2025.10.13 マンチェスター・ユナイテッドの話題アーセナルの話題
サー・ラトクリフの言葉に現地記者が反論!「アルテタVSアモリム」の記事を読み比べてみました。

「フットボールは一夜にしてうまくいくものではない。3年はかかる。アルテタを見てもわかるだろう。彼も最初の数年間は、惨めな時期を過ごした」。これを聞いて、ルーベン・アモリムとミケル・アルテタを徹底的に比較しようじゃないかと立ち上がったのが、「テレグラフ」のサム・ディーン記者と「スカイスポーツ」のニック・ライト記者でした。
ロジカルかつシャープな論調で、多様なテーマに持論をぶつけていく記者の存在は、プレミアリーグの話題を追うのは楽しいと思える理由のひとつです。マンチェスター・ユナイテッドの共同オーナーは、アーセナルの監督が最初の2シーズンを8位、8位で終えたことを指摘したのですが、「アルテタと一緒にすんな」と斬り込んだ2人の記者は、いずれも最初に戦績を突き付けています。
就任からの50試合を見ると、アルテタは27勝10分13敗でアモリムは19勝12分19敗。ゴール数はアーセナルが79で、マンチェスター・ユナイテッドは78と僅差ですが、失点は48対76でアルテタが圧倒的に勝っています。クリーンシートは18試合と8試合。3失点以上のゲーム数を比較すると、アルテタは3試合でアモリムは9試合と、その差は3倍です。
フレディ・リュングベリからバトンを渡されたときは10位で、順位を2つ上げたアルテタに対して、アモリムはテン・ハフの14位からひとつ落としています。2019-20シーズンのアーセナルはFAカップ制覇、2024-25シーズンのマンチェスター・ユナイテッドはヨーロッパリーグ準優勝。トロフィーを手に入れたか否かの違いも大きいと認めざるを得ません。
両者ともに「アルテタのほうが勝っている」「守備力に差がある」と主張しているわけですが、調べればすぐにわかる数字の話で終わらせるつもりはないようです。自らの記事に「ラトクリフはナンセンス」というタイトルを付けたサム・ディーン記者は、「アルテタの実用主義VSアモリムの教条主義」と見出しを立てて、アプローチの違いを鮮明にしています。
「2019年12月にアルテタが監督に就任したとき、エミレーツで攻撃的かつポゼッション重視のスタイルを確立すると予想されていた。アルテタはそれまでの3年間、マンチェスター・シティでペップ・グアルディオラのアシスタントコーチを務めていたのだ。しかし彼はすぐに、システムに固執すれば選手たちの欠点が露呈し、状況がさらに悪化すると悟った」(サム・ディーン)
前線はいじらず、後方からのビルドアップの改善に注力した新指揮官は、3バックで引いて守る戦い方に徹してFAカップを制しています。準決勝のマン・シティ戦はポゼッション29%で2-0、ファイナルのチェルシー戦は40%で2-1。「テレグラフ」の記事は、自らの理想よりスカッドのポテンシャルを最大限に活かすことを選んだ実用主義者のコメントを紹介しています。
「われわれは4-3-3のシステムへの移行をめざしているが、そのためにはそれぞれのポジションに高い専門性を求めなければならない。今は5~6のポジションが条件を満たしていない。プロセスを急いで、選手たちに不可能な要求を押し付けるつもりはない。それは生産的ではないからだ」(ミケル・アルテタ)
対してアモリムは就任初日から、「3-4-2-1で戦う。妥協は絶対にしない」と明言しています。「アルテタは選手に合わせて戦術を調整した。一方のアモリムは、選手を戦術に合わせるよう試みてきたが、これまではほぼ失敗している」。2人の考え方は真逆と評したサム・ディーン記者は、戦力の取捨選択も対照的といっています。
サカ、スミス・ロウ、エンケティアらアカデミー出身の選手を育てようとしたアルテタは、オーバメヤンやエジルなど高額サラリーでコスパが悪かった選手を手離しました。アモリムは、アカデミー時代から人気のラシュフォードやガルナチョとの関係が悪化し、メイヌーもうまく活用できていません。彼が重用する既存戦力はベテランが多く、夏に大型補強を敢行しています。
「スカイスポーツ」のニック・ライト記者のレポートは、最初の50試合のデータとフォーメーションの比較に徹しているのですが、サム・ディーン記者が指摘する戦力の選択について移籍金の観点で分析しています。資金を得られなかったアルテタの初期の強化は、ローン移籍とフリートランスファー頼みで、トーマス・パーティーとガブリエウに8150万ポンドを投じただけでした。
これに対して、3-4-2-1にフィットする選手を求めたアモリムは、2回のマーケットで2億5000万ポンド以上を費やしています。シェシュコ、エンベウモ、マテウス・クーニャ、セネ・ラメンス、ディエゴ・レオン、パトリック・ドルグ、エイデン・ヘヴン。成功か失敗かは、シーズンが終わってから語られるべきですが、アルテタよりリスキーなアプローチとはいえるでしょう。
サー・ラトクリフが「3年はかかる」という自説を裏付ける事例として、「最初は散々だったけど、後に成功したアルテタ」を持ち出したのなら、「彼はそんなに失敗しておらず、むしろ丁寧に巻き返しを図ったと評価すべき」とフォローしたくなります。事実ベースでロジカルに反論してきたサム・ディーン記者は、辛辣な一文で記事を締めています。
「つまり、こういうことだ。マンチェスター・ユナイテッドの経営ボードが、アルテタの仕事をアモリムが踏襲すべき青写真と見做しているなら、彼らはノースロンドンで実際に起きたことを完全に誤解しているか、あるいはヘッドコーチに方針を根本的に変えるよう促す必要があるということになる」
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