偏愛的プレミアリーグ見聞録

「マンチェスター・ユナイテッドの高額なサラリーのTOP8を見てみよう。そのうち4人をルーベンは起用できない。リヴァプールやマンチェスター・シティで同じことが起こったら、チームの精鋭の半分が消えてしまう。われわれは進歩した。非常に団結している。選手たちはマンチェスター・ユナイテッドのために全力を尽くしている」

発言の主は、サー・ジム・ラトクリフ。「テレグラフ」の取材に応じたマン・ユナイテッドの共同オーナーは、「ルーベン・アモリムの現在のスカッドは、サラリーから見ると中堅クラブと同等」と主張しています。アストン・ヴィラにローン移籍したラシュフォードは週給37万5000ポンド。テン・ハフとの関係が決裂したジェイドン・サンチョは25万ポンドです。

2023年4月に新たな4年契約を結んだルーク・ショーは週給20万ポンドですが、2023-24シーズンの公式戦出場は1180分のみ。3ヵ所の筋肉痛に悩まされ続けた今季は、98分しか出場できていません。チェルシーから移籍金5500万ポンドとアドオン500万ポンドで加わったメイソン・マウントも、2シーズン通算で先発は14試合だけで、週給20万ポンドの価値がある選手とはいえません。

そしてもうひとり、今や主軸とはいえないカゼミーロも週給35万ポンド。今季プレミアリーグの出場時間は1123分で、上から数えると14番めです。2025-26シーズンがラストイヤーとなるマグワイアは週給19万ポンド。こちらも、パフォーマンスに見合うサラリーではないでしょう。ここまでの数字を追うと、どれほどムダなコストをかけているのかと絶望的な気分になります。

サー・ジム・ラトクリフの赤裸々なインタビューを受けて、マン・ユナイテッドのサラリー事情をリサーチした「アスレティック」のローリー・ウィットウェル記者は、このクラブは放漫経営だと糾弾したいわけではありません。プレミアリーグのクラブにおける売上に対するサラリー比率を見ると、意外な事実にぶち当たります。実はマン・ユナイテッドは、極めて健全なのです。

最悪のレスターは人件費の比率が116％で、今すぐにでも選手を売らなければ破綻するレベル。ワースト2のアストン・ヴィラは96％です。大量の選手を抱えるチェルシーは72％で、下から10番め。サラリー総額が4億ポンド以上でリーグTOPのマンチェスター・シティは、売上を伸ばして58％に抑え、16位となっています。

マンチェスター・ユナイテッドは、昨季のプレミアリーグ王者より優秀な55％。彼らの下にいるのは、42％のスパーズと53％のアーセナルだけです。高額サラリーの選手が軒並み空回りしているのに、人件費の圧迫感がない理由は2つあります。ひとつは、チャンピオンズリーグの出場権を得られなかったら、20％～25％のサラリー減額という契約を徹底していることです。

もうひとつは、真の主軸のサラリーが安すぎること。クラブの理想のモデルはブルーノ・フェルナンデスで、スポルティングCPから移籍したときは週給10万ポンドでした。リスボンの倍額を得たプレーメイカーは、2020-21シーズンにプレミアリーグ37試合18ゴール11アシストという数字を残し、2022年4月の契約延長で週給25万ポンドに駆け上がりました。

その後も活躍を続けた29歳のキャプテンは、昨年の8月に新たな3年契約を結んでいますが、重要だったのはサラリーの増額ではなく長期間のコミットメントだったようです。3‐4‐2-1の主軸を見ると、リサンドロ・マルティネスは週給12万ポンド、ガルナチョは5万ポンド、冬に加わったドルグは4万ポンド。急激な成長に評価がついていっていないメイヌーは、2万5000ポンドです。

つまりマン・ユナイテッドは放漫経営ではなく、そもそも選手の評価がメチャクチャということになります。いや失礼、ここはフラットな表現にしましょう。「直近の状況変化に伴い、余剰戦力の売却と給与体系の見直しが必要になったクラブ」でいかがでしょうか。数字を見ているうちにドキドキが止まらなくなり、この気分をおすそ分けしたいと思い、まとめた次第であります。