あのとき、彼と出会えていれば。「It’s over」~極私的モウリーニョ論
「何も話さないよ。すべては終わったことだ」と応えた55歳の元監督は、「今なお、サポーターに私の感情についてシェアする必要があるのか」とコメント。「多くのいいことがあり、いくつかよくないこともあったが、それをいうのは私の流儀ではない」と続け、終わったことについて語るマネージャーには批判的であると自らのスタンスについて説明しています。
「Manchester United have a future without me and I have a future without United」
ショッピングもしたいし、散歩もしたい。黒いキャップを深々とかぶり、微笑を浮かべながら丁寧に話す彼の表情は、CLのヤングボーイズ戦でフェライニがゴールを決めた瞬間、ボトルケースを破壊した人物とは別人でした。モウリーニョさんがまくしたてたかのように、あるいは皮肉を込めて語ったかのように伝えるメディアもあるようですが、2分弱の間、彼は終始ピュアで柔和でした。「スカイスポーツ」の映像は、静かに発したこんな言葉で締めくくられていました。
「Manchester United is past」
それを聞いた瞬間、ああ、終わってしまったのだなと痛切に思いました。プレミアリーグで優勝したならいざ知らず、ヨーロッパリーグとキャピタルワンカップを制した後に不振とトラブルによってクラブを離れたとなれば、マンチェスター・ユナイテッドが彼を呼び戻すことはないでしょう。2013年の夏、サー・アレックス・ファーガソンが勇退したあのタイミングで、モウリーニョ監督とともにプレミアリーグを戦えなかったことが残念でなりません。国内リーグとチャンピオンズリーグの勝ち方を熟知していた彼なら、リオ・ファーディナンドやヴィディッチ、キャリック、ルーニー、ファン・ペルシといったベテラン勢を納得させ、頂点に向かえたのではないかと思います。今でも。
ここ数日、モウリーニョ監督の関連記事を3つほど書き、さまざまなコメントをいただきました。多少、誤解があるようなので、この場で説明したいと思います。私は、モウリーニョ監督の退任によって、チームは落ち着きを取り戻すのは間違いないとは思っていますが、強くなるかと問われれば今後の監督次第としかいえません。チェルシー解任時に後を継いだフース・ヒディンクは、10勝11分6敗という数字を残すのが精一杯でした。今回の監督交代は、さらに悪い状態になるリスクを回避するための緊急避難策であり、上位が軒並み強くなっているなかではプレミアリーグ6位以下という着地になる可能性のほうが高いと思います。
そしてもうひとつ、「監督の補強オーダーに応えず、モウリーニョさんよりもポグバを取るようなクラブには、いい監督は来ない」という声について。監督VSスター選手とはいかにもマスコミ的で、「ザ・サン」の見出しならありなのかもしれませんが、ポグバひとりのために監督を更迭するなどといったことはありえないでしょう。解任のトリガーは、マンチェスターダービー以降にプレミアリーグとCLの最下位にしか勝っていない絶不調であり、複数の選手との関係修復が難しくなっていたと考えるのが妥当だと思われます。現地メディアが継続的に不和を報じている選手が、少なくとも5人はいます。盛っている記事もあると思われますが、火のないところにナントカで、何もない選手がここまで追われることはまずありません。
補強についても、過去3年間のプレミアリーグのクラブで最高額の移籍金を費やしたクラブであり、ストライカー、サイドアタッカー、タイプの違う3人のセントラルMF、右SB、CBが2人と指揮官のオーダーを勘案して全方位的に押さえています。今季CBを獲れなかったことがフォーカスされていますが、元々6人を抱えていたポジションゆえ、経営と指揮官の優先順位が食い違うことぐらいはあるでしょう。フェルナンジーニョの後釜が獲れなかったマン・シティ、予算にキャップがはまっていたためベテランのDF獲得に留まったアーセナル、補強ゼロのトッテナムなど、監督のオーダーを叶えられないケースはしばしばあります。マン・ユナイテッドの経営ボードに問題があるのは確かですが、「何でも彼らのせい」はフェアではないでしょう。ユルゲン・クロップとペップが、こんなことをいっています。
「彼はユナイテッドで成功したいと思っていたけど、誰もが望んでいた方法でうまくやれなかった。われわれは、結果を残さないといけない。それがこの世界の仕組みだ。私もそうだ。もし、クラブがもっとよくできる人がいると考えるなら、すぐに代えなければならない」(ユルゲン・クロップ/ガーディアンより)
「状況がよくないとき、われわれは孤独だ。私も同様にね。フットボールでは起こりえることだ。結果が伴わなければ解任されることはある。彼は私を必要としていないだろうけど、早く戻ってきてほしいと願っている」(ペップ・グアルディオラ/スカイスポーツより)
モウリーニョさんは、事情はどうあれ勝たなければならなかった。チームをモチベートしなければならなかった。勝っていれば、誰を使って誰を外してもよかった。選手たちとの軋轢も、最小限に抑えられたかもしれない。問題が小さければ、クラブは勝っている監督を支持するだけで終われた。しかし、今季のマンチェスター・ユナイテッドではそれらができなかった…。そう思うからこそ、悔しく、せつないのです。
2017年2月26日。モウリーニョ監督と彼らが、プレミアリーグのトロフィーを掲げている姿を見たいと強く思った日。神とポグバが試合後のインタビューではしゃいだ、キャピタルワンカップファイナル。厳格なファーガソンのチームを見続けてきた眼には、明るい彼らがとても眩しく、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターであり続けたことを心の底からよかったと思えた忘れえぬ時間でした。あれから、1年10か月。「Mourinho is past」。どうすればよかったのか、正解は誰にも語れません。私にもあなたにも、クロップにもペップにも、そしておそらく彼自身にも。
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いつも楽しく拝見しております。
makotoさんのエントリは試合のある日もない日も楽しみにしているのですが、私は「去る者」や「敗者」を語る際の、抑え目ながら熱を湛えた文章に何よりも心動かされます。
20年弱のアーセナルファンの私からすれば、モウリーニョ氏は決して好ましい人物ではなかったですが、彼に対するこのような惜別の念に溢れた総括を目にできることに感謝の念が起こります。
僭越ながら、ありがとうございます。
思わず、コメントを残してしまいました。
これからも楽しみにさせていただきます。