーズンは、リーグアン制覇に留まりましたが、ネイマール、カバーニ、ムバッペ、イカルディ、ディ・マリアを揃えた2年めは3冠達成。クラブ史上初のファイナル進出となったチャンピオンズリーグは、バイエルンに0-1の惜敗でした。2020年12月の解任の理由は、レオナルドSDとの対立と伝えられています。

プレミアリーグ参入は、パリを離れた直後の2021年1月。年末からのリーグ戦で2勝1分5敗と不振に陥っていたチームは、トゥヘル就任以来の10試合を無敗で駆け抜けています。9位に沈んでいたチームをTOP4に引き上げたことより、チャンピオンズリーグ制覇を称賛すべきでしょう。準決勝でレアル・マドリードを1-1、2-0で下すと、ペップとの決勝を1-0で勝ち切りました。

ビッグイヤーを獲得してから、1年4ヵ月でウェストロンドンを追われたのは、トッド・ベーリーの新体制でチーム編成への関与を求められた際に、背を向けたからといわれています。どこにいっても与えられた戦力を活かし切る戦術家で、毎日練習のメニューを変えるアイデアマンとしても評価されながら、スーツを着た人間たちとのリレーション構築は得意ではないようです。

バイエルンではうまくいかなかったものの、チェルシーの好印象が強いイングランドの評論家たちは、代表監督就任を歓迎しています。「BBC」のニザール・キンセラ記者の評価ポイントは「カリスマと実績」。リヴァプールOBのスティーブン・ウォーノックは「明確なアイデンティティ」を称え、チェルシーOBのパット・ネヴィンは「適応力に感銘を受けた」といっています。

ドイツメディア「ビルト」でフットボール部門の責任者を務めるクリスティアン・ファルクは、「トゥヘル監督は扱いやすい人物ではない。ドイツでは不評もあるが、イングランド人は彼を受け入れている。バイエルンのロッカールームにいるときは、いつもイングランドの話をしていた」と語っています。FAからのオファーは、第一希望だったのではないでしょうか。

ペップ率いる最強チームを夢見ていた者としては、少々残念ではありますが、トゥヘルなら否応なく盛り上がります。プレミアリーグの実績に囚われない適材適所で、機能的なフットボールを見せてくれるのではないでしょうか。正式発表は今日、ウェンブリーだそうです。「驚異的な成功か、完全な失敗か。中間はないだろう」というのはパット・ネヴィン。どちらに転ぶのか…？