2025.10.19 監督トピックス
イラオラもグラスナーも、最悪のスタートだった。39日で解任となったポステコグルーに思うこと。

チェルシー戦を控えたプレスカンファレンスで、アンジェ・ポステコグルーが行ったプレゼンテーションは、「切羽詰まった人間の開き直り」「自爆寸前の決死のエンタメ」と受け取られたようです。独演会に参加した記者たちは、自虐と毒舌と自己肯定のリフレインに困惑し、「こんな話をしてもオーナーとサポーターは納得しないだろう」といっています。
「無味乾燥な記者会見ばかりで、監督の発言が引用に値しなくなった時代に、オーストラリア人の発言は話題性たっぷりだった。われわれメディアは、こんな午後をもっと味わいたいものだ。しかし結果に苦しむ監督と失望したファンという背景を見ると、奇妙な戦略といわざるを得ない。フォレストのファンがトッテナム・ホットスパーに関する4分の演説を聞きたいと思うだろうか?」(ジョン・パーシー/テレグラフ)
「ポステコグルーのプレゼンテーションにおいて、スパーズ時代をどのように語るかより重要なのは、彼の情熱的なレトリックがフォレストのサポーター、そしてオーナーのエヴァンゲロス・マリナキスを納得させられるかどうかだ。結果が劇的に改善しなくても、彼を支持し続けたいと思えるかどうかにかかっている」(ダン・キルパトリック/アスレティック)
おそらく記者と指揮官は、目的を共有できていなかったのでしょう。「続けたい者のアピール」と捉えれば、「トーンを誤っている」「不要な内容」といった記者たちの指摘は妥当です。しかし、「もはや去りゆくのみと覚悟した者の渾身のメッセージ」なら、笑いと説得力を兼ね揃えた秀逸なスピーチと称えることができるでしょう。
「プレミアリーグで17位という話ばかり聞かされるが、トロフィーを獲得した。『Spursy』(=大事な場面で勝てずにタイトルを獲り逃すこと)というレッテルを捨て去った。チャンピオンズリーグは、報酬と優れた選手を獲得する機会をもたらす」と主張した元監督は、こんな言い回しでクラブもメディアもネガティブな事実のみを強調すると抗議しています。
「どういうわけか、あの年は記録から消えてしまった。スパーズは、最初の10試合を除外して解任の理由を決めたようだ。こっち(ノッティンガム・フォレスト)では、最初の10試合が重要だとされているけど」。スパーズの初年度にプレミアリーグで5位に食い込んだことと、解任を伝えるクラブのアナウンスに「直近66試合で78ポイント」と書かれたことに突っ込んでいます。
開幕から8勝2分というロケットスタートを決めても、クビにしたいクラブに数字を消され、就任から2分5敗という厳しい船出となると解任の理由にされてしまう…。崖っぷちに立つ人物の嘆きを聞くと、フットボールの監督はあまりにも理不尽な職業と思い知らされます。今となっては、メディアによって生の声が拡散されたことを救いと考えるしかありません。
命運を決めるチェルシー戦は0-3で完敗。就任から39日での解任は、2023年にリーズを率いたサム・アラダイスの30日に次ぐ短命で、2017年のクリスタル・パレスを開幕4連敗で終えたフランク・デブールの半分です。「アスレティック」のレポートを読むと、火中の栗を拾った60歳の意監督の終わり方は、これまでのどの監督よりも残酷だったようです。
「ノッティンガムの新しいアパートに引っ越したばかりだった監督は、シティ・グラウンドでのホイッスルの10分後、トンネルエリアでゲオルゲ・シリアノスTDと短い会話を交わし、運命を知らされた。フォレストの監督として、ホームのロッカールームに入ったのは3度目だった。最後の行為は、選手たちに声をかけること。もっと多くのことをしてあげられたのに申し訳ないと告げ、残りのシーズンの健闘を祈ると伝えた」
チェルシー戦の後、大半のサポーターが去ったシティ・グラウンドのピッチでスタンドを見つめていた監督は、これから起こることがわかっていたのでしょう。堅守速攻のヌーノとアンジェボールの相性の悪さは、招聘する前からわかっていたはずです。ひとつでも勝っていれば、もう少し時間を与えられたのか。サポーターや選手の支持があれば踏み止まれたのか…。
8試合という短いチャレンジで任を解かれようとしている指揮官を見ながら、今季のプレミアリーグで評価を高めている2人の監督の顔が頭に浮かんでいました。2023年6月にボーンマスと契約したアンドニ・イラオラは、プレミアリーグの最初の9試合は3分6敗でした。イラオラとポステコグルーの明暗を分けたのは、「カラバオカップのスウォンジー戦」だったのかもしれません。
イラオラは追加タイムのゴールで2‐3の勝利。ポステコグルーは追加タイムに2発喰らって3‐2の逆転負けでした。同じ大会、同じクラブ、同じスコアで片やは勝ち、もう一方は負けてしまった…。「監督は結果がすべて」という言葉に深くうなずくしかありません。もうひとりは、2024年2月にロイ・ホジソンの後を継いだオリヴァー・グラスナーです。
就任時に14位だったクリスタル・パレスは、ラスト7戦を6勝1分で駆け抜け、10位でフィニッシュ。クラブを残留させた指揮官は、2024-25シーズンの最初の8試合が3分5敗という厳しいスタートでした。彼もイラオラと同様に、カラバオカップでノリッジに勝っています。ホームでチャンピオンシップのクラブに敗れていたら、その後のFAカップ制覇はなかったかもしれません。
グラスナー監督には「前科」があります。2021年5月に就任したフランクフルトは、ブンデスリーガを5位で終えたばかりで、次なる目標はCLの出場権でした。ところが開幕からの10試合は1勝6分3敗で15位。「アウェイでバイエルンに勝っただけ」という不思議なチームは、その後立ち直ったのですが、ラスト8試合を5分3敗と停滞し、結局11位に終わっています。
ブンデスリーガで中位をさまよっていたチームが、無敗でヨーロッパリーグを制するとは誰も想像できなかったでしょう。クラブ史上初のCL出場権をもたらした指揮官は、翌シーズンの後半の不振を咎められ、契約を満了せずにフランクフルトを離れています。「最悪の事態になる前に手を打つべきか、時間を与えるべきか」という議論は、永遠に決着しないのでしょう。
サウス・メルボルン、ブリスベン・ロアー、オーストラリア代表、横浜F・マリノス、セルティック、スパーズ。6つのクラブでトロフィーを獲得した指揮官は、充電期間に入るのでしょうか。「ヨーロッパリーグは素晴らしかった」。あの背中に声をかけるとすれば、サン・マメスで敗れたクラブのサポーターとして、最大限のリスペクトを込めたひとことしか思い浮かびません。
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