偏愛的プレミアリーグ見聞録

10月頭に「タイムズ」、今回は「エクスプレス」。就任初年度でプレミアリーグを制したアントニオ・コンテ監督が、今季限りでクラブを離れたがっているという報道が続いています。一般的な指揮官の辞任理由は「不振による解任」「勇退」「キャリアアップ」「クラブとの対立等による指揮官自らの決断」の4つに分かれますが、ここ数年のプレミアリーグにおいて引退以外の理由で自ら身を引いた指揮官は、クリスタル・パレスの補強に対する姿勢にNGを突き付けたトニー・ピューリスぐらいです。4-2-3-1が主流だったプレミアリーグに3バックを持ち込み、ブームの仕掛け人となったイタリアの名将がたった2年で辞任とというのは相当なインパクトです。

遡ること2か月半、7月に中国にて「デイリー・ミラー」の取材を受けたコンテ監督は、「とても厳しい1年だった。私も家族もつらい状況に陥り、プレミアリーグ優勝が決まった後にロンドンを去ろうかとも考えた」とコメントしています。「エクスプレス」は、このとき踏みとどまった理由を金銭的なペナルティと伝えており、7月に結んだ2019年までの新契約は、サラリーUPよりも退団条件の緩和のほうに主眼が置かれていたのかもしれません。「Conte eyes Chelsea exit ‘at end of season’（コンテ監督はシーズンの終わりにチェルシーを出ることを視野に入れている）」と題された「タイムズ」の記事は、最近イタリアのラジオ番組に出演したコンテ監督が「イタリアを恋しく思う。戻りたい」とこぼしたと報道。ロンドンになじめなかったのか、故郷が懐かしくなったのかはともかく、最大の理由はイングランドでの生活が快適ではないことのようです。

さらに「タイムズ」が指摘しているのは、チェルシー経営陣との軋轢です。ロマン・アブラモビッチオーナーと、その右腕のマリナ・グラノフスカイア氏らとうまくいっておらず、2年続けて意中の選手を獲得できないままに9月を迎えたといわれています。クラブからすれば、プレミアリーグで勝った監督にとって、次なるモチベーションは自分が納得いくチームを率いての連覇と欧州制覇だったのではないかと思われます。7月に、「契約延長は信頼の証。今季は国内だけでなく、チャンピオンズリーグでも成功してくれると信じている」と語ったグラノフスカイア氏とは、目線合わせができなかったのでしょう。バカヨコもモラタも先発で使えなかった開幕戦でバーンリーに敗れた後、マティッチ放出について「クラブに聞いてくれ」とコメントした指揮官は、補強のスピードも人選も、若手を大量にローン移籍させたクラブの方針に対しても不満があったに違いありません。

コンテ監督は、新契約を締結する際にも期間延長は断ったといわれています。クラブと指揮官は、もう1年はとにかく一緒にやるということ以上は握れなかったのかもしれません。これが事実であれば仕方がないのですが、私が心配なのは、選手たちのモチベーションです。ハリー・レドナップにイングランド代表監督就任の噂が立ったときのトッテナムや、1月末に次季のペップ就任が発表された際のマンチェスター・シティなど、監督の辞任が取り沙汰されたチームの士気が下がった過去事例をどうしても思い出してしまいます。ただでさえモラタとカンテを失ったチームは、指揮官がイタリア復帰を目論んでいるという話をスルーできるのか。ペジェグリーニ監督のマン・シティは、ペップの名前が出た後の2ヵ月を2勝1分4敗という散々な戦績で終わらせています。昨季叩き出したプレミアリーグ30勝という新記録は、指揮官の情熱によるところも大きかったのではないでしょうか。ローマ、ワトフォード、エヴァートン、マンチェスター・ユナイテッドと難敵が続くチェルシーが、どんな戦績で秋を終えるのかに注目したいと思います。