偏愛的プレミアリーグ見聞録

ノースロンドンダービーは4-1の完敗、パルク・デ・プランスのチャンピオンズリーグは5失点の惨敗。直近の2試合で9失点を喫したため、スパーズを率いるトーマス・フランク監督に対する風当たりが強くなっているようです。「テレグラフ」のマット・ロー記者は、「プレミアリーグにおける先発メンバーの入れ替えが多すぎる」と指摘しています。

12節までの先発メンバーの変更は、延べ29人。彼らより多いのは、未勝利で最下位のウルヴスと、ターンオーバーを駆使するチェルシーだけです。「アスレティック」のジャック・ピット・ブルック記者は、「リーグ戦のホームゲームでわずか1勝という現状を変えられなければ、サポーターの支持を得られず、チームを軌道に乗せられない」と伝えています。

「今までのスパーズは、サポーターの怒りがダニエル・レヴィに向いたら、批判の矛先を変えるために監督が職を失うのが定番だった」。記者の頭のなかにあるのは、2021-22シーズンのヌーノ・エスピーリト・サントでしょう。同郷のジョゼ・モウリーニョが失敗し、後を継いだ指揮官は、そもそも2年契約と信頼されておらず、5勝5敗でクラブハウスから追放されてしまいました。

トーマス・フランクの最初の12試合は、5勝3分4敗。チャンピオンズリーグは2勝2分1敗で、カラバオカップは4回戦でニューカッスルに2-0で敗れています。早々にアウトとなったヌーノ監督と、さほど変わらない戦績といわれれば否定できません。地元のライバルに力の差を見せつけられた後、欧州で5失点という流れを見て、記者のみなさんがざわつくのは理解できます。

しかし今、このクラブに財布の紐が堅い会長はいません。新たな経営ボードは、現状を冷静に見るべきです。昨シーズンのスパーズはプレミアリーグで17位に沈んでおり、新監督のタスクはスクラップ＆ビルドです。土曜日に敗れた相手は、プレミアリーグで最も完成度が高い首位チームで、ミッドウイークは欧州王者とのアウェイゲームでした。

ノースロンドンダービーは、指揮官のミスジャッジといえるでしょう。ペドロ・ポロを外してダンソを入れた3-4-2-1は機能せず、大半の時間を5-4-1で過ごしていました。急造の5バックは連携不足で、中央のスペースをうまく使われてしまい、ラインの裏に出てくるボールにもうまく対応できませんでした。

シュートゼロで2-0の前半を失敗と認めた指揮官は、ダンソをシャビ・シモンズに代えて巻き返しを図ったのですが、後半開始早々のエゼの追加点が激痛でした。リシャルリソンの超ロングシュートは、焼け石に水という言葉がぴったりです。キレキレのエゼとぶつかったのも不運だったといえるなら、パリ戦のヴィティーニャも災難でした。

5-3の乱打戦の失点を振り返ると、ヴィティーニャのスーパーショット2発はお手上げというしかありません。2-2からの3点めは、ビルドアップでのロメロの判断ミス。4点めはCKからの混戦で、最後は至近距離からのシュートがロメロの手に当たる無情のPKでした。最終ラインが混乱気味だったとはいえ、シュート数は15対11とさほど差はなく、不運な負け方ともいえます。

指揮官の失敗はアーセナル戦の戦術選択で、パリ戦は収穫も多い一戦でした。先制のシーンは、ジェド・スペンス、ベリヴァル、アーチー・グレイの左サイドの攻略は見事で、コロ・ムアニのヘッドでの折り返しも、頭で押し込んだリシャルリソンのポジショニングも秀逸でした。新監督の下で調子を上げているリシャルリソンは公式戦6ゴールで、既に昨季の数字を上回っています。

リシャルリソンとコロ・ムアニの2トップが機能したのも、今後につながるポジティブな要素です。豪快なボレーと強引な突破で2ゴールのコロ・ムアニは、ソランケが復帰しても出番を得られるでしょう。これまで不遇だったアーチー・グレイも、中盤センターの選択肢に組み込まれるのではないでしょうか。

スパーズのスカッドを見ると、新監督はこの状態でよくやっていると思います。長期離脱のソランケ、クルゼフスキ、ジェームズ・マディソンと、アメリカに旅立ったソン・フンミンは、昨季プレミアリーグでトータル32ゴール。チームの半分を占めるゴールを決めた主軸を失いながら、リーグ5位の20ゴールでTOP4に3ポイント差の9位は、まずまずの滑り出しといえます。

6人でまわしている脆弱な最終ラインは、トーマス・フランクの問題ではなく、補強費用をケチった前会長を詰めるべきです。上位進出をめざすなら、冬の補強は必須でしょう。ジョアン・パリ―ニャとモハメド・クドゥスは大当たり。シャビ・シモンズとコロ・ムアニのフィット感が高まれば、ホームのノースロンドンダービーでリベンジを果たせるかもしれません。

チェルシー戦とアーセナル戦で前線をうまく動かせなかったトーマス・フランクは、パリ戦では4-2-2-2を採用して攻撃力を高めています。自在な戦術選択も、新監督の強みのひとつです。直近の9失点は、立て直しのプロセスで生じた軋みと捉え、チャレンジをポジティブに評価してもいいのではないでしょうか。クロップもアルテタも、最初のシーズンは8位で終わっています。