偏愛的プレミアリーグ見聞録

2024-25シーズンのノッティンガム・フォレストの躍進は、ヌーノ・エスピーリト・サント監督の手腕なくして実現しえなかったでしょう。プレミアリーグを19勝8分11敗で終え、7位フィニッシュ。カンファレンスリーグの出場権は、FAカップを制したクリスタル・パレスの「マルチクラブ所有」のルール抵触によって、ヨーロッパリーグにアップグレードとなりました。

サポーターの絶大な支持を得たポルトガル人監督は、エヴァンゲロス・マリナキスオーナーの全面的なサポートを得て、2025-26シーズンに向かうはずでした。新たな体制で始動してから7週間。クラブ史に残る快挙を達成した監督は、「今季のプレミアリーグで最初に解任される監督」の本命に推されています。イースト・ミッドランズの古豪に何が起こったのでしょうか？

「チームの準備、プランニング、スカッド…われわれは世界で最も過酷なリーグでプレイするのに、理想からほど遠い状態にあることを憂慮している。プランは実現せず、準備も理想的とはいえない。スカッドがどうなるかわからなかったため、絆を深める機会がなかった。ローン移籍を覚悟している選手たちがいるのは、大きな問題だ」

ヌーノ・エスピーリト・サント監督が、チームは不安を抱えていると率直に語ったのは、開幕直前の8月15日でした。ノッティンガム・フォレストは、指揮官の言葉で目覚めたように、その後の1週間で4人の新戦力を獲得しました。ハッチンソン、ジェームズ・マカティー、カリムエンド、ドゥグラス・ルイス。いずれもインターナショナルクラスの即戦力です。

ブレントフォードとの開幕戦は、エースのクリス・ウッドの2発と、ボローニャから加わったダン・エンドイェの初ゴールで3‐1快勝。外からは、順風満帆に見えます。監督が次なるアラームを鳴らしたのは22日。クリスタル・パレス戦を控えたプレスカンファレンスで、「マリナキスオーナーとの関係が変わってしまった」と漏らしたのです。

「オーナーとは、いい関係だった。昨シーズンはほぼ毎日、親密に話していた。しかし今は、あまりうまくいっていない。私は常に対話、発信、意見交換は有効と信じてきた。チームとシーズンに懸念があれば、なおさらだ。ところが、関係は変わってしまった。以前ほど親密ではなく、毎日一緒にいるわけでもない。よくないね。全員が一緒にいるべきだが、現実はそうではない」

仕事を続けられるかと問われると、「そうなることを願っているが、わからない」。クラブでの立場が危うくなっているのかという質問には、「火のないところに煙は立たず。物事の成り行きはわかっているつもりだ。でも、私は自分の仕事をするためにここにいる」と答えています。ネガティブな発言の意図を探ると、問題はシンプルかつシビアで、解任は不可避のようです。

「アスレティック」のダニエル・テイラー記者は、事の発端は7月8日に発表された人事だったと振り返っています、グローバル・ヘッド・オブ・フットボールに就任したエドゥ・ガスパールとヌーノ・エスピーリト・サントは、極めて個人的な理由によって険悪な関係になっており、もはや修復不可能だそうです。

「フォレストのファンにとって最大の懸念点は、現状では2人の和解は難しいということ。ヌーノは攻撃的で、極論を繰り返す。エドゥはクラブのトレーニング施設に足を運ばない。この問題は2ヵ月の間、ずっとくすぶり続けている。クラブで最も重要な2人が口もきかない状況が、マリナキスを困難な立場に追い込んでいるのはいうまでもない」（ダニエル・テイラー）

このバトルは、何らかの幸運がない限りはエドゥの勝利で終わるはずです。ノッティンガム・フォレストは、アーセナルを復活させたビッグネームの招聘を「誇りに思う」と表現しており、エドゥはマリナキスとも関係が深い親友のキア・ジュラブチアンをクラブに迎え入れています。先週、獲得したばかりのハッチンソンとドゥグラス・ルイスの代理人はジュラブチアンです。

片やヌーノ監督の代理人を務めるホルヘ・メンデスは、1年前にエリック・ダ・シルヴァ・モレイラをザンクト・パウリから入団させて以来、フォレストの補強に一切関与していません。自分に距離を取り始めたオーナーを見て状況を察した指揮官が、「物事の成り行きはわかっている」といったのは、エドゥによって追放されるのを覚悟しているからでしょう。

週末のクリスタル・パレス戦は、1-1のドロー。試合前のインタビューで「退団を検討しているのか」と問われた指揮官は「ナンセンス。意味をなさない」と否定し、マリナキスオーナーとエドゥ・ガスパールとの3人で会談すると明言しました。犬猿の仲といわれる2人が、「オーナーを支援したい」という思いで一致すれば、最悪の事態だけは回避できるかもしれません。

順調にチームを強化している功労者の解任は、あまりにも残念な結末です。バトルの終結が難しいとしても、せめて停戦にはできないのでしょうか。そのために必要な最初の条件は、彼が口をつぐむことなのでしょう。「火のないところに煙は立たず」の一端は自身にあるのをわかっているはずの監督は、「キジも鳴かずば撃たれまい」と説いてもうなずきそうにないのですが…。