偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグ14節のエヴァートン戦を落とし、4勝2分8敗で15位。7試合連続勝利なしという大スランプに陥ったミケル・アルテタは、2015-16シーズンに4勝3分9敗という不振に陥り解任されたジョゼ・モウリーニョと同じ道を歩いているように見えました。15節は、チェルシーをエミレーツに迎えるビッグロンドンダービー。「負けたら解任」と煽るメディアもあった絶体絶命の状況で、若き指揮官は平均年齢19.3歳の2列めというギャンブルに打って出ました。

エミール・スミス・ロウは20歳、ブカヨ・サカとガブリエウ・マルティネッリは19歳。ビッグ6との直接対決となれば、昨季プレミアリーグで22ゴールのオーバメヤンや、初年度に31試合5ゴール6アシストという数字を残したニコラ・ペペを起用したくなるものです。レギュラーに定着していたサカはともかく、プレミアリーグの出場経験が2試合しかなかったスミス・ロウを抜擢するなどという芸当は、なかなかできるものではありません。

フランク・ランパードとのOB監督解決は、ティアニーがゲットしたPKとジャカの素晴らしいFKで2-0とリード。信じて送り出したスミス・ロウは、55分にサカのループシュートをアシストしました。3-1快勝とギャンブルに勝った指揮官は、ブライトン戦でも彼らを起用。ラカゼットの1発で辛勝した試合で、マルティネッリが空回りしていると見て取るや、WBA戦ではラカゼットの後ろにオーバメヤン、スミス・ロウ、サカを並べる布陣をチョイスしました。

ティアニーのコントロールショットで先制した試合は、サカが追加点をゲットして前半を終え、後半にラカゼットが2発叩き込んで0-4圧勝。現地メディアの注目を集めたのは、チェルシー戦以降の3試合で2ゴール1アシストのサカよりも、コンビネーションプレーが光ったスミス・ロウでした。圧巻だったのは、サカのゴールをお膳立てした2点めのパフォーマンスです。

ベジェリンからのパスをダイレクトでサカに当て、右からスプリントしたプレーメイカーは、ポストに入ったラカゼットのダイレクトパスを受けて縦にワンタッチ。中央から抜けてきた7番が走り込むコースに完璧なグラウンダーを転がし、無人のゴールに流すだけのイージーなフィニッシュをアシストしました。

32分の左サイドの崩しも、スミス・ロウの素晴らしい演出に目を奪われました。CKを蹴ったサカがクリアを拾い、左サイドのプレーメイカーに預けると、斜めのパスでティアニーを走らせて中央に入り、巧みなワンツーでラカゼットをフリーにしました。クラブOBのマーティン・キーオンさんは、2点めのアシストを「アンリの動きに対応するピレスを思い出させてくれた」と絶賛。スムーズなパスアンドムーヴと、的確なプレイ選択をリスペクトしています。

「スミス・ロウは、パスを出した瞬間に走り出す。ユースで一緒にプレイしていたサカの動きは、わかっているのだろう。彼のプレイに、とても感銘を受けている。メスト・エジルが果たすべき役割をこなしている。監督が求めていたのは、こういう選手なのだということがよくわかった」

「スカイスポーツ」のニック・ライト記者も、スミス・ロウのファンになったようです。「アーセナルに不足していたクオリティをもたらした（Emile Smith Rowe gives Arsenal the qualities they previously lacked）」と題した記事で、パスMAPを掲載。左右のサイドでスペースを見つける動きと、ボールをもらった後のアクションの速さこそが真骨頂とレポートしています。WBA戦の77分に交代した時の「走行距離10.1km」「平均速度7.71km / h」「スプリント13回」はいずれもNo.1。守備におけるボール奪取とインターセプトも、アルテタ監督が3試合連続で起用した理由のひとつでしょう。

冬のマーケットで攻撃的なMFを獲得するといわれているアーセナルは、ヴェンゲルサッカーの香り漂うスミス・ロウとマルティネッリに未来を託してもいいのかもしれません。次節のプレミアリーグはクリスタル・パレス、その後はニューカッスル。両者とも引いてカウンターに徹するはずですが、WBA戦で見せた速い崩しの再現を期待しましょう。次こそは、ゴールを！