偏愛的プレミアリーグ見聞録

長い不振に陥ったGKの多くは、メンタルに問題を抱えていたのだと思います。2000-01シーズンにユヴェントスでエラーを連発したファン・デル・サールは、勝てばセリエA制覇に近づくローマとの天王山で中田英寿のシュートをファンブルしてしまいました。2-2に追いつかれた責任を背負わされたGKは、ジャン・ルイジ・ブッフォンを獲得したクラブでサブのポジションに甘んじるのを拒否。移籍先はプレミアリーグに昇格したばかりのフラムで、アヤックス時代の輝きを取り戻すまでに2シーズンという長い時間が必要でした。

ダヴィド・デ・ヘアを普通のGKに変えてしまったのは、2018年6月15日に開催されたFIFAワールドカップロシア大会の初戦だったのではないでしょうか。プレミアリーグNo.1と称されていた守護神は、ポルトガル戦でクリスティアーノ・ロナウドのシュートをキャッチできず。ダメージを払拭できなかったのか、その後のゲームでも低調なプレイに終始し、口の悪いメディアがワースト11に選出するほどのひどい出来でした。2017-18シーズンにクリーンシート18試合でゴールデングローブを獲得し、プレミアリーグTOPのセーブ率80.7％を記録していたスペイン代表は、翌シーズンから大きく数字を落としています。

2018-19シーズンはクリーンシートが7試合に激減し、セーブ率71.6％はリーグ7位。2019年3月10日のアーセナル戦で、シュート回転がかかったジャカのシュートに対して逆に動いてしまったGKは、エヴァートン戦でミドルを処理できずに4失点を喫し、失意のうちにシーズンを終えました。昨季プレミアリーグはクリーンシート13試合で、セーブ率73.6％はシェフィールド・ユナイテッドに貸し出されていたディーン・ヘンダーソンを下回る5位。前年よりはよくなりましたが、復活を遂げたといえるパフォーマンスではありませんでした。

6月のトッテナム戦でベルフワインのミドルを弾き出せず、FAカップ準決勝のチェルシー戦でもメイソン・マウントが正面に打ったシュートをセーブミスしたのを覚えているサポーターは少なくないでしょう。新しいシーズンもミスを重ねれば、スールシャール監督は躊躇なくディーン・ヘンダーソンをレギュラーに据えるはずです。

2018年の夏にチェルシーにやってきたケパ・アリサバラガについては、プレミアリーグ初年度のセーブ率はリーグ15位の67.5％と芳しくなかったものの、ビッグセーブも多くまずまずのシーズンだったと記憶しています。GKとして最高額の移籍金が話題となったGKが「ミスが多い」といわれるようになったのは、昨シーズンの序盤戦からでした。セーブ率54.5％はぶっちぎりの最下位。前に出てキャッチすべきボールに反応せず、DFに叱咤されるシーンが目立つようになり、若いCBやSBを落ち着かせることができませんでした。

チェルシーのシーズン54失点は、モウリーニョ解任というトラブルがあって10位に沈んだ2015-16シーズンを上回っており、アブラモヴィッチ体制でワーストです。CL決勝でキックミスとファンブルをやらかし、トルコにレンタルされてもイージーなミスが減らなかったロリス・カリウスのようなトラウマはないものと思われますが、先週末のリヴァプール戦でマネにキックをさらわれたケパもまた、メンタルに問題を抱えているのではないでしょうか。

クラブが復活を待ってくれる期間は、長くて1年。ファン・デル・サールはブッフォンの控えと通告され、ロリス・カリウスはアリソン・ベッカーに押し出され、ディーン・ヘンダーソンを復帰させたマンチェスター・ユナイテッドもデ・ヘアを発射台に乗せた感があります。チェルシーも、これ以上我慢し続ける気はないようで、新たなGKを獲得間近と伝えられています。

「スカイスポーツ」によると、レンヌのGKエドゥアール・メンディがメディカルチェックを通過し、入団が確定的になっているとのこと。ペトル・チェフのアドバイスを重視するランパード監督は、既にお墨付きを得ており、次節のWBA戦がセネガル代表GKのデビュー戦となる可能性が高まっています。どうする、ケパ・アリサバラガ。ファン・デル・サールやロリス・カリウスのように格下のクラブで再起を図るか、クルトワとレギュラーを争うと宣言したペトル・チェフに倣って1年は踏みとどまるか。レノの控えというポジションを嫌い、アストン・ヴィラに移籍したエミリアーノ・マルティネスは、初戦でPKを止めてヒーローになっています。

リーグアンからやってくる新GKに注目しつつ、窮地に追い込まれたスペイン人の決断も気になっています。プレミアリーグで新天地を求めるなら、サム・ジョンストンのWBAでしょうか。トランスファーマーケットのデッドラインデーまで残り13日。2億ポンド以上を投資したチェルシーの最後のディールは、リフレッシュが必要な25歳のGKの新たなステージ探しとなりそうな雲行きです。